《真の聖である私は追放されました。だからこの國はもう終わりです【書籍化】》77・合格発表

試験は無事に終了。

なんでも採點と事務処理に一日かかるらしく、合格者は翌日に発表されることになるらしい。

私は一度王城に帰って、ドキドキワクワクで明日の発表を待ちわびていた。

そして合格発表當日。

私は昨日の試験會場まで足を運び、そこで合格か不合格を確認することになった。

それはいいんですけれど……。

「え……あれってもしかしてナイジェル殿下じゃない?」

「どうして王子殿下がこんなところに!?」

「それにあの隣にいる人って……もしかしてヴィンセント公爵?」

「この街に來ているとは聞いていたが、どうしてナイジェル殿下とヴィンセント公爵が二人で薬師の合格発表なんか見にくるんだ!?」

周りのみんなが私達の方を見てざわついている。

それもそのはず。

私一人で十分だと言いますのに、なんとナイジェルとヴィンセント様も付いてくることになったからです!

朝。

『あの……ナイジェル。私一人で大丈夫ですが?』

『なにを言うんだい。あれだけエリアーヌが頑張っていたんだ。結果が気になるのは僕も一緒だよ』

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『は、はあ……』

というやり取りを彼としたことを思い出す。

どうやら彼も一分一秒も早く、そして私と同時に試験結果を知りたいらしい。

まあそれはいい……ナイジェルが付いてくることは許しましょう。

問題は……。

「あ、あのー……どうしてヴィンセント様も付いてきているんですか?」

「くくく、なかなか寂しいことを言うではないか。私もこの街でやることも終わり、丁度暇だったのだ。これくらいの余興は許してくれてもいいだろう?」

ヴィンセント様は愉快そうに笑みを零していた。

きっと不合格に違いないと思って、私が落ち込んでいる顔を見たかっただけでしょう?

ふふーん、そういうわけにはいきません!

だって私、これでも試験結果にはまあまあ自信があるのですよ?

あなたの鼻っ面を折って差し上げます!

……あれ? こんなことを思ってたら、なんだかどんどん不安になってきました。もし不合格だったら? 逆にヴィンセント様には散々バカにされるでしょう。

私、大丈夫ですよね!?

「お、おい。試験結果が張り出されるぞ!」

誰かがそう聲を上げた。

見ると、昨日見た試験が何人か現れて、大きい紙を掲示板に張る最中だった。

「あっ、とうとう発表だね。ん……? エリアーヌ。さっきまで自信満々だったのに、どうしてそんな不安そうな顔をしているのさ」

「そ、そんなことありません!」

「お、おお……そうか」

私があまりにも聲を大きくしたものだから、ナイジェルがし気圧されていた。

ヴィンセント様が同伴していなければ、きっと平常心のままのはずだったのに!

この方が來て、ペースを崩されてしまいました。

「えーっと、私の験番號は65だから……」

紙にはずらりと合格者の番號が書かれている。

私は上から數字を追っていくと……。

「あ、ありました!」

見事『65』という數字を見つけることが出來たのです。

「やったね! まあ君だったらきっと合格していると思っていたけどね」

ナイジェルも一緒に喜んでくれる。

ふう……本當によかったです、合格してて。

試験らしい試験を経験したのはこれが初めてだったので、ドキドキで心臓が破裂してしまいそうでした。

そして……。

「ヴィンセント様」

私はすぐに彼に『65』と書かれた験票を突きつける。

「どうですか、これで私も薬師の資格を取りました。これだけでどうというわけでもありませんが、しは私もやるでしょう?」

「……?」

私の言葉に、ヴィンセント様は不思議そうな顔。

あれ……?

思っていた反応と違います。

「なにを言っている。お前だったらこれくらいの試験、合格するに決まっているだろう?」

「へ?」

予想だにしないことを言われて、つい変な聲を出してしまう。

「それにしても……どうしていきなり薬師の資格など取るつもりになった? こんなことをしなくても、お前は十分立(・)派(・)じゃないか」

「いや……ですが、あなたが『ナイジェルの隣にお前はふさわしくない!』と言うものですから、私……資格を取って、あなたを見返そうと」

あ……言ってしまいました。

喧嘩を売るみたいな真似にならないでしょうか?

