《真の聖である私は追放されました。だからこの國はもう終わりです【書籍化】》51・霊王のお困りごと

……え?

霊王(・)?

「えー!」

「エ、エリアーヌ? 君はなにか察しが付いていると思っていたけど、當てが外れたのかい?」

思わず私が大きな聲を出してしまったことに、ナイジェルは驚く。

だ、だって……霊王(・)なんですわよ!?

さすがの私もこれは予想していなかった。

霊であることには気が付いてましたが、まさか霊王だなんて……」

正直戸う。

そうなのだ。

彼を一目見た時から、明らかに人間と違う魔力であることには気が付いていた。

霊は他の種族とは距離を置き、獨自の文化圏を築いている存在だ。

そのせいで私達人間は、彼等になかなかお目にかかることがない。

「……僕もまさか霊だとは思っていなかった。本當ならもっと驚くところなんだけど、エリアーヌの反応の方がビックリしたよ」

とナイジェルは笑った。

「す、すみませんっ」

「別に謝らなくてもいいよ。エリアーヌは霊を見たことがあったのかい?」

「はい」

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あれは王國で聖をしていた頃だ。

突如クロード王子に「騎士団が遠征に行くみたいだから、お前も付いていけ!」と一方的に命令をけたのである。

これは後から聞いた話なのだが、どうやら騎士団お抱えの治癒士が人手不足だったらしい。

とはいえ、救護院や冒険者の中にも治癒士はいるのだが……その方々に頼むと、給金を払わなければならない。

つまり聖である私はタダで働かせることが出來るわけだ。

だからそんなことを言い出したのだろう。

まあ別にいいんですけどね。

イケメンで優しい騎士団長クラウスが一緒だったし。

それにみんなの役に立てることは素直に嬉しかった。

その際、森を通過した時に霊に遭遇した。

子どもの霊だったので小さかったけど……その時に見た魔力と彼——フィリップのものが酷似していたというわけだ。

「まあ驚くのも無理はないと思います。俺達霊は滅多に人前に姿を現しませんから。あなたの反応も無理はありません」

とフィリップは表一つ変えずに言った。

「それで……霊王がどうしてリンチギハムに? しかもあんなボロボロの姿で」

ナイジェルが質問すると、フィリップはこう口を開いた。

「実は俺達の村で困ったことがありまして」

「困ったこと?」

「はい。それで人間界にいる腕の良い治癒士なら、もしかしたら解決してくれるかもしれない……と思い、周辺の街や村を探し回っていました」

「なるほどね」

「ここまで長かった……ようやく見つけることが出來た」

そこでフィリップは私の方を振り向き、

「まさか聖様がこの街にいるとは——お願いします、聖様。俺達に力を貸してください」

と膝を付き頭を下げた。

それはまるで騎士が王に忠誠を誓うかのような姿勢だ。

「ちょ、ちょっと!」

慌ててしゃがんで、彼と同じ視線まで下がる。

「頭を上げてください。それに……わ、私は聖ではありませんわ!」

「なにを言うんですか。あんな規格外な治癒魔法、神の加護をけた者でしか到底使えるものではありません。どうしてそんな噓を吐くんですか?」

フィリップが首をひねる。

霊は人よりも遙かに魔法に長けた種族だ。

だから私の正に気が付いても仕方ないんだけど……この調子では、トボケることも出來なさそうだ。

「……はあ。隠し通すことは出來ないみたいですね。そうです。今は違いますけど、他の國では『聖』と呼ばれていました」

「やはりそうですか」

「それにしても、どうして私が聖だと? 私の故郷では聖についての報は基本的に匿されていたはずなんですが……」

の力は、見方を変えれば國の大きな戦力になる。

下手に報を流して、他國が聖しさに攻め込んでこないとも限らない。

ゆえに不用意に聖報をらすことはじられていた。

だがフィリップは、

「昔、俺達霊は聖様にお世話になったことがあるんです。その時のことを覚えていました」

「お世話……? ちなみにそれはどれくらい前のことですか?」

「二百年くらい前だったと思います」

先代どころか、それよりもずっと前の聖のことらしかった。

まあここ最近の聖はあまり自由にさせてもらえなかったですからね。

予想の範囲だ。

ん……? 待てよ。

「フィリップ。あなた何歳ですか?」

「俺ですか? そうですね……三百年くらいは生きていると思いますが」

やっぱり!

二百年前の話をするから、なんかおかしい! と思っていたら私の予的中。

霊は私達人間と違いますからね。

伝承によると、長生きしている霊は千年以上は生きていると言う。

それに比べたら、そこまで驚くことじゃないかもしれないんだけど……ビックリするものはビックリするのだ。

「私よりずっっっっと年上じゃないですか!」

「まあそうかもしれませんね。それがなにか?」

きょとんとした表を浮かべるフィリップ。

フィリップは見た目、私達より五歳くらい下で『年』と呼んでも差し支えなかった。

だけどその話を聞いたら、なんだか見る目が変わってしまう。

だって人生の大大大先輩なんですもの!

「は、ははは。エリアーヌがリンチギハムに來てから、賑やかになってきたね。前はドラゴンだったし……」

ナイジェルは苦笑いしていた。

というかちょっと引(・)い(・)ていた。

「……まあ、あなたの正が分かったところであらためて聞きましょう。あなたが困っていることとは?」

私が訊ねると、フィリップはとつとつと語り始めた。

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