《真の聖である私は追放されました。だからこの國はもう終わりです【書籍化】》24・王城への侵

時はし遡る。

ベルカイム王國では、ドラゴンが王都の上空に現れたことにより大混

しかもいつの間にか煙のように姿を消してしまったのだから、なおさらのことだ。

だが——無論、ドラゴンは王都からいなくなったわけではない。

人の姿となり、王城の部へと侵を果たしていたのである。

「な、なんだお前は!」

「侵者だ! みんなかかれ……う、うお……!?」

うるさい蠅(はえ)共だ。

人の姿に擬態したドラゴンが城を探索していると、わらわらと兵士らしき人間が寄ってきた。

まあ仕方がない。

きやすいからこの姿になったものの、警戒態勢が敷かれている中で我のような不審な人がいるのである。

排除しようとするのは當然のことだろう……とドラゴンは思った。

しかし。

「戦うにすら値せんわ」

ドラゴンが手をかざすと、迫り來る人間達がバタバタとその場に倒れていった。

睡眠魔法である。

このような弱き者など、殺す価値もない。先ほどのクラウスのような輩なら、しは遊んでやってもいいが……そうしている時間も惜しい。

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「それにしても、やはりこの姿はきにくいな。魔力も普段の十分の一以下しか出せぬし」

そう呟きながら、ドラゴンは肩を回す。

今のドラゴンは淺黒のをした形男子の容姿をしている。

睫が長く、凜とした芯のある瞳は見る者を圧倒する。

人の姿に変した時、ドラゴンはいつもこのような格好になるのであった。

「とはいえ、この姿になるのは百年ぶりくらいだが……」

そうこうしていると、前方から十人くらいの兵士がまたもやドラゴンに襲いかかる。

「つまらん」

同じように手をかざし睡眠魔法を発し、大半を眠らせておいた。

「う、うおっ!? みんな、どうしたんだ? くっ貴様! どのような面妖(めんよう)な技を使ったのだ!」

だが、今度はその中で一人だけには魔法をかけなかった。

その兵士らしき男は槍を構えるが、足がぶるぶると震えている。

(これだけ恐怖をじているというのに、逃げないのは賞賛に値するが……)

ドラゴンは近づき、男の顎を握りそのまま持ち上げた。

「ぐあ……っ!」

「言え。そなたはクロード王子とやらの居場所を知っているか? あやつは今どこにいる?」

じっと男の瞳を見る。

「そ、そんなこと……言うわけないだろうが!」

しかし男は両足をばたつかせながらも、決して口を割ろうとしない。

クラウスの件といい、見事なものだ。腐った國だとは思うが、それでも忠誠を誓う兵士はいるというのか。

だが。

(クロード王子は防空壕に逃げられてしまった……! これをヤツに知られれば、どうなることやら)

「ほう、クロードはそこにいるのか」

「……は?」

ドラゴンが兵士の心のを読むと、彼は訳が分からず口を半開きにした。

「一お前……なにを」

「そなたにはもう用はない。邪魔だ」

「ぐはあっ!」

そのまま壁に向かって放り投げると、男は床で大の字になって気絶してしまった。

「やっとクロードの居場所を分かる者が現れたか。なかなか難儀したな」

——この兵士、先ほどクロードに進言した男だということは、ドラゴンは知らなかった。

しかし運良くぶち當たることが出來たのは、幸運だと言えるのだろうか……。

兵士の頭の中を読むと、防空壕へ続く見取り図も浮かんできた。

どうやらここから近いらしい。

「それにしても、どうして防空壕なのだ? 貴族ならば、剣を取り我と戦うのが筋であろうが……やはり臆病な人間共のやることは分からぬ」

まあいい。

「さっさと向かうとするか」

ドラゴンはその後、同じように現れる兵士達を眠らせながら、防空壕を目指した。

やがてこじんまりとした鉄製の扉の前まで到著する。

「この中か。確かに人の気配が二人分しよるな」

ドラゴンは扉に手をかけ、中にろうとした。

しかし……結界が張られている?

このままではどうも中にれそうにない。

とはいえ。

「このような薄っぺらい紙に等しい結界など、すぐに破ることが出來るが」

パリンっ。

ドラゴンが魔力を込めると、結界はガラスが割れるような音がしてすぐに解除された。

「この程度で我を足止め出來ると思っていたのか?」

バカにするのも程がある。

たとえばエリアーヌの使う結界魔法は見事なものであった。

王都……そしてこの國の領地である村や街という広大な範囲。

それなのに彼の結界はしの隙間もなく、いくらドラゴンであってもり込むことは不可能であった。

「もっとも……魔族のバカ連中ならともかく、我はエリアーヌがいる限りは無理に突破しようとも思っていなかったが」

そういえばエリアーヌがこの國にいる頃、彼に楯突くが現れたと言っていたな。

はあろうことか「自分こそが真の聖だ」とうそぶいていたという。

果たして、その『真の聖』とやらはなにをしておるのだ?

この中にいる?

「……まさかな。自分のことを聖だと言っておるのだ。このようなお末な結界しか張れないというわけではあるまい」

まあクロードと対面すれば分かることだ……さっさと話を聞かせてもらおうか。

ドラゴンは扉を押し、中にっていった。

「ど、どうしてここにってこれる!?」

った瞬間。

そのような耳障りな男の聲が真っ先に耳にった。

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