《真の聖である私は追放されました。だからこの國はもう終わりです【書籍化】》30・市場でお買いです

ナイジェルの誕生日プレゼントにクッキーを贈るために、まずは市で材料を買い集めましょう。

というわけで、私はリンチギハムでも一際活気に満ちている『市場』へと乗り込んだ。

「安いよ、安いよー! トマトがなんと一個50ベル!」

「見てらっしゃい! 新鮮な卵がったんだ!」

「おっ、そこのお嬢ちゃん。よかったら店の中を見ていくだけでもしてみないかい?」

こうして歩いているだけでも、出店の店員に次々と聲をかけられた。

「うーん、やっぱりこの活気が市場の醍醐味ですわね!」

前々から足を運んでみたいと思っていたが、なかなか來ることが出來なかったのだ。

市場に出ているお店には基本的に安価なものが多い。

王子様のナイジェルに贈るクッキーにしては、々不適切だと考える人もいるだろう。

しかし、こういった市場にこそ意外と掘り出しがあったりする。

とはいえ、中には詐欺紛いの怪しい商品もあるので注意が必要だけど。

「予算も限られていますからね」

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あれからたまにナイジェルや、お城の人達に料理を振る舞っていたら『給金』と稱してお小遣いを貰っていた。

最初は斷っていたが「なにを言うんだい。こんな素晴らしい料理を作ってくれるんだ。それがタダだなんて……」とナイジェルに押し切られてしまった。

というわけでクッキーの材料を買うお金なら十分にある。

しかし貴族ご用達の高級店に行くと、平気で一箱10萬ベルのバターが売られてたりしていた。

さすがにそこまでいくと、予算の足が出てしまうのであった。

「えーっと、ここなんか良さそうですわね」

私はその中で、とある出店の前で立ち止まった。

「おっ、お嬢ちゃん。隨分人さんだね。もしかしてご貴族様とか?」

店員らしき人が、私に軽口を叩く。

だが、すぐに後ろからごついおじさまが出てきて、店員の頭に拳骨を落とした。

「バッカヤロー! ご貴族様がこんな店に來るわけないだろうが!」

「そ、それはそうですけど……」

「いくらキレイな相手だからといって、ナンパしてるんじゃねえ! ちゃんと仕事しやがれ!」

叱っているおじさまは、このお店の店長なのだろうか?

怒られた店員は「ちぇっ」と舌打ちをした。

「じゃあお嬢ちゃん。ゆっくり見ていってくれよ? お嬢ちゃんみたいな人だったら、しくらいまけてやってもいいからさ」

懲りずに店員が口にすると、店長のおじさまが後ろからぎろりと彼を睨んだ。

「ええ、ありがとうございます」

その様子を見て、私は微笑ましさをじて小さく笑った。

さて……気を取り直してっと。

あっ、チョコレートなんて置いているんですね。これを使ってチョコクッキーなんか使ってみるのもいいかもしれない。

キャラメルなんかも……これは目移りしてしまいますわね。

えーい! 全部買っちゃえー!

ナイジェルも味が一種類だけのクッキーより、様々な味を楽しめる方が良いだろう。

私はいくつか商品を選び、購する。

「まいどあり!」

ちなみに……ちょっとまけてもらった。予算は限られているし、幸運だった。

「あとは……バターでも買いましょうか?」

他のお店に移って、クッキーの材料を集めていく。

気さくな店員が多く、久しぶりのショッピングを思う存分楽しめることが出來た。

気付けば、長い市場の端から端まで移してしまったようだ。

「十分材料は集め終わりましたね。そろそろ戻りましょうか……」

と踵を返そうとした時であった。

「ん?」

そこで私は足を止める。

客を呼び込むためだろうか、この市場はリンチギハムの正門からってすぐのところに設置されている。

なのでここからだったら、大きなリンチギハムの正門を拝むことが出來るんだけど……。

「なにやらめているようですわね?」

門番の方が、一人の男と言い爭っていた。

「だから許可証もなく、お金もない方はリンチギハムにれるわけにはいかないのです」

「何故だ。本來なら空(・)からってもいいが、行儀良くり口からろうとしているのだぞ。我の意志を尊重しろ」

どうやら門番と言い爭っている男は、リンチギハムにりたいらしい。

「なんでしょうか」

首をかしげる。

本來ならそう思うだけで、首を突っ込もうとしなかっただろう。

門番の方はちゃんと仕事をしている。部外者である私が変に口を挾んで、余計トラブルになっても困るだろうから。

だけどなんだろう……なんかもやもやする。

門番と言い爭っている男が、とてもじゃないが初対面だとは思えなかったからだ。

どうしてでしょう?

確かに初めて見る方だと思うんだけど……。

し話だけでも聞いてみましょうか」

私は意を決して正門に近付き、

「あの……どうかされましたか?」

と門番に話しかけた。

すると門番は「あ」と聲をあげる。

「あなたはエリアーヌ様ですね。ご無沙汰してます。僕のこと、覚えていますか?」

「ええ、もちろん。確か私が最初、リンチギハムにやって來た時に対応してくれた方ですわよね」

「ナイジェル様のお知り合いに覚えてもらえているとは……栄です」

まあお名前とかは聞いてませんでしたけどね!

「そんなことより、なにやら言い爭っているようでしたが? お話だけでも聞かせてくれませんか?」

私が訊ねると、門番は困ったような口調で。

「はい……この男がどうしてもリンチギハムにりたいみたいでして。本來、外から來る者は出許可証か、場料として5萬ベルを払ってもらわなければなりません。それなのに、この男はどちらも持っていないようで……そんな怪しい方は、とてもじゃないですがれることが出來ません」

門番の方の話は筋が通っている。悪いのは、市ろうとする男の方に思えた。

「失禮ですが、あなたは……」

私はこの時初めて、男の顔をちゃんと見據えた。

淺黒の

顔には自信が満ちあふれているようで、堂々とした佇まいであった。

なかなか形の男ですわね。

やはりこんな人、一度見たら忘れないと思うんだけど……初対面だと思う。多分。

だけど。

「おお、久しぶりだな。エリアーヌ」

男はまるで私を舊知の友かのごとく、私に気軽に話しかけてきた。

「誰ですか?」

「我は我だ。我のことを忘れるとは、寂しいぞ」

不服そうに男が言う。

だから誰なのか分からない……ん、ちょっと待てよ?

この男包されている魔力。

もしかして……。

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