《真の聖である私は追放されました。だからこの國はもう終わりです【書籍化】》66・聖水を作りましょう

超級ポーションの売れ行きはすぐに分かりました。

翌日。

私はロベールさんにまたもや呼び出され、魔法研究所に向かった。

「超級ポーションについて報せがあります」

重々しい雰囲気で、ロベールさんが話を始める。

あれ。

この雰囲気……どういうこと?

やっぱり全然売れなかったとか?

仕方ないですよねー……だってあんなに高いですもの。いくらポーションとして優れていようとも、滅多なことでは手が出ない。

「ロベールさん、大丈夫です。売れなくても、私は気にしていませんので」

にっこりと微笑む。

この笑顔はきっと「あまり大きなことにならなくてよかった!」という安心も含まれている。

「はい?」

しかしロベールさんは私を見て、こう疑問を口にした。

「あなたはなにを言っているんですか?」

「え?」

ロベールさんはにまとっていた重い空気を消し、表らかくしてこう告げた。

「売りに出した超級ポーション、完売です!」

……完売?

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「えーっと、確か余ったポーション五個を売りに出したんですよね?」

「そうです。超級ポーションをしがっている商人は何人かいましたからね。信頼の出來る商人に話を通してみたんです」

「その結果、完売だったと?」

「はい」

え、えーっ!

超級ポーションのお金で家が一つ建つ! つまり家が五個分!

金額が大きくなりすぎて、いまいち実が湧いてきません!

「ほ、本當ですか!?」

「本當です。どうやら私達が思っているよりも、さらに高い価値があるようですね。値段を再考しなければ……」

とぶつぶつロベールさんは言っていた。

彼はそう言うものの信じられない。

しかしよく考えてみると、冒険者に直接売ったわけじゃないし有り得るんでしょうか?

「しょ、商人の方でしたら貴族へのルートもあるでしょうし……商人の方々はそこにお売りになるつもりなのでしょうか?」

「それもあるかもしれないですが、違うと聞いています。基本的には有名な冒険者パーティーやギルドに売るらしいです」

「う、売れるんですか? 冒険者でしたら、治癒士もいるでしょうし……あまり需要がないのでは?」

「もちろん、私もそう思っていたから昨日言った値段でした。だが、今は々狀況が違うようでして、ポーションの需要が元々激増しているようです」

「なにかあったのですか?」

問いかけると、ロベールさんはとつとつと語り始める。

「リンチギハムの領に新しいダンジョンが出來たのはご存知ですか?」

「はい。ここ最近、ナイジェルが忙しく仕事をしていましたので……そうお聞きしました。位置的には霊さん達の村の近くと聞いていますが……」

「その通りです」

ダンジョンというのは魔が多く生息し、中は迷路のようにり組んでいたり罠が仕掛けられている場所。

とっても危険なのです。

しかし反面、貴重な魔の素材を採取することが出來たり、お寶を発見することもあるので必ずしもデメリットしかないわけではない。

そんなダンジョンには二つの発生方法がある。

一つはなんらかの要因で魔達が集まり、しずつダンジョン化していくこと。

もう一つはある日なにもない場所に、突如として発生するというもの。

後者に関しては諸説あるが、ダンジョンとは一種の生きであると考えられているそうだが……細かいことは、私もよく分からない。

「ではダンジョンが出來て、そこに赴く冒険者が増えたから自然とポーションの需要が増えたということですか?」

「はい。しかも……どうやらそのダンジョンには、アンデッド系の魔が多く出現するらしいんです」

「厄介ですね……」

「ご存知ですか」

「まあ私も治(・)癒(・)士(・)ですので」

アンデッド系の魔とは、たとえば全が骨だらけのスケルトン。生者の魂を狩るデスマスターといった種類が挙げられる。この魔達はそもそも強力なことが多い。

しかしその中でも一番厄介なのが、普通の攻撃をけ付けないという特徴。

彼等を倒すためには聖なる魔法や、それを付與した武を使う必要があるという。

そんなものを使える者は冒険者の中でもごく一部になってくるので、彼等もアンデッド系の魔を敬遠する……という話を聞いたことがある。

「なかなかダンジョン攻略に手こずっているようですよ。だからといってダンジョンを放置するのも頂けない。放置しているとダンジョンの魔が増えすぎて、近くの街に乗り込んでくるかもしれませんから」

「ですね」

なるほど。

聖屬魔法や武を持たなくても、アンデッド系の魔を倒すためには、有効な手段があると言われている。

それがポーションをかけることだ。

生者というよりも、死者に近い彼等にとってポーションは天敵らしい。

でもやっぱり魔法や武に比べて効果は格段に落ち、気休め程度にしかならないらしいけれど……。

「あっ」

そこで一つ思い至る。

霊の水で『聖水』を作れないでしょうか」

「聖水……? あの冒険小説とかによく出てくる架空のアイテムですよね」

「ですね。聖屬魔法を付與した水です。これがあれば、誰でも簡単にアンデッド系の魔を倒せると思います。やってみる価値はあると思いますが、どうでしょう?」

「確かにそれが量産出來れば、ダンジョンの攻略は格段に進むでしょう。近くにある街の領主も喜びます。それに聖水を作ることは、私達魔法研究者達の夢(ロマン)でもあります。しかし……」

ロベールさんは渋い表をする。

その顔からはいかに聖水作りが非現実的なものであるかを、示しているかのよう。

しかしこの時の私、既に聖水の設計図は頭の中で思い浮かべていた。

うん。

これなら出來そうです。

「試しに貸してみてください」

私は殘っていた霊の水に魔力を付與する。

すると今度は淡い緑に水がり出した。

「聖屬魔法を付與してみました。いかがでしょうか?」

「まさかそんな簡単に——な、なんとっ!」

ったビーカーをロベールさんは手に取り、目を大きくする。

「ほ、本當に聖屬魔法が付與されている!? これだったらアンデッド系の魔にも効果がありそうです!」

「だから言ったでしょう? やってみる価値はあると」

もちろんこれはただの試作品。

だけどこの調子なら聖水を量産し、私の思い描いているストーリーは実現出來そうです。

「お、お手伝いします! これは革命が起こりそうだ……!」

「お願いいたしますわ」

ロベールさんはがっしりと両手で私の手を握った。

◆ ◆

數日後。

無事に聖水の開発に功した私達は、超級ポーションと同じように売りに出した。

すると……。

「大大大大功です!」

所長室でロベールさんが聲を大にする。

彼にしては珍しく鼻息も荒く、々興しているよう。

「だから言ったでしょう?」

「は、はい……! 最初は半信半疑でしたが、まさか本當に聖水を作れるなんて! あなたは一……!」

「た、ただの治癒士です。どこにでもいる……」

「何回も言いますが、あなたのような治癒士は他にいません!」

ロベールさんが斷定する。

どうやら私達の開発した聖水は冒険者達に飛ぶように売れ、アンデッド狩りの革命とまで呼ばれたそうだった。

ダンジョンに出掛けて怪我をして帰ってくる人達も劇的になくなり、私達は大いに謝された。

その後。

ダンジョンの攻略はスムーズに進み、踏破するのも時間の問題だと聞いたのでした。

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