《真の聖である私は追放されました。だからこの國はもう終わりです【書籍化】》26・ナイジェルの妹はとっても可

ある朝。

私はフェンリルのラルフちゃんに朝ご飯をあげていた。

「行きますわよ……そーれ!」

「わうーん」

ラルフちゃんが犬みたいな鳴き聲を上げて、黃金の木片……もとい鰹節(かつおぶし)を追いかけていった。

「それ、味しいですか?」

味である。ただの木片だというのに、なかなかどうして……これだけ旨いのか』

木片じゃないからね。鰹節だからね。

「よしよし」

鰹節を味しそうに齧っているラルフちゃん。癒されるなあ。

ラルフちゃんを眺めながら、私はを優しくでてあげた。

本來、ラルフちゃんに朝ご飯をあげるのはアビーさんといったメイドのお仕事であった。

たまに國王陛下や、ナイジェルもあげているみたいだけどね。

だけど私が「ラルフちゃんともっと仲良くなりたい!」と進言すると、いつの間にかラルフちゃんの朝ご飯係は私になっていた。

正直暇してたところだ。

これくらいやらないと、がなまっちゃうからね。

……まあ単にラルフちゃんをもふもふしたかったとも言える。

というわけで、ラルフちゃんと楽しく戯れていると……。

「あー、ラルフにってるー!」

突如の子の聲が聞こえた。

「セシリーもるー!」

聲のする方を振り向くと、六歳くらいの小さなの子が私達のところへタタタッ! と駆け寄ってきた。

「あなたは?」

「セシリーはセシリーなの! お姉ちゃん、ラルフにっててずるいー!」

の子……セシリーちゃんはそう言って、ラルフちゃんをでようとする。

だが。

『むむむ』

ラルフちゃんはセシリーちゃんの手から逃れるように、彼から距離を取った。

こんなちっちゃな子に、そんな態度を取るなんて。

「ラルフ……めっ!」

人差し指を立てて、ラルフちゃんにそう注意する。

しかしラルフちゃんは、ばつが悪そうな顔で。

『むう……セシリーは苦手なのだ。昔はらせていたこともあったが、り方が雑で痛いのだ……』

子どもは加減なんか出來そうにないですもんね。

でもそれごときで一応かなり上位の魔にあたるフェンリルが、を上げるというのもけない。

「セシリーちゃん」

「なあに、お姉ちゃん?」

ラルフちゃんに逃げられ、ちょっとしょんぼりした様子のセシリーちゃん。

當たり前かもしれないですけど、改めて顔をじっと見ると彼のキレイさに気付く。

、むにむにのらかそうなをしている。

同じとして嫉妬してしまいますわ。

「セシリーちゃんはどうしてここに?」

「んー? 別におかしくないことだよ。だってここはセシリーのお家(うち)なんだもん!」

とセシリーちゃんは両腕を広げた。

セシリーちゃんのお家。

薄々勘付いていたが、もしかしてこの子……。

「やあ、エリアーヌ。お早いお目覚めだね」

そうこうしていると、中庭にナイジェルも姿を現した。

「ナイジェルこそ」

「早く起きて雑務を片付けないといけないからね。早起きするのが、癖になっているんだ」

ナイジェルが苦笑する。

次に彼はセシリーちゃんを見て。

「セシリーも早いじゃないか」

「うん!」

「いっつも寢坊するのに」

「にいにには負けてられないの! セシリーも早起き頑張るの」

「……三日前にもそれを聞いたけどね」

親しそうにナイジェルがセシリーちゃんと話している。

セシリーちゃんもナイジェルに懐いているようで、彼に頭をなでなでしてもらって気持ちよさそうだった。

「ナイジェル。もしかしてその子……」

「ん? まだ紹介してなかったけ。セシリー、僕の妹さ」

ですよねー!

そんな気がしてました!

ということは。

「ナイジェルの妹ということは……」

「うん。この國の第一王にあたるね」

ですよねー!

それもなんとなく分かってました!

じゃないと、こんなちっちゃな子が王城を自由に歩き回れるわけないんだもん!

「セシリー、王ー。お姉ちゃんは?」

「私はエリアーヌ。一応この城に居候させてもらってますわ」

「そうなんだー。エリアーヌ、良い匂いするから好き好き-。にいにの次に好きー」

とセシリーちゃんが私のに飛び込んできた。

無邪気な子ですわね……警戒心がないとも言える。

ナイジェルを見ると、ちょっと困った顔をしていた。

それも仕方がない。

だって第一王とあろう者が、見ず知らずの人に抱きついていますもの。

私だから良かったものの、これが変な輩とかだったら大事件だろう。

「ナイジェルにも妹がいたんですわね」

「そうだよ? 言ってなかったけ?」

「言ってません!」

「そうだっけな」

國王陛下もそうだけど、この親子は本當に説明が足りない。

セシリーちゃん、隨分ナイジェルと歳が離れているようだけど、國王もなかなかお盛んな人ですね。

まあ相手は國王なんだし、何人も子どもがいてもおかしくないんだけど。

第一王というくらいだから、正妻との間で生まれた子どもだろうか?

い、いけないいけない。つい邪推してしまった。これについては私には関係のないことですし、あまり詮索するのも悪い気がする。

「セシリーちゃん、可いですわね」

「うん。僕の自慢の妹さ……ただ」

「ただ?」

ナイジェルが言い淀んでいるのを見て、私は聞き返す。

「ちょっと困ったことがあってね。そのせいでアビーからも『なんとかしてください』と言われているほどさ」

ナイジェルが肩をすくめた。

一メイドが王子にそんなことを言えるなんて……信頼関係を築けていることがよく分かる。

「その困ったこととは……?」

「エリアーヌに言っても仕方のないことなんだけど、実は……」

ナイジェルが容を言うと、セシリーちゃんもなにも分かっていないのか「?」と首をかしげた。

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