《真の聖である私は追放されました。だからこの國はもう終わりです【書籍化】》42・みなさんに迷はかけていられません

「私を?」

ナイジェルの言葉に、思わず耳を疑ってしまった。

「どうして私を要求しているのでしょうか?」

「分からない。しかしアドルフからの報告によれば男は『あの偽聖に斷罪を下す! 偽聖を出せ』と(わめ)いていると聞いている」

「——っ!」

『偽聖』という単語を聞き、私は息を呑み込んだ。

私がベルカイム王國の聖であったことは、この國ではナイジェル。そして國王陛下……あとラルフちゃんとドグラスしか知らないはずだ。

しかも相手はわざわざ『偽聖』と呼んでいる。

これは……。

「王國の関係者。しかもかなり王族に近しい方の。そう考えるのが自然でしょうね」

私が言うと、ナイジェルは首肯した。

「なに、エリアーヌはなにも心配する必要はない。わざわざヤツの要求を呑んでやる必要もないだろう。処理は僕達に任せてしい」

とナイジェルは私をかばってくれた。

確かに、ここで男の要求に従うことはあちらの懐に飛び込むということだ。

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今更私を連れ戻そう……なんてことは考えていないと思うが、平和的な話し合いで済むはずがないだろう。

最悪、その場にを投じれば私は命を落としてしまうかもしれない。

しかし。

「ナイジェル。私をその男の前まで連れて行ってください」

私が真っ直ぐとナイジェルの瞳を見つめ返すと、彼は「バ、バカな!」と聲を上げ、

「君がわざわざそんなことをする必要はない! もし君に危険なことがあれば、取り返しがつかない。頼むよ、エリアーヌ。君はここにいてくれ」

と慌てて続けた。

ナイジェルの言うことはごもっとも。

だが——このような事態を招いていることは、私が原因である可能が高い。

この國でいさせてもらう以上、なるべく迷はかけたくないのだ。

だから。

「私はただ引きこもっているだけのお姫様ではありません。私からもお願いです、ナイジェル。それにその様子だと、兇暴化した魔と男に苦戦しているのでしょう? 私の聖としての力があれば、きっとお役に立てると思いますわ」

「し、しかし……」

私はナイジェルを説得するが、彼は決して頷いたりしない。

まいったな。

その謎の男を相手にするよりも、ナイジェルを説き伏せることの方がよっぽど難しそうだ。

私はどうしたものかと頭を悩ませていると。

「その話、我も聞かせてもらったぞ」

『ラルフもだ』

と突如部屋の扉が開いて、廊下から一人と一ってきた。

「ドグラス……それにラルフちゃんまで!? どうしたんですか?」

そう。

勢いよく室ってきたのは、ドグラスとラルフちゃんであった。

ドグラスはにやにやと笑みを浮かべ。

「ああ。面白そうな話がありそうだったからな。エリアーヌをつけさせてもらったわけだ」

『ラルフも同意だ。しかしラルフはこいつのように興味半分ではない。エリアーヌのピンチだと思って駆けつけたのだ』

盜み聞きですか……趣味が悪いですわね。

しかし今はそんなことを言っている場合ではない。

「なにか企んでいるように見えるのですが?」

「うむ。汝の気持ちはよく伝わったぞ。この國に迷をかけてられないと考えているんだな。殊勝な考えだ」

ドグラスはそう言い、ナイジェルに歩み寄る。

「なあ、ナイジェルよ。エリアーヌの意志は固いみたいだぞ。連れて行ってやったらいいではないか」

「なにを言うんだい! 彼を危険に曬してはならない!」

「汝がいくら止めようと、エリアーヌはどのような手段を使っても王城を抜け出して、その変な男のもとに向かうぞ? だったら汝の監視下に置いておいた方が、幾分かマシではないか」

「そ、それはそうだが……」

ナイジェルが言い淀んでいる。

いや……王城を抜け出すなんて真似。さすがに私一人の力では出來ないだろうし、それこそ迷がかかる。

「ドグラス、なにも私はそこまで——」

だがドグラスを見ると、彼は私に向かってウィンクをした。

——今は話を合わせろ。

まるでそう言っているかのように。

そこで私はピンとくる。

「……ナイジェル。ドグラスの言う通りですわ。もしあなたが止めようとも、私は無理矢理にでもドグラスに連れて行ってもらいます。ですよね、ドグラス」

「はっ! その通りだ。さあ、どうするナイジェル。エリアーヌに暴走させるか、それともあくまで汝の監視下でエリアーヌをかせるか……二つに一つだ」

ドグラスがそう詰め寄ると、ナイジェルは観念したかのように両手を上げる。

「……分かったよ。君達には負けた。だけどエリアーヌ、僕から離れないでくれよ。これだけは守ってくれ」

「ええ、もちろんそのように致しますわ」

よし、これでなんとかき出すことが出來る。

しかし男のいるところまでどうやって向かおうか?

ナイジェルの言っている場所までは、まあまあ距離があるみたいだけど……馬車で向かおうにも、なにがあるか分からないところだ。馬や者の方を不用意に危険に曬したくない。

考えていると、まるでドグラスは私の頭の中を読んだかのように、

「なに、それについては心配ない」

「きゃっ!」

と私を急にお嬢様抱っこしたのだ。

「な、なにをするおつもりですか!」

「そう騒ぐではない。このまま謎の男と魔がいるところまで、連れて行ってやろうではないか。そっちの方が早く著くだろう?」

ドグラスの言う通りだ。

いくら人の姿のままでも、一般人よりは何十倍……いや何百倍も彼は速く走れる。

もちろんドラゴン化してしまった方が早くつくが、あの姿では加減が付けにくいのだと言う。

あっという間に行ける反面、通り過ぎる可能もあるので、その場所に到著するまではこの姿のままの方が良いだろう。

『ナイジェルはラルフの背中に乗るといい』

とラルフがナイジェルに背中を向けると、

「……? ラルフ、君の背中に乗ればいいのかい?」

彼はゆっくりと背中にまたがった。

まあラルフちゃんの言葉はナイジェルには分かりませんからね。こういうやり取りになってしまうのも仕方がない。

フェンリルが本気を出せば、馬よりも何倍も早い。もふもふのフェンリルにまたがっているナイジェルは、とても可らしいけどね。

「では行くぞ! エリアーヌ、暴れるんじゃないぞ?」

「も、もちろんです」

だけどドグラスは荷を持っているような覚だろうが、こんなイケメンにお嬢様抱っこをされるのはドキドキしますわね……。

ドグラスはなんとも思っていないだろうが、それがちょっと腹が立つ。

「ドグラス、頼みますね」

「心得た」

私が言うと、ドグラスは床を蹴って走り出した。

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