《真の聖である私は追放されました。だからこの國はもう終わりです【書籍化】》78・ヴィンスのことが嫌いかい?
「え……? このお守りってナイジェルがくれたわけではないんですか?」
王城に帰って。
ナイジェルから衝撃の事実を告げられた。
「うん」
「じゃあ誰が……」
「ヴィンスだよ」
ヴィンス——ヴィンセント様。
私は首にかけたネックレスを手に取り、水晶の中の『合格祈願』という文字をあらためて見た。
「君が疲れ果てて書庫で寢ているところを見かけた時……」
混している私に、ナイジェルが話を続ける。
「最初は起こそうとしたんだけどね。でもあまりにぐっすり眠っているものだから聲をかけられなかったんだ。だから布を用意して、もう一度書庫に戻ろうとしたら……その時にヴィンスがこれを渡してきたんだ」
「どうしてヴィンセント様がこれを?」
「さあ。気まぐれだったかもしれないね。だけどヴィンスはこう言っていたよ。
『あいつに渡してくれ。このお守りがあって合格するという話でもないが、気休めくらいにはなるだろう』
……って。それ以上理由(わけ)を聞いても教えてくれなかったけど」
Advertisement
「なんてこと……」
あの手紙を読んで、てっきりお守りもナイジェルが用意したことだと決めつけてしまっていました。
だってヴィンセント様だなんて……予想だにしていなかったですもの。
「ねえ、エリアーヌ。君はヴィンスのことが嫌いかい?」
「え?」
ヴィンセント様のことが嫌い——。
どうでしょう。嫌みな人だとは思います。
ですが、何故だかどうしても嫌いになれません。苦(・)手(・)はありましたけれどね。
言い淀んでいる私を見て、ナイジェルはなにかを察したのか。
「ちょっと言ったけど、あいつは昔から誤解されやすいんだ。一見ぶっきらぼうな格のように見えるからね。そのせいで學院時代も無駄に敵を作ってしまうことも多かった。ただ……」
ナイジェルが昔を懐かしむように続ける。
「実際のところは優しいヤツなんだ。その証拠に、周囲のヤツもいつの間にかヴィンスのことを好きになっている。最終的には僕より友人は多かったんじゃないかな? まあ『敵』と見なした相手には容赦しないヤツでもあったが……エリアーヌはそうじゃないと思う」
「あの方に友人が多いって……失禮ですけれど、あまり想像出來ませんでしたね」
「ああ。それもよく言われる」
ナイジェルが小さく笑う。
皮ばかりで嫌な人だと思った。
だけど——皮(・)(・)ではないとしたら?
ヴィンセント様は私になにかを忠告しようとして、結果的にあんな言いになってしまっていたら?
今まで彼に抱いていたが反転する。
「ナイジェル」
ナイジェルの名前を呼ぶと、それだけで彼は私の言いたいことが分かってくれたのか。
「うん。ヴィンスはもう城を発とうとしている。あんまりもたもたしてたら、いなくなってしまうかもしれない」
「あ、ありがとうございます! 私……あの人に言わなければならないことがあります!」
私はナイジェルからの返事を待たずに、急いで城門へ走っていた。
◆ ◆
「ヴィンセント様!」
城門から帰ろうとしているヴィンセント様の姿を見つけて、私はそう呼びかける。
するとゆっくりと彼の顔がこちらを向いた。
「どうした?」
じっと私の顔を見つめるヴィンセント様。
彼の従者も怪訝そうな顔で私を見る。
うぅ……勢いのまま飛び出してしまったけれど、ヴィンセント様の顔を見ていると頭が真っ白になる。
氷の公爵。
冷酷な格で他人を寄せ付けないお方。
だが。
「お守り……! ありがとうございました!」
私はネックレスを掲げる。
——そんな冷たい格をしている方が、私にお守りを渡してくるはずがありません!
勇気を振り絞ってお禮を伝えると、ヴィンセント様は一瞬だけ驚いた表をして。
「……そうか。わざわざ言いにきてくれたのか。まあ気にしなくていい。しはそのお守りは役に立ったか?」
「は、はいっ! これのおかげで試験にも落ち著いてのぞむことが出來ました」
「それはなによりだ」
そう言って、ヴィンセント様は私に近寄る。
そして私の頭にポンと手を置いた。
え……?
私はなされるがまま。抵抗せずにヴィンセント様の手をけれる。
「誤解されていたようだが、私はお前とナイジェルを応援している。だがこれから苦難も待ちけているだろう。頑張れよ」
ヴィンセント様が言う。
その言葉はらかく、そして暖かかった。
まるで私の張りつめて氷(・)のようになっていたが解凍されているかのよう。
「はい……! 私、みんなから認められるになります」
「ふっ、その意気だ」
ヴィンセント様がゆっくりと私の頭から手を離す。
その時——見てしまった。
彼の頬がわずかに綻んでいたのを。
「ヴィンス」
聲がする方向を見ると、そこにはナイジェルがいた。
どうやら私の後を追いかけてきたようです。
「頑張れよ。君のところの領地は々と問題も多いと思うけど……」
「誰に言っている。お前に言われなくても、私は領地を立派に発展させてみせる」
「だろうね」
最後にヴィンセント様はそう言い殘して、背中を向ける。
そして城門から去っていったのです。
どんどん小さくなっていく彼の背中が見えなくなるまで、私はその場から離れなかった。
「エリアーヌ」
ナイジェルが私の肩に手を置く。
「もう一度聞くよ。エリアーヌはヴィンスのことが嫌いかい?」
「いえ……最初は苦手でしたが、とても悪い人だとは思えません」
今、ヴィンセント様と言葉をわして。
今まで彼に抱いていた印象が隨分変わっていた。冷たい格だと思っていたけれど、それどころか優しくて溫かい人柄のように思えてきました。
となると。
「どうして彼が氷の公爵だなんて呼ばれていたか分かりません」
「まあある意味、人から誤解されやすいヴィンスらしい異名かもしれないね」
ナイジェルの言葉に、私は妙に納得してしまうのでした。
【作者からのお願い】
「更新がんばれ!」「続きも読む!」と思ってくださったら、
下記にある広告下の【☆☆☆☆☆】で評価していただけますと、執筆の勵みになります!
