《真の聖である私は追放されました。だからこの國はもう終わりです【書籍化】》40・偽の聖の思

「こんなつもりじゃなかった」

ベルカイム王國。

自室でクロード王子の婚約者レティシアは、爪を噛みながらそう呟いた。

「本當は今頃殿下の婚約者として、薔薇の人生を送っているはずでしたのに……」

しかしドラゴンが王都に現れるとは想定外であった。

ドラゴンが去ってなお、ベルカイム王國は混の最中であった。

無理もない。

なんせ自慢の兵士達が、たった一のドラゴンに為すなしだったのだ。

ドラゴンは「こんな國はどうでもいい」というようなことを言っていたが、次にいつ乗り込んでくるか分からない。ドラゴンが噓を吐いているかもしれないのだ。

王都の住民はそのことに不安を覚え、眠れない夜を過ごしていた。

それはクロードとて例外ではない。

『軍事面の強化だ! ドラゴンに二度とこの地を踏ませるな!』

ただでさえ王國は資金面で迫していた。愚かな王子、クロードが贅沢三昧で國庫を使い放題していたからだ。

それなのに軍事面に多額の資金を投し出した。

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クロードにしてはもっともらしいことを言っていたが、実のところは違う。

彼は怖いのだ。

『……ひっ! ゆ、夢か。またドラゴンが襲ってきたかと思った……』

夜。

寢ている時に突如クロードは起き上がり、がたがたと震え出した。

一回だけではない。累計で十回以上は発(・)作(・)が起こっているだろう。

今までクロード王子は溫室育ちだった。人に毆られたことすらなかった。

しかしドラゴンに脅迫されることにより、彼の心に初めて恐怖が芽生えた。

あれからクロードは落ち著きをなくし、レティシアと話している時もどこか上の空であった。

「そのせいで最近は、お小遣いもないし……クロードの婚約者になったからには、もっと贅沢出來るものだと思っていましたのに」

無論、レティシアに渡されるお金は『お小遣い』と呼べるような額ではない。

一月に渡されるお金はそれこそ、小國の國家予算に相當した。

だからこそ、余計に王國の財政は苦しくなっているのだが、レティシア達は気付いていなかった。

「失禮するぞ」

レティシアが考え込んでいると。

ドアがノックされ、廊下から人がってきた。

「あら、アルベルト。私の返事もなしに部屋にってくるなんて、隨分失禮ではありませんか」

「オレとお前の仲だ。気にするな」

そう言って、アルベルトと呼ばれた男は近くのソファーに腰を下ろした。

彼はこの國で數ないSS級冒険者である。

そしてとある目的から、裏でレティシアと組んでいる。

(さすがはSS級冒険者ですね……ここまですんなりと侵してきますか)

こうしてレティシアとアルベルトが會っていることは、周囲の者には

どのような手段を使ってここまで侵してきたかは分からないが、真っ當な手段でないことは確かだ。

(実力は間違いないですね。あとはもう格が良くなってくれればいいのですが……)

彼の実力を手中におさめたかったからこそ、レティシアは嫌々ながら手を組んで——いや利用しているのだが。

「私が命じていた商売の方はどうですか?」

「ああ、良い調子だよ。あんたが商品を橫流ししてくれるおかげで、アホみたいに売れる」

「ふふ、それは良かったです」

「しかしどうして、あんたはこんなことをオレに命じるんだ? まあオレを王族に加えてくれると言ってくれたから、渋々商人の真似をしているけどよ」

アルベルトは不満げに言う。

彼は『』が人一倍強い。

金銭、名譽、食……ありとあらゆるを達するために、彼はその実力をいかんなく発揮した。

ゆえにSS級に到達したとも言えるのだが。

しかし反面——を追求するために、々自分を見失ってしまう節がある。

率直に言うならバ(・)カ(・)なのだ。

それを今回、レティシアは利用した。

(王族に加えるなんて話は噓なのに、バカな男)

心レティシアはほくそ笑むが、アルベルトが察している様子はない。

には得意なことが二つあった。

一つは噓を吐くこと。

ここに至るまで様々な噓を吐き続けてクロードに近付いた。

そしてとうとう婚約者にまでなってしまったのだから、その力に疑う余地はないだろう。

そしてもう一つ——それが呪い。

レティシアはとある特殊な出自を持っている。

それは目の前の男はもちろん、クロードにも知らせていなかった。

の力をもってさえすれば、アイテムに呪いを付與することなど朝飯前だ。

それはSS級冒険者ですら気付くことが至難の業であった。

「しかしどうして、リンチギハムに高価なアイテムなんて売るんだ? お前は王國の資金集めと言っていたが……」

「何度説明したら分かるんですか?」

「何度説明されても、納得の出來る答えではないからな」

「なら答えることは同じです。あなたには知る権利がありません。あなたは私の言う通りにすればいいのです。王族になりたいのでしょう?」

「……まああんたがなにを考えていようが、オレは知ったこっちゃないけどな」

肩をすくめる。

(戦いはお上手なのに、頭の出來はあまりよろしくないですね……だからこういう風に利用されるのです)

