《真の聖である私は追放されました。だからこの國はもう終わりです【書籍化】》68・支配する側、される側

クロード王子視點です。

一方、王國。

クロードは今、國王陛下の前にいる。

傍らにはバルドゥル。

國に攻めってきた上級魔族で、國王に會わせろとクロードに命令した上級魔族である。

(本來ならお父さんに會わせるのも嫌だった。あとで怒られるからな。しかし……上級魔族はヤバすぎる。今逆らうのは愚策すぎだ)

當たり前だが、城は厳戒態勢がしかれている。

無論、この上級魔族と國王陛下の対面はクロードとの三人で行われているわけではない。

彼等を見守るようにして、何人かの騎士が固唾をのんでいる。

なにかあれば、國王のためなら命を投げ捨てるような連中だ。

本當ならもっと警備を増やしたかったが……バルドゥルの「あんまり人間を増やされるのも、鬱陶しいわー」の一言によって、これが落としどころとなった。

ちなみに聖レティシアは部屋に置いてきている。

さすがに今、レティシアの顔(・)について、國王陛下に伝えるのが気が引けたからだ。

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「魔族よ——そなたはどうしてベルカイム王國に來た。そなたのみを聞こう」

國王が尊大な態度で、バルドゥルに告げる。

しかし手が震えている。國王も怖いのだ。

王都が制圧されたことは、國王の耳にも屆いているだろうから。

「バルドゥルよ。ちゃんと名前を呼んでねー。せっかくだから仲良くしましょうよ」

バルドゥルが舌で自分のを舐める。

「わ、分かった、バルドゥルよ。すまなかった」

「分かればいいのよ」

クロードの目から見て、國王はバルドゥルの機嫌を損ねないよう最大限の配慮を払っているように見えた。

しかし舐められてもいけない。

そういった二つの思いがじっていることは、クロードでも安易に読み取れた。

(お父さんもまだまだ甘い。バルドゥルにガツンと言ってやればいいのに……いくら上級魔族でも、城にいる騎士全員を相手にするのは骨が折れるだろうしな)

——このような狀況にあって、未だクロードはそんな甘(・)い(・)ことを考えていた。

バルドゥルは続ける。

「聞いたわよ、聖エリアーヌを國外追放したらしいじゃない。だからこういうことになっているってことに、あんたは気付いている?」

「ああ、そのことか。聖についてはクロードに一任していたので、つい忘れてしまっておったぞ」

エリアーヌについては、最早國王もどうでもよかったのだ。

ゆえに國外追放&婚約破棄を國王に報告した時も、彼は「そうか」とただ一言言っただけだった。

「今思えば、儂の妃であったあの聖も胡散臭かった。しかし當時の大臣共が『あのの力は本のものです』と言うから、嫌々結婚しただけだ」

前々から國王も、この國の伝統である『聖』について不満を抱いていた。

しかし周りの大臣(バカ)や賢者(マヌケ)が進言するものだから、聖制度を継続させていただけ。

とはいえ、彼が國王に就いてから長らくかかっていた聖派の人間の粛正も全て終わり、彼を追放する障害がなにもなくなった。

ゆえに王子とはいえ、まだ子(・)ど(・)も(・)のクロードの獨斷で、このような振る舞いが許されたのだ——とクロードは分析する。

(そういえば、先代の聖が亡くなったのも、裏でお父さんが糸を引いている……なんて噂もあったが、果たしてどうだろうか)

まあ自分には関係がない。どうでもいい。

だが、クロードと國王のやり取りを見て、バルドゥルはほくそ笑んでいた。

「バカな親子」

バルドゥルは続ける。

「さっきも言ったけど、彼の力は本。それなのにわざわざ私達が侵攻する隙間を作ってくれるとはね」

「そ、そなたはなにを言ってお——」

「聖を追放してから、ドラゴンや私達が國に乗り込んできたのがなによりの証拠。哀れすぎて泣きそうになるけど……今はあなた達のバカさ加減に謝するわー」

國王はバルドゥルの言葉に反論出來ないようであった。

そう言ってバルドゥルは一瞬で國王の目の前まで移する。

それがあまりにも速すぎて、周りの騎士達は反応しきれていない。

「今からあたしが言うことは命令。決して渉ではないわ」

バルドゥルは爪で國王の顎を持ち上げて、こう続ける。

「まずこの國を魔族に明け渡しなさい」

「な、なにを言う!? そんなこと出來るはずがなかろうが!」

「だったらこの國にいる人達を全員殺すだけだわー。出來れば殘しときたいところだけど、ダメならダメで別にいいから」

「……くっ!」

國王は顔を歪めている。

ヤツの言っていることは本気だ。もし國王が首を橫に振れば、すぐにでも國にいる人達を皆殺しにするつもりだ。

(國民など、どうでもいいが……そうなったら僕達はどうなる? 僕達だけが助かるという保証はどこにもない……)

クロードはそう歯ぎしりした。

「分かった……今はひとまずそれで手を打とう」

「手を打とう? 言ったでしょ、これは渉じゃなくて命令だって。あんたはあたしの命令に頷いておけばいいだけよ」

バルドゥルが口角を吊り上げて、國王から爪を離す。

「今からこの國はあたし達の支配下。言うこと聞きなさいよ」

「一なにを考えておる……? そなたはなにが目的だ?」

國王がバルドゥルに問いかける。

「あたし達魔族の國って、ちょっと狹いのよねー。そろそろ広い庭がしかっただけよ」

バルドゥルはその場を優雅に歩き始めた。

「なんであたし達みたいな優秀な種族が、こんな目に遭わなくちゃならないの? ずっと疑問だった。だからあたし達のむことは……」

むことは?」

バルドゥルは國王の方を向き、満面の邪悪な笑みでこう言う。

「この世界の覇者となる」

「なっ……! そんなことが出來ると思っておるのか!? 大陸……いや、世界にはまだまだ人がおるのだぞ? いくらそなた等でも」

「うん、現時點ではちょっと無理。私達だけではまだ戦力が足りないわ。だからちょっとずつ私達に引き込む。謂うなれば、あんた達はその第一號。もっと栄に思いなさい」

世界の覇者……?

こいつは本気でそんなことを言っているのか?

それにこの世界は人間だけではない。ドラゴン族や霊族といった、人前には滅多に現さない種族も暮らしているのだ。

それ等をひとまとめに支配するのは、いくらなんでも魔族だろうが無理なはずだ。

「今までおとなしく我慢していたけど、もう限界。穏健派はわあわあ言ってきそうだけど、私が行を起こせば他の連中も付いてくるはず。謂わば、この國の支配はそのトリガーだった」

まるで舞臺俳優のようにその場をゆっくり歩き出すバルドゥル。

「さあて、次はな(・)に(・)を(・)支配しようかしら」

その笑みを見ると、クロードは背筋が凍る思いをするのであった。

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