あれから私達は霊の村を出て、ナイジェルとリンチギハムに戻った。

「しの間でしたけど、隨分久しぶりなじがしますね」

あの村の澄みきった空気も味しかったけれど、やっぱり活気と人で溢れているこの街も好きだ。

「門番から報告も聞いたけど、どうやら大きな事件はなにもなかったようだね」

ナイジェルが安心した顔で言う。

「ドグラスとラルフちゃんが、しっかりお留守番をしてくれていたんですかね？」

「そうかもしれないね」

「王城に帰りましょうか？　久しぶりに自分のベッドで橫になりたいですし……」

「僕は魔法研究所に寄ってから帰るよ」

「研究所？」

私は首をかしげる。

ナイジェルが右手に持っている一本の瓶をかかげ、こう続けた。

「この水をそこで解析してもらいたいんだ。霊が住む森で育まれた水だから、ただの水じゃないと思うしね」

「確かに……その水からは計り知れない魔力をじます」

「だろ？」

「でしたらお供します。私も気になりますので」

「分かった。一緒に行こう」

王城に帰るのは、もうし後になりそうだ。

待っていてくださいね、ドグラス、ラルフちゃん！

◆　◆

魔法研究所の前に到著。

白塗りの建で、なんとなく落ち著いた雰囲気をじた。

「前々からなんの建だろうと思っていましたが、魔法研究所だったんですね」

「うん。ここの所長はかなりのやり手なんだよ。早速行こう」

「はい」

研究所に足を踏みれる。

中では白を著た人々が、忙しそうにき回っていた。

彼等はナイジェルの來訪に気付くと、軽く挨拶とお辭儀をする。

ナイジェルはそれに対して手を挙げて応えながら、奧へと進んで行ったので私も後をついていった。

「ロベール、久しぶりだね」

研究所の一番奧の部屋に著くと。

そこには一人の男ががった容れを凝視していた。

「ナイジェル様」

彼はナイジェルの聲に反応し、顔をこちらに向ける。

「エリアーヌ、紹介するよ。彼がここ魔法研究所の所長のロベール。とても良い人だから、なにかあれば頼ってみるといい」

「初めまして、ロベールさん。エリアーヌと申します」

スカートの端を持ち上げ頭を下げる。

所長……ロベールさんは「ほお」と聲をらし、

「しいですね。もしかして、ナイジェル様がおっしゃっていた婚約者というのはこの方ですか？」

「うん」

「それはそれは……ナイジェル様にふさわしいお方だと思います。まさにベストカップルです」

ロベールさんが和な笑みを浮かべ手を差し出してきたので、私は握手で応えた。

それにしても……。

この人もかなりの形！

病的なまでにが真っ白で、ふちの細い眼鏡をかけている。幻想的な雰囲気すらもじ取れた。

ちなみに……私がナイジェルの婚約者であることは、まだ一部の人しか知らない。

今までナイジェルは頑に婚約者を作らなかった。

それなのに不用意に伝えてしまうと、騒ぎが大きくなりますからね。

だけど——どうやらロベールさんは、そのことを知っているらしい。

このことから、いかに彼がナイジェルに信頼されているのかがうかがえた。

「それでナイジェル様、急にどうしたのですか？　今日はどのようなご用で？」

「これを見てもらいたかったんだ」

ナイジェルは霊王のフィリップに貰った水を、ロベールさんに見せる。

すると彼は興味深げにそれを観察した。

「これは……なかなか魔力純度の高い水ですね」

「分かるかい？」

「はい。一これをどこで？」

「詳しいことは今は省くけど、実は霊と親が出來てね。これは霊の森に流れている水なんだ」

「せ、霊ですか！？」

ロベールさんが眼鏡を上げる。

「霊といえば、魔法の始まりという説もある種族ですよ？　彼等の生態について究明することは、魔法研究家にとって悲願です。今までほとんど手がかりもありませんでしたが……まさかナイジェル様が、このようなものをお持ちとは！」

興しきった様子のロベールさん。

そうなるのも仕方ない。

霊を一目見るだけでも珍しいのに、まさか彼等の水を持ってくるなんて……とロベールさんは驚いているだろう。

「これをここ魔法研究所で分析してもらいたいんだ。この水を使えば、どういうことが出來るのだろうって」

「わ、分かりました！　ありがとうございます！　しばらく眠れませんね！」

「いや、寢てくれ」

ナイジェルがおかしそうに笑う。

しかしすぐにキリッと真面目な顔になって、

「君なら分かっていると思うが……一つだけ注意しておく。君達にとって霊は研究の対象かもしれないが、決して手(・)荒(・)な真似だけはするな。もし霊の怒りを買ってしまえば、大変なことだからね。僕の顔を立てると思って、節度を持って研究をしてしい」

と忠告した。

それに対して、ロベールさんも真剣な表でこう答える。

「承知しました。元よりそんなバカな真似はするつもりはありません。王國のバカな魔法研究者ならともかく、部下にもそんなことを考えるような輩はいないのでご安心を」

ロベールさんが言ったように、ベルカイム王國の研究者達は々行き過ぎたところがあった。

噂では、かなりあくどい人実験にも手を染めていたのだとも聞く。

それは本人達の分にもよるところがあると思うが、なにより國から過剰に結果を求め続けられたせいだろう。

魔法研究所と聞いて、し心配していたが……この様子だと大丈夫そう。

「それにしてもこの水は本當に素晴らしいですね。便宜的に『霊の水』と名付けましょうか」

ナイジェルから霊の水がった瓶をけ取り、ロベールさんはまじまじと眺める。

「詳しく分析してみないとなんとも言えないですが、これをにして使えば上級ポーションを簡単に作れると思います。これだけ魔力純度の高い水は珍しい」

「ポーション！」

私はそれを聞き、話の間に割ってる。

「こ、ここではポーションも作っているんですか！？」

「お嬢様もポーションにご興味があるのですか？」

「は、はい！　とっても！」

思わずを乗り出してしまった。

王國にいる頃。

退屈しのぎに、王城にあった本を何冊か読んでいた。

その中でポーションを作る『薬師』と呼ばれる人達のことが書かれた本があった。

作業場でのんびりと平和にポーションを作る。

薬師達の作ったポーションは様々な人を助け、みんなの暮らしをかにしていく。

そんな生活に一時期憧れを抱いていた。

……まあそんなこと、させてもらえませんでしたが！

「エリアーヌ。そんなに興味があるなら、よかったらロベールの手伝いをしてみるかい？」

「い、いいんですか！」

「もちろん。ロベール、前にも説明した通りこの子は優秀な治(・)癒(・)士(・)だ。きっと力になれると思うけど……」

「私の方こそお願いしたいくらいです。彼の話はナイジェル様から聞いていますから」

ロベールさんが私の顔を見て、にっこりと微笑む。

「今日はお疲れでしょうから、明日からでもすぐに研究所に來てください。この水で上級ポーションを作ってみましょう」

「は、はい！　よろしくお願いします！」

手伝いとはいえ、憧れの薬師スタート！

……まあ正しくは魔法研究者なんだけど、細かいことは気にしないのです。

こうして私は充実していく日々にさらに心躍らせるのであった。

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