アルベルトは近々冒険者を引退したいと考えているらしい。

戦いの日々に疲れたのだ。

引退した後は王族となって、レティシアと同じように贅沢三昧するつもりらしいが、それが決して葉わない夢であることをアルベルトは知らない。

「それで……なんの用です? 私が呼んでもないのにあなたがここに來るということは、なにか言うべきことがあったのでしょう?」

「ああ、その通りだ」

アルベルトは語り始める。

「エリアーヌってのがいたよな?」

「ええ。偽の聖ですね。もうこの國から追放されましたけど」

「それはあんたから聞いた。その偽の聖だがなんでも、今はリンチギハムにいるみたいだぞ」

「なんですって?」

一瞬レティシアは耳を疑う。

しかしすぐに表を戻して、

「……そう。まああのがどこに行こうが、知ったことではありません。私には関係のないことですので」

と口にした。

だが。

(厄介なことになりましたね……)

レティシアはアルベルトに悟られないように、心の中で考える。

の聖としての力は本だ。

まさかドラゴンを退けるような結界を張れるとは思っていなかったが……レティシアが計畫していることを、聖の力で看破してしまうかもしれない。

そうなれば計畫は全ておじゃんだ。

「なあ、レティシア……前から気にかかっていたが、本當にエリアーヌは偽の聖だったのか? あいつがいなくなってからドラゴンが國に襲ってきたそうじゃないか。まあその時はお前の命令で、リンチギハムにネックレスを売りに行ってたけどな。もしかしたら彼の力は本だったんじゃ……」

「バカなことを言うのは止めなさい!」

つい聲を大きくしてしまうレティシア。

「……わりいわりい。つまんねえことを聞いてしまったな。まあオレからすりゃあ、あいつが真の聖だろうが関係のない話だ」

アルベルトはなにを考えているのか分からない、不気味な笑い聲をらした。

「あっ、そうそう。エリアーヌについて面白いことも聞いたぞ」

「面白いこと?」

「ああ。どうやらエリアーヌってヤツは、あの國の第一王子——ナイジェルとやらに見初められたらしいぞ」

「……はあ?」

思わず間抜けな聲で聞き返してしまう。

それはレティシアにとって、もっとも聞き捨てならない言葉であった。

もしかしたらドラゴンが王國に現れた時よりも、耳を疑ってしまったかもしれない。

「あーあ、人は良いよな。國を追放されても、すぐに隣國の王子様に見初められるんだから。オレも人のに生まれたかったぜ」

「…………」

エリアーヌが……よりにもよって、ナイジェル王子に見初められた?

(そんなバカな……いえ、ないとは限りません。アルベルトはこういう時、しょうもない噓は吐きませんし……)

エリアーヌとナイジェルが仲睦まじくしている景を思い浮かべると、レティシアの心にどす黒いが生まれた。

(そうだ……! エリアーヌのせいなんです! ドラゴンが襲ってきたのも、私の計畫が狂ったのも! それに、ナイジェル王子が私(・)の(・)も(・)の(・)にならないことも!)

はその場でゆっくりと立ち上がり、部屋の片隅に置かれている一本の剣を手に取る。

もうし事態はゆっくり進めるつもりだった。

しかしエリアーヌとナイジェルのことを聞いて、今すぐ全部壊したくなった。

「これで偽の聖を殺しなさい」

が真っ赤な不気味な剣であった。

「あなたならそれが可能でしょう? こういうこともあろうかと、あなたに商人紛いのことをさせていたのです。今こそあなたの出番です」

「おいおい。そんな不気味な剣、オレがけ取るわけが……」

その時であった。

「な、なんだ、これは……!?」

レティシアの持った剣から、黒いオーラが奔流する。

オーラはアルベルトにまとわりつき、彼のを浸食。

「ぐああああああっ!」

悲鳴を上げるアルベルト。

しばらく痛みに苦しんでいたが、ゆっくりと顔を上げ、

「ははは! 最高だぜ! 今ならなんでも出來そうな気がする! お前のおみ通り、偽の聖を殺してやるよ!」

び、アルベルトはレティシアから剣をけ取った。

その目は赤くっていた。

「ふふふ。それで良いのです。私の可い坊や」

レティシアは微笑んだ。

その顔は真の聖とは思えないほど、邪悪なものであった。

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