《真の聖である私は追放されました。だからこの國はもう終わりです【書籍化】》53・頼れるドラゴンと神獣
一度ナイジェル達と別れてから、私は中庭に向かった。
「やはりここにいましたか。ドグラス、ラルフちゃん」
中庭ではドグラスが黃金の木片こと鰹節(かつおぶし)を持って、ラルフちゃんと遊んでいる最中であった。
すぐに聲をかけてもいいけど、楽しそうだからしばらく見守ってみよう。
「では行くぞ。我の遊戯はただの遊戯では済まない。しっかりと付いてくるんだな」
『ふっ。そなたこそ、ラルフをなんだと思っているのだ。神獣とドラゴン、どちらが上か、今日こそはっきりさせてやろうではないか』
二者の間に火花が飛び散る。
「それ!」
ぽーい。
ドグラスが鰹節を天高く放り投げる。
王城のてっぺんまで到達したのではないだろうか。
ドグラスも本気みたいだ。
やがて鰹節はゆっくりと落下に転じ、風に流されて中庭の隅へと向かっていった。
その瞬間。
「わおーん!」
ラルフちゃんが犬みたいな雄びを上げる。
ずざざざっ!
ラルフちゃんが鰹節の落下地點まで疾駆する。
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そして鰹節が王城の二階部分まで落ちてきた時、ラルフちゃんは地面を蹴って高くジャンプをしていた。
すたっ!
空中で鰹節をキャッチし、見事地面に著地するラルフちゃん。
『くくく……どうだ! これがラルフの力だ! 思い知ったか!』
「ふっ。この程度で調子に乗るとは、神獣も大したことはない。今度はさらに高く放ってやろう。どこまで付いてこれるかな?」
『ほざけ』
……なんだか楽しそうだ。
お邪魔かしら?
だけどこれ以上、ナイジェル達を待たせるのも申し訳ない。
「ドグラスー。ラルフちゃーん!」
私は聲を上げ、ドグラスとラルフちゃんに向かって手を振る。
「おお、エリアーヌではないか」
『鰹節をくれる聖か』
ラルフちゃんは私を見るなり嬉しそうに駆け寄ってきて。
一方のドグラスは腕を組んで、その場から一歩もかなかった。
「ラルフちゃん。相変わらずもふもふですね」
『この並みは神獣の誇りだからな。いつも手れはかかさないのだ』
顎の下をでてあげると、ラルフちゃんは気持ち良さそうに目を瞑った。
私はそうしながら、ドグラスの方へ視線を向ける。
「ドグラス。私とナイジェルはしばらくリンチギハムを離れます。とはいっても一週間くらいでしょうけどね」
「急にどうしたのだ」
「実は……」
ドグラスとラルフちゃんに事を説明する。
「なるほどな……霊王か。またとんでもない者が現れたというものだ」
「私もビックリしています」
肩をすくめる。
「霊さん達がいる森までは、馬車で三日くらいかかるらしいです。その間、ドグラスとラルフちゃんには留守番をお願いしたいのです」
國に張っている結界は私が離れれば離れるほど効力が薄くなってくる。
これくらいの距離なら大丈夫だけどね。
よほどのことがない限り破られることはないと思うが、念には念をれてだ。
なにかあったとしても、ドラゴンのドグラスと神獣のラルフちゃんなら問題を解決してくれるだろう。
「分かった。だがどうせなら、我が汝等をその霊の森とまで連れて行こうか? それだったら時間を短出來ると思うが……」
「し、心配は無用です。それよりもこの國を守っていてしいですので」
丁重にお斷りする。
その理由もあるが……なによりも、またドグラスにお嬢様抱っこをされるのは心臓に悪いのだ!
あれは確かに目的地まで早く著ける。
しかしとってもドキドキしてしまう副作用がある。
悪い気にはならないが、あれでは私の心臓が持たない。
「三人で行くつもりですからね。ラルフちゃんの背中には二人までしか乗れないでしょう? だからラルフちゃんもお留守番です」
「くーん」
ラルフちゃんが悲しそうに鳴いた。
「そうか。がはは! まあ任せておくがいい。立派に留守の役目を果たしてやろうではないか」
『ラルフも頑張るのである』
「期待していますわよ」
ドグラスの戦闘能力はかなりのものだ。先日の事件にいたっては、ベヒモスを一瞬で倒してしまった。
しかし彼は々常識知らずなことがある。
ドグラスは私のことを「世話の焼けるだ」と常々言っているが、それはこっちの臺詞だ。
「汝とナイジェルなら、途中でなにかあっても大丈夫だろう。しかし、もしものことがあっては心配だな。道ばたで転んでしまわないとも限らない」
「過保護すぎますよ!」
「なにを言う。せっかくキレイなをしているのだ。りむいて傷でも出來たら大変だろう。ただでさえ嫁り前なのに……そうだ」
ドグラスはなにかを閃いたかのように、な(・)に(・)も(・)な(・)い(・)場所から一個の玉を取り出した。
収納魔法だ。
失われた魔法だと聞いているが、それを容易く行使するとは……さすがドラゴンである。
「これを持っておくといい」
「これは?」
ドグラスからその玉をけ取る。
紫でガラス製の不思議な玉だ。
紫の玉はポケットにれても、問題ないくらいのサイズであった。
「それは『竜の寶玉』と呼ばれるものだ。なにかあれば、そこに魔力を注ぐといい。一瞬で我をエリアーヌの目の前まで召喚することが出來る」
「ほ、本當ですか!?」
なかなかすごいものを持ち歩いているものだ。
「無論だ。しかし一回使用すれば、代わりに寶玉が壊れてしまう。よく考えて使うんだな」
「ありがとうございます! 助かりますわ」
気を遣ってくれるのは素直に嬉しい。
ドグラスは悪戯好きの一面もあるが、やっぱり基本的には頼れる兄貴というじである。
「ではフェンリルよ。遊びは止めて、今からお留守番の準備をしようではないか」
『承知した。しかし『おるすばん』? というのはなにをすればいいのだ?』
「さあ?」
ドグラスとラルフちゃんが顔を見合って、首をひねる。
……頼れる兄貴というのは前言撤回。
ドグラスとラルフちゃんを見て、私はすこーしだけ心配になるのであった。
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