【SIDE　ナイジェル】

僕が人をせなくなったのはいつ頃だろう。

僕——ナイジェルは、先ほどエリアーヌと言葉をわしてから、ずっとそのことを考えていた。

第一王子という分もあるので、今まで僕には々なが婚約を求めてきた。

しかしダメだった。どんなを見ても、どうしても好きになれないのだ。

それでも、なんとか『好き』になろうと努力をして、我慢してと話したことも何度かある。

でも……やっぱりダメ。

が楽しそうにしている顔を見ても、何故だか僕の心は空虛なもので、満たされることはなかった。

もちろん僕は王子という立場だ。

ただ『好き』というだけで、結婚なんて出來るはずもないんだけど……それでも、どうしても「この人と結婚するんだ！」というイメージが湧かなかった。

そんな時、僕はエリアーヌに出會った。

彼を最初見た時、中に電撃が走ったかのような衝撃を覚えた。

——なんてしい人なんだ。

それからの僕はどうもおかしい。

彼を見ると、普段の自分を見失ってしまう。

彼と話すだけで、が躍る自分がいることが分かった。

エリアーヌと出會って、まだ短い時間しか経っていないけど、僕はいつしかこう思うようになった。

彼ともっと一緒にいたい……と。

「全く、どういうことなんだ？　僕らしくない」

先ほど、ルーフバルコニーで彼と話した時を思い出す。

僕の予想通り、彼は隣國の聖であった。

変だと最初に思ったのは、規格外な治癒魔法を目の當たりにしてから。

そして……疑問がさらに確信に近付いたのは、彼がフェンリルのラルフと心を通わせていた時だ。

フェンリルという種族は、相手のことを認めないとらせてくれさえしない。

しかもラルフはそんなフェンリルの中でもさらに特殊で、なかなか僕と父上以外には懐かなかった。

そのせいで使用人達が餌をやるのも苦労するほどだ。

しかし……エリアーヌはどうだろう

たとえ治癒目的であっても、ラルフは簡単に自分のをらせない。

僕や父上が傍にいて、やっと……といったところだ。

だが、彼は一人でラルフに歩み寄っていった。

正直「な、なんて危ないことを！」と心慌てていた。

しかし予想に反して、エリアーヌはラルフのを容易にでた。

さらにそれだけではない。

ラルフにって、庭を散歩し出したのだ！

これには僕、そして父上も驚いた。驚きすぎて一瞬言葉を失ってしまったほどだ。

彼が優秀な治癒士だったから？

彼が聖だったから？

いや違う。それだけの理由であそこまでフェンリルは人に懐かない。

フェンリルはこう言われる。

『フェンリルは高潔な魂を持つため、相手が清らかな心の持ち主でなければ、決して心を開こうとしない』

きっと一発でラルフと打ち解けた彼は、この上なく澄み切った心の持ち主なんだろう。

素直にそう思った。

——それから彼のことをさらに細かく調べた。

もちろん、たとえ命の恩人だろうと素を調べるのは國としての役目だ。なにかがあってからでは遅いからである。

しかし僕はいつしか公私混同してしまっていたのかもしれない。

彼のことをもっと知りたい。

そういう個人的な思いに僕は突きかされていた。

彼について調べれば調べるほど、謎が深まった。

なんせ素が一切出てこなかったからだ。

規格外の治癒魔法。

フェンリルと一発で打ち解ける心の持ち主。

そういった人に、一つだけ心當たりがあった。

「君がその『聖』なんじゃないか？」

僕は確信に近い考えをもって、エリアーヌにそう問いかけた。

彼は當初誤魔化そうとしていたが……噓を吐いているのがバレバレだ。追及すると、すぐに彼は『聖』であることを告白してくれた。

エリアーヌが「この國に迷がかかるかもしれないから、出て行く」と言った時、彼は泣きそうな顔をしていた。

それを見て、僕はますますエリアーヌのことがおしく思えた。

守りたい。

この人とずっと傍にいたいと。

最初父上が「エリアーヌの住むところを用意する」と聞いてから、何故だかが苦しくなった。

リンチギハムにはいるだろうが、彼と離ればなれになる？

僕は王子だ。

彼が王宮から一旦出て行ってしまえば、エリアーヌと簡単に出會うことは出來なくなるだろう。

そんなのは嫌だ！

「よかったらしばらくここに住まないか？」

気付いたら僕はそう口にしていた。

『分かりました』

とエリアーヌは幸いにも僕の提案に頷いてくれた。

よかった……。

表には出してないと思うが、あの時の僕はどれだけ安堵しただろうか。

「彼ともっと話していたい」

エリアーヌと別れ、自室のベッドに橫になって先ほどのことを振り返っていると。

そう口から聲が出ていた。

「はは、本當に僕はどうしたんだろうね。こんな気持ちは初めてだ」

僕は人をせない。

だから『好き』というが今まで分からなかった。

もしかして……これが『好き』ということなのだろうか？

自分の気持ちがよく分からないせいで、その夜はよく眠れなかった。

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