《真の聖である私は追放されました。だからこの國はもう終わりです【書籍化】》73・薬師の資格

ヴィンセント様のことをいつまでもうだうだ考えているわけにもいかないので、私は魔法研究所に行って聖水作りを手伝っていた。

「はあ……」

「どうしたんですか、エリアーヌ様。暗い顔をして」

ロベールさんが私を気遣ってくれる。

いつの間にか溜め息を吐いてしまって、ロベールさんを心配させたみたい。

「いえ……ちょっと悩み事がありまして。ロベールさんに言うのもなんなんですけれど……」

「そうなんですか。もし私でよかったら話くらいなら聞きますので、遠慮せずに打ち明けてくださいね」

そう言って、ロベールさんは聖水作りを続けた。

私があまり言いたくない雰囲気を察してくれて、あまり突っ込んでこなかった。さすがロベールさん。

「それにしても最近は忙しいですね」

「すみません。私が超級ポーションや聖水なんか作ってしまったばかりに……」

「いえいえ、なにを言ってるんですか。研究者冥利に盡きますよ。けれどもう一人あなたがしいところです」

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苦笑するロベールさん。

もう一人の私か……。

だったら!

「えいっ」

私が目の前に手をかざして魔法を発すると、ぽわんぽわんと白い煙が現れた。

やがて煙がなくなると……。

「こ、これは……エリアーヌ様?」

ロベールさんは戸っている様子。

そう——私と全く瓜二つの人間が、今ここに降臨したのです。

とはいっても。

「魔力で作った人形みたいなものですけどね。ちょっとだけかすことは出來ますが、これを『もう一人の私』と言うのは無理がありますか」

と私は魔力を作して、もう一人の私(・)……によく似た人形をかしてみる。

右手を挙げる私の人形。ニッコリと笑みを浮かべてみたりしてみる。

だが、ここくらいが限界。

「こんなことも出來るんですね。これも治癒士の嗜みというヤツですか?」

「え、ええ。そういったところです」

ロベールさんは訝しむような視線を向ける。

むー……最近ロベールさん、私がた(・)だ(・)の(・)治癒士ではないことを、なんとなく分かっている気がするのですよね。

彼も優しいから、あまり追及してこないけれど。

「それにしてもエリアーヌ様に瓜二つです。近くで見ても見分けが付かない」

「いくら人形とはいえども、そ、そんな近くで見られると恥ずかしいです」

「失敬」

ロベールさんが私の人形から顔を離す。

彼が「もう一人の私がしい」と言うものだから、ちょっと冗談で人形を作ってみたけれど……興味を持ってくれたようでなによりです。

ちなみにこの人形、し離れていようが私が消そうとしない限りは存在し続ける。

半日くらいなんですけどね。しかしろくにかせないので、こういった冗句アイテムくらいにしか使いどころがない。

「私こそ失禮しました。聖水作りを続けましょう」

私は人形を消滅させる。

また白い煙が立って、それがなくなった頃には人形は跡形もなくなくなってしまった。

「エリアーヌ様はなんでも出來ますね。ポーションや聖水作りも慣れてきたみたいですし」

「ですか?」

ロベールさんに褒められると、つい良い気分になってしまう。

ポーションや聖水作りも、だんだん時間を短出來ている。使う魔力もなくなっていますし、この調子だとあまり無理せず続けられそう。

ほんと……っ! こんなに立派に薬師(?)らしい仕事をしているのに、ヴィンセント様ったらあんなことを言うなんて!

いや、世間知らずであることは否定出來ませんけどね。長らく王國に閉じ込められていたせいで、外の世界のことをあまり知りませんでしたし。

「あれ?」

ヴィンセント様への怒りをぶつけるように、ポーション作りに勤しんでいると。

研究室に無造作に置かれていた一枚の紙切れに目がいく。

「薬師の資格検定……?」

「エリアーヌ様、薬師の資格に興味があるんですか?」

ロベールさんが覗き込んでくる。

「これはなんですか?」

「元々薬師には資格があるんですよ。とはいっても資格がなければ出來ない仕事でもありませんけどね。でも資格があれば王宮や騎士団専屬の薬師になれたり、々と働ける場所が増えることも事実です」

「そんな資格が……」

薬師に憧れていたけれど、そんなものがあるとは知らなかった。

本の中で読んだだけですしね。本の登場人は資格なんて持っていなかったけれど……あれはお話の中。フィクションが混じっているんでしょう。

「この資格があれば、もっとを張れそうですね……現狀私、ポーションや聖水作りをしているとはいえ、知識面ではまだまだですし」

「超級ポーションや聖水を作っていれば、もう十分だと思いますが……教科書に書かれているものが全てではありませんし」

ロベールさんはそう言ってくれているものの、資格があるのはとても魅力的なことのように思えた。

……そうだ!

「これを取れば、もしかしたらあのお方を見返すことが出來るかも?」

ヴィンセント様は私のことをナイジェルの婚約者にふさわしくない……と言っていた。

みんなが私のことを認める、な(・)に(・)か(・)があれば別だとも。

それが薬師の資格なのかは分からない。というか違う気もする。

しかし目に見える分かりやすい資格があったら、もっと自分にも自信が持てるかもしれません。

「ロベールさん。私、この薬師の資格を取ってみたいです」

「エ、エリアーヌ様がですか?」

私の言葉にロベールさんは不思議そうな顔をする。

「おかしいですか?」

「いえ……そもそもあなたはそんな資格なんて持っていなくても、この國でも有數……いや世界でも一、二を爭う技を持った人だと思いますし、今更資格を取る必要がないと思うのですが?」

「あら、自分の力を過信してはいけません。それに薬師としての知識がないことは確かですから」

「まあエリアーヌ様がいいならいいんですが……でも大丈夫ですか? 試験は三日後ですよ」

三日後!

意外に直近だったので、つい臆してしまう。

しかし。

「も、問題ありません。きっと合格してみせますので」

「まあエリアーヌ様なら必ず合格出來るでしょう。もう試験の付期間は過ぎていますが、まあ私が言えば一人くらいならなんとかなるでしょう。言っておきますね」

「ありがとうございます」

さーて……実技は大丈夫だと思うが、問題は筆記試験。

これが終わったらすぐにお城に帰って、試験勉強をしなくてはいけませんね。

しの間とはいえ、さらに忙しくなる。

でも資格という響きに元々憧れていたのです。丁度いい機會でもあるでしょう。

「打倒……氷の公爵!」

「打倒……? 一あなたになにがあったんですか」

ロベールさんはそう問いかけてきたが、今の私には資格のことしか目に見えてなかった。

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