《真の聖である私は追放されました。だからこの國はもう終わりです【書籍化】》46・愚かなに斷罪を

レティシアは呪士の一族に生まれた。

『お前は一族の最高傑作だ。その力を使って、ありとあらゆるものを手にれなさい』

いつもそう教えてくれた父親は、真っ先に呪い殺してしまった。

理由は——だってあんなに褒めてくれるから。

あれだけ褒められれば、自分の力がどれほどのものか試してみたくなるのも仕方ないではないか。

その後、彼は家族を全員呪い殺し、たった一人になってしまった。

しかしレティシアは家族を呪った後悔はしもなく、逆に自分の力を誇りに思った。

なんだ! 自分はこんな力を持っていたのか!

お父様の言った通り、これでありとあらゆるものを手にれられるではないか!

——と。

幸運にもレティシアは呪いの才能だけではなく、生まれながらの貌と家族が殘してくれた莫大な財産があった。

とある日。

レティシアは貴族が集まるダンスパーティーに參加した。

ほんの気紛れだった。

しかしその時、彼をしてしまった。

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リンチギハムの第一王子——ナイジェルにだ。

は早速ナイジェルに接した。

しかしいくらびても、ナイジェルは一向に彼に振り向かない。

レティシアは嘆いた。

今までどんなものでも手にれてきたのに! ……と。

やがてナイジェルから一旦距離を置いたレティシアは、今度はベルカイム王國のクロード王子に近付いた。

正直憂さ晴らしのようなものであった。

ベルカイムはリンチギハムよりも大國だ。

あなたが捨てたは、隣國の王子様の婚約者になっています!

悔やんでも遅いんですからね!

——と獨りよがりの考えを。

幸いクロードはかなりのバカで、エリアーヌという婚約者がいながらもレティシアのことを溺し始めた。

それからは簡単。

エリアーヌを『偽の聖』と吹き込み、自分こそが『真の聖』だと主張した。

バカなクロードは、レティシアの噓をすぐに信じてくれた。

バカな男。

私は真の聖どころか、家族すらも呪い殺した呪士だというのに——。

そしてクロード王子を手にれたレティシアは、それだけでは飽き足らなかった。

今度は自分を捨てたナイジェルに仕返ししてやろうと思った。

とはいえ簡単に接することは出來ない。一國の王子ともなれば護衛が多いためだ。

ゆえに彼はSS級冒険者アルベルトと組むことにした。

アルベルトに數々の呪いのアイテムを渡し、リンチギハムに売ってもらったのだ。

わざわざ商人ではなく、SS級冒険者アルベルトの力を借りたのは、そちらの方がしやすいと考えたからだ。

本職の商人相手なら、レティシアの渡したアイテムに呪いが付與してあることを看破する可能があった。

まあないとは思うが……彼は用心深いだ。細心の注意を払った。

それに彼の戦闘力も魅力的であった。

いざとなれば、自分を守ってくれる盾となってくれるに違いない……そんな魂膽もあった。

アルベルト経由でリンチギハムに呪いのアイテムを紛れ込ませる。

呪いのアイテムがすっかり流通してしまったリンチギハム。そこで気付いてからでは遅い。

なにに呪いが付與されているのか分からないのだ。やがてリンチギハム國資は信用されなくなってくるはずだ。

それにもしかしたら、呪いを解くことが出來るとされる聖の力を借りるために、隣國の聖——つまりレティシアの力を借りようとする可能もある。

一度懐にってしまえばあとは簡単。じっくりと彼も私の虜にしてやろう……とレティシアは計畫をしていた。

しかしアルベルトから、隣國にエリアーヌがいると……しかもナイジェルの近くにいると聞いてから、彼の心に憎悪が生まれた。

ああ、もういい——全部壊そう。

そう。

それはまるで、今まで熱中していた玩に対して、急に気持ちが冷めてしまうかのようだ。

前々から用意していた呪いの剣をアルベルトに渡し、エリアーヌ——そしてリンチギハムを滅ぼすことにした。

これが今回の兇行の顛末である。

◆ ◆

「クロード、怖いです。またいつドラゴンがこの國に來るかと思えば……」

「大丈夫だ、レティシア! 僕が付いている! 軍事面もさらに強化しよう! だからレティシア、安心してしい!」

クロードの自室。

レティシアはクロードに肩を寄せて、彼に見えないようにほくそ笑んだ。

(バカな男……こうやって不安がっているを演じておけば、いくらでも金を引っ張り出せる。々計算は狂ったけど、贅沢し放題なのは間違いなし……)

今頃、呪いの剣を手にしたアルベルトはナイジェルとエリアーヌを殺しているに違いない。

元々強いアルベルトが『痛み』や『恐怖』を失ってしまえば、それこそ誰にも止められない。負けるはずがなかった。

そうレティシアは考えていたが……。

「あああああああ!」

「ど、どうしたんだい、レティシア!?」

突然、顔面に鋭い痛みが襲った。

し遅れてから、耐え難い熱さも襲いかかってくる。

レティシアは悲鳴を上げ、顔を押さえて床に転がった。

(なになに!? なにが起こっているの!?)

しばらくレティシアは転がり回り、苦しんでいたが……。

「はあっ、はあっ……私のになにが……」

なんとか耐えられる程度に痛みがおさまってきて、彼はゆっくりと顔を上げた。

「レ、レティシア……その顔……」

「顔?」

何故だかクロードがレティシアを指差して、わなわなと震えている。

なんだ? どうしてクロードはそんな顔をしている?

未だ混冷めやらぬ中、レティシアは部屋に置かれていた鏡にふと視線を移す。

否。移してし(・)ま(・)っ(・)た(・)と言うべきだろうか。

「な、なんですか! この顔は!?」

レティシアは鏡に近付く。

の顔がまるで炎に焼かれたかのように爛(ただ)れている。

絶世のとまで謳われた貌がすっかり消え失せ、まるで醜い魔のような顔に変貌を遂げていたのであった。

「ど、どうして!? ——ま、まさか!」

一つの考えに思い當たる。

そして不幸にも、レティシアの考えは當たっていた。

そう。

自分のかけていた呪いが跳ね返されたのだ。

強い呪いは道半ばで解除されてしまえば、呪士のもとへと返ってくる。

リンチギハムを混させ、ナイジェルとエリアーヌを殺そうとした愚かな偽の聖に鉄槌が下ったのだ!

「クロード、クロード!」

「ほ、本當にレティシアなのか? と、とにかく治癒士を呼んで治療しなければ……」

だが、この時のクロードは知らない。

治癒士どころか呪殺士を呼んだとしても、レティシアに跳ね返った呪いは解かれることがない。出來るとしたら、真の聖エリアーヌくらいだ。

奇しくも彼の呪士としての強い力が仇となってしまったのである。

トン、トン。

クロードが慌てふためいていると、扉がノックされる。

「クロード様。大変です!」

「誰だ! 今は貴様の無駄な話を聞いている暇はない!」

廊下から一人の騎士がってくる。

は異様な景であったが、騎士はそれに目も暮れない。

まるでもっと別のことに頭を奪われているようであった。

「ド、ドラゴンに続いて……」

「なんだと? ドラゴンだと!? またドラゴンが襲來したのか!」

「い、いえ! ドラゴンではありません。今度は——」

しかしこの時のクロードはすっかり忘れていた。

あの時のドラゴンが、最後になにを言い殘したのかを。

「じょ、上級魔族が王國に攻めってきました!」

王國の破滅は止まらない。

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