よろしくお願いいたします!
【完結&感謝】親に夜逃げされた美少女姉妹を助けたら、やたらグイグイくる
※完結済み(2022/05/22) ボロアパートに住むしがない28歳のサラリーマン、尼子陽介。ある日、隣に住む姉妹が借金取りに詰め寄られているところを目撃してしまう。 姉妹の両親は、夜逃げを行い、二人をおいてどこか遠くに行ってしまったようだ。 自分に関係のないことと思っていたが、あまりにも不憫な様子で見てられずに助けてしまい、姉妹に死ぬほど感謝されることとなる。 そこから、尼子陽介の人生は大きく変わることになるのだった――。
8 105桜雲學園の正體不明《アンノウン》
「桜雲」それは近年政府の主導により、 急速な発展を遂げた都市である。 特徴的なのは、 全校生徒が3000人を越える桜雲學園であろう。 學園では未來科學というカリキュラムを學び、 それにより與えられたタレントを駆使して、 生徒同士で切磋琢磨しようという develop one's potential 通稱DOPが毎週開かれている。 そんな學園に通うこととなった石崎景は 平穏な學園生活を願うものの天真爛漫な少女、 明日原陽奈に誘われ、ある部活に入ることとなる。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿です。 いいね、フォロー、よろしくお願いします。
8 161俺の得能は「平凡」だった。
この世界には1000人に一人「得能」を持つものが生まれる。 「得能」すなわち得する能力のことだ。サッカーが圧倒的に上手くなる得能や足がめちゃくちゃ速くなる得能、種類は様々だ。 その得能を所持して生まれてきたものは高校から得能を育成する學校、「得能育成學校」に行くことになる。 俺、白鳥伊織はその一人だった。だがしかし! 俺の得能は「平凡」であった。 この話は平凡な俺がある出來事で成長する話。
8 149気付いたら赤ん坊になって異世界に転生していた主人公。そこで彼は、この世のものとは思えないほど美しい少女と出會う。既に主人公のことが大好きな彼女から魔術やこの世界のことを學び、大量のチートを駆使して、異世界を舞臺に無雙する! ついでに化け物に襲われていたお姫様を助けたり、ケモミミ奴隷幼女を買ったりして著々とハーレムを築いていく。そんなお話です。 ※この作品は『小説家になろう』様でも掲載しています。
8 59ひねくれ魔術師が天才魔法使いよりも強い件について
『大魔法世界』この世界で懸命に生きる ひねくれ魔術師の物語 強者揃いの魔法學園で暴れ回る! こちらの作品は様々な事情から『ひねくれ魔術師と魔法世界』に移行しました。 ご迷惑をおかけして大変申し訳ございません。
8 187糞ジジイにチートもらったので時を忘れ8000年スローライフを送っていたら、神様扱いされてた件
糞ジジイこと、神様にチート能力をもらった主人公は、異世界に転生し、スローライフを送ることにした。 時を忘れて趣味に打ち込み1000年、2000年と過ぎていく… 主人公が知らないところで歴史は動いている ▼本作は異世界のんびりコメディーです。 ただしほのぼの感はひと時もありません。 狂気の世界に降り立った主人公はスローライフを送りながら自身もまたその狂気に飲まれて行く… ほぼ全話に微グロシーンがあります。 異世界のんびりダークファンタジーコメディー系の作品となっております。 "主人公が無雙してハーレム作るだけなんてもう見たくない!" 狂気のスローライフが今ここに幕を開ける!! (※描くのが怠くなって一話で終わってました。すみません。 再開もクソもありませんが、ポイントつけている人がいるみたいなので書きたいなと思っています) 注意 この物語は必ずしも主人公中心というわけではありません。 グロシーンや特殊な考え方をする登場人物が多數登場します。 鬱展開は"作者的には"ありません。あるとすればグロ展開ですが、コメディー要素満載なのでスラスラ読めると思います。 ★のつく話には挿絵がついています。 申し訳程度の挿絵です 一章 0〜5年 二章6〜70年 三章70〜1160年 四章1000前後〜1160年 五章1180〜(996年を神聖歴0年とする) 《予定》五章 勇者召喚編、ただ今制作中です ●挿絵が上手く表示されないトラブルも起きていますが、運営が改善して下さらないので放置してあります。 気になった方いたら、本當に申し訳ございませんと、今ここで謝罪されて頂きます● 【なろうオンリーの作品です】 【この作品は無斷転載不可です】
8 161