しかしヴィンセント様は驚いたように、一瞬目を大きくした。

「驚いた。それが原因だったのか。別に私はそういうつもりで言ったつもりはない」

「え……でもだってあの時……」

「ヴィンス」

私とヴィンセント様が話していると、ナイジェルが橫から割ってってきた。

「君、エリアーヌに一なにを言ったんだい?」

「別になにも言っていない。お前の……そのあ(・)れ(・)だと聞いていたからな。どんなか見極めようとしただけだ」

あ(・)れ(・)というのは『婚約者』ということでしょう。こんなに人がいるところで、そう言葉に出すことも出來ないですから。

「……また誤解されるようなことを言ったんだね」

「私は普通に話していただけだ」

ヴィンセント様はむすっとした顔。

しかしすぐに表を元に戻し、私に顔を向ける。

「そもそも聖水の件も彼のおかげと聞いていたからな。あれのおかげで助かっている。それに領地に結界も張ってくれた。これだけやって、お前が無能だというつもりは頭ない。重ね重ね禮を言う」

「重ね重ね……って! 初めて聞くんですが!?」

「そうだったか?」

ヴィンセント様は首をかしげる。

あー、もう!

いくらナイジェルと仲が良いからといって、こんなところまで似なくていいですから!

でも……だったら彼はどうして私にあんなことを言ったんでしょうか?

私が混していると、ヴィンセント様は自分の顎を手ででながらこう続ける。

「しかし最後にめでたいものを見れた。これで良い気分のまま、領地に帰れるだろう」

「もう帰られるんですか?」

「ああ。今からこの街を発とうと思う」

今から——。

本來ならほっと一安心するところ。

けれど何故だか心がもやもやする。

「そ、そうだったんですか……」

「では……私はそろそろ城に戻らせてもらい、荷をまとめるとしよう。あとは二人で楽しく喋っておけ」

最後にヴィンセント様はそう言い殘して、私達の前から去っていった。

彼の背中を見守っていると、ナイジェルに後ろから肩を叩かれる。

「エリアーヌ、すまない。ヴィンスについてちょっと説明不足だったね。悪いヤツじゃないんだ。説明不足で誤解されやすいだけで……」

「い、いえいえ……! わ、私はそんなこと、思っていませんですので!」

そうは口で言うものの、もしかしたら彼のことを十分に理解していなかったかもしれません。

「そうだ。昨日の朝、言おうとしたことなんだけど……そのお守り——」

「エリアーヌ様!」

ナイジェルがなにかを言い出そうとした時。

會場から試験の方々が一斉に私達に向かってきた。

「こんなところにいたんですか! あなたに話があります!」

「私に?」

「ええ! 薬學者のバート様をご存知ですか?」

「えーっと……読んだ本にそういった名前がちらほら出てきたような……」

かなり有名な薬學者らしい、ということくらいは知っている。

「あの方が作った試験問題も完璧に正解し、実技では聖水も作ってしまう! そんなあなたの偉業をバート様が褒め稱えたいらしく……ついでに聖水についてのお話も聞きたいそうです」

「え、えーっ!」

そんな有名な方が私のことを褒めるだなんて……正直言って止めてしい!

王國にいた頃の後癥のせいか、まだ人から褒められることは慣れていないんです!

それに……なんだか話も長くなりそう。気が重い。

「エリアーヌ、逃げるよ」

そんな私の手をナイジェルが握る。

「あんまりこういうの嫌なんだろ? 早く城に帰ろう」

「え、ええ。そうですね」

さすがナイジェル!

私のことをよく分かっているではないですか!

ナイジェルに引っ張られ、私は試験から離れていく。

「待ってください、エリアーヌ様! それにナイジェル殿下! どうか彼にお話だけでも!」

試験の方々がそう手をばしていたが、ナイジェルが一緒ということもあってか、無理に追いかけてくることはなかった。

ごめんなさい!

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