《真の聖である私は追放されました。だからこの國はもう終わりです【書籍化】》41・忙しい朝
朝。
「なにやら騒がしいですわね……」
外がなにやら騒々しい。
そのせいでいつもよりし早めに目が覚めてしまった。
とはいっても朝は忙しいもの。
特に理由はないかもしれないが……なんか嫌な予がする。
「見に行きますか」
私はすぐに外著に著替え、廊下に出る。
真っ先に王宮に常駐している兵士達が、廊下を行ったり來たりしている景が目にった。
とてもじゃないが、なにもないとは考えられにくい。
「あの、すみません……一なにが……?」
「実は厄介なことが起こりまして……」
「厄介なこと?」
「すみません。これ以上は私の口からはとても……申し訳ないですが、失禮します」
と言って、兵士は私の前から去っていった。
他の人に話しかけようと思ったが、誰も彼もが忙しそうにしていてとてもそういう雰囲気ではない。
「ナイジェルのところに行ってみましょうか?」
迷がられるかもしれませんけど……行ってみる価値はありそうだ。
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私は忙しそうにき回っている人達を目に、ナイジェルの部屋に向かった。
「ナイジェル」
「ああ、エリアーヌ……」
いた。
部屋に到著すると、疲れているようなナイジェルの姿があった。
「一なにが起こっているのです? 厄介なことが起こったと兵士さんは言っていましたが……」
「君には隠し事が出來ないね。実は街の外……近くの森で、魔が大量に現れてね」
「魔が大量に? ですが、そこまで不思議なことではないのでは?」
「いや……それだけなら慌てる必要はない。アドルフ率いる騎士団で十分対処出來るはずだ。しかし……」
ナイジェルは真剣な眼差しのまま、話を続ける。
「魔がいつもより兇暴化している。騎士団だけでは対処出來ないほどにね」
「そ、そんなことが……一なにが原因なんですか?」
「原因は分からない。しかし騎士団からは『まるでなにかにられているような』という報告をけている。本來、魔というのもバカではない。見境なく人間を襲えば、自分達にしっぺ返しがくることも分かっている。あいつ等も相手を選ぶはずだ」
「その口ぶりだと、魔が相手を選ばずに襲いかかっていると?」
私が問いかけると、ナイジェルは首を縦に振った。
「その通りだ。それのせいで朝から騎士団は大慌てさ。冒険者も手配しているが、到底間に合わない。いくら街に結界を張っているとはいえ、このままでは近隣の他の街や村に被害が及ぶかもしれない。街の外に出ている冒険者や商人もいるんだしね。ここまで問題が大きくなれば、到底見逃すことが出來ない」
「なんてこと……なにか原因だと考えられるものはないのですか? しの手がかりでも」
「いや、まだ分からない。しかし魔と同時に、一人の男が現れたことが関係しているかもしれない」
「男……?」
どうして魔が兇暴化しているという話なのに、そこで男が現れるのだろう。
私が疑問に思っていると、先回りしたかのようにナイジェルが答える。
「魔もそうなんだが、その男とやらが強くて騎士達が苦戦を強いられている。赤の剣を攜え、魔と一緒に人を襲っていると。その姿は人間でありながら、まるで魔のようだったという報告もけている」
「謎ですね……その男が魔を率いている可能も?」
「考えにくいけどね。本來魔というのは人の命令に従わない。まだ人に友好的なフェンリルとかを除いてね。だから——これはまだ憶測の域だが——その男も魔と同様の『なにか』が原因で、兇暴化して我を失っているということかな」
「そちらの方が有力かもしれませんわね」
それにしてもその『なにか』とはなんだろうか?
魔や人を兇暴化し、正気を失わせる……?
一つだけ心當たりがある。
それは『呪い』だ。
呪いの効果は多岐にわたる。
ラルフちゃんが調を崩した時のような効果。
そして相手の正気を失わせ、魔のように兇暴化させる効果もある。
今回、男と魔に現れている『なにか』はそうとしか考えられないのだ。
「ナイジェル、もしかしたら……」
私がナイジェルにそのことを伝えようとした時。
突如彼の表を見て、私の勘が働いた。
「……あなた、まだ私に隠し事をしていることがありませんか?」
「……!」
私が指摘すると、ナイジェルが一瞬肩を震わせた。
「いや、そんなことは」
「あら、つれないですわね。私とナイジェルは謂(い)わば運命共同。あなただけが抱え込む必要はないのですから。それに私であれば対処出來る可能もあります。どうかお教えくださいませんか?」
私が詰め寄っても、當初ナイジェルはなかなか口を割ろうとしなかった。
しかし諦めたように溜息を吐いて、
「……本當に君には隠し事が出來ない。分かった、話すよ」
と白狀し始めた。
「実はね、その男はとある要求をしているんだ」
「要求?」
私が首をかしげると、ナイジェルはこう続けた。
「彼は聖を求めている。エリアーヌ——君をね」
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