《真の聖である私は追放されました。だからこの國はもう終わりです【書籍化】》79・【SIDE ヴィンセント】

「ヴィンセント様。今日はご機嫌がよろしいようですけど、なにか良いことでもおありで?」

執事のセバスに言われ、慌ててヴィンセントはすぐに自分の頬に手を當てた。

「そうか?」

「はい。いつものヴィンセント様と表が違います」

「……いつもと同じだと思うが」

「いえいえ。このセバスにはお見通しですぞ」

もしやと思い頬をってみたが、いつの間にかにやけていたわけでもない。

セバスはヴィンセントが生まれた時から、彼の専屬執事だった。

彼にしか分からないな(・)に(・)か(・)をじ取ったのだろうとヴィンセントはそう無理矢理納得することにした。

「だが……面白いを見つけた」

「ほう?」

「もしかしたらそれが原因かもしれぬな」

「それはそれは」

微笑ましそうなセバス。

(げせぬ。なにがそんなに楽しいんだ)

——王城がある街を出て。

今は自分の領地に帰るまでの道中。

馬車の中であの……エリアーヌのことをヴィンセントは思い出していた。

Advertisement

最初、ナイジェルから婚約者の話を聞かされた時は、なにかの冗談かと思った。

ナイジェルは學院時代からに興味がなかった。

絶世の貌、しかも家柄も申し分ないがナイジェルに近付こうとしても、彼は一切振り向こうとすらしなかった。

不信のところがあるのかもしれないな)

跡継ぎを作らなければならない王子という立場であるというのに、ナイジェルのそんな態度をヴィンセントは何度も注意していたものであった。

そんなヤツに——婚約者が出來た。

しいであった。

なんでも凄腕の治(・)癒(・)士(・)らしく、聖水を作ったのも彼のおかげだとか。

さらにはリンチギハムの街や村に結界を張ったのも、彼が手伝ってくれたおかげ……という話も聞いたが、どこまで本當か分からない。

治癒士としての腕は申し分ないのだろう。それは間違いない。

しかし聞くところによると、彼は名のある貴族の出ではないらしい。

一般庶民がこの國の第一王子の婚約者?

そんな話、ヴィンセントは他國でも聞いたことがなく耳を疑ってしまった。

「それでもあいつが好きになったなんだ。どんなヤツか見極めてやろうかと思ったが……想像以上だったよ」

ヴィンセントはセバスに語りかけるが、彼から返事はこない。

だが、同時に確かに話に耳を傾けていることも、彼と長い付き合いであるヴィンセントは分かった。

玉座の間にり、一際しいに目がいった。

その時、ヴィンセントはピンときた。

もしやこいつがナイジェルの婚約者ではないか? ——と。

どうやらその予想は當たっていたようだった。

「毒蟲のようなに捕まり、危機に陥った國もあるくらいだからな。どんなかと警戒していたが……安心したよ。どうやらその類ではなさそうだ」

これでも王から一つの領地の統治を任されている。

人を見る目にはヴィンセントは自信があった。

しかしエリアーヌは自分のことを怖がっているように見えた。

なにもしていないのにどうしてだ? そもそもお前は私なんかよりも地位の高い王子の婚約者なんだぞ? たかが一領主の私を怖がる必要はないではないか——。

そう不思議に思ったことを今でも鮮明に覚えている。

しく、そして治癒の力も規格外。

さらに——これはヴィンセントの勘だが——澄み渡った心を持ったにも見える。

これだったらナイジェルの婚約者として申し分ない。

……と思うのはまだ優しい方。

「貴族や王族の中には、王子の婚約者が庶民というだけで目くじら立てる連中もいるからな。私は能力があるなら分の差など、くだらないことだ……と思っているが、エリアーヌをよく思わないヤツ等も現れるだろう」

そのことを彼は分かっているのだろうか?

興味半分、心配半分。

心配になり翌日、エリアーヌに會いに行き、親切心でヴィンセントは一つ警告することにした。

『果たして、お前にナイジェルの婚約者が勤まるかな?』

『世(・)間(・)知(・)ら(・)ず(・)のお前とナイジェルとでは釣り合うのだろうか……と他の者が考える可能があるということだ』

お前とナイジェルがし合っていても、好ましく思わない連中は山ほど出てくる。

そいつ等が現れても、お前は対処出來るのか?

そういう意味での問いだった。

しかし彼は目の中に宿る意志を強いものにして、ヴィンセントを睨み返してきた。

ほお……?

どうしてこんなに敵意のこもった目で見られるのかは分からないが、なかなか度のあるだ。

自分よりも長の高い男に詰め寄られて、みじんも恐怖をじないなどいないはずだから——。

そうヴィンセントは心したものだ。

あの時、ヴィンセントはエリアーヌのことを「ただものではない」と評価していた。

たとえ彼とナイジェルの間に障害が現れようとも、決して怯むことなく立ち向かうと。

しかしこう強く睨まれた結果、ヴィンセントの中のちょっとした加心がくすぐられた。

ヴィンセントはさらに追い詰めるように、壁に手を置いて彼の逃げ場所をなくした。

『どいてください。それににそんなことをするのは、あまり褒められた行為ではありません』

それでも彼はキッと私から視線を逸らさなかった。

(そんな彼につられて、ついつい私も『食べちゃいたくなるではないか』と柄にもないことを言ってしまった)

それが追々、恥ずかしくなったのは誰にも緒だ。

もうしエリアーヌと話しておきたかったが、従者らしき男が現れ、そこで話は終了になってしまった。

『皆がお前の存在価値を認めるな(・)に(・)か(・)があれば別かもしれないがな』

と最後に助言を言い殘して、ヴィンセントは彼の前から去った。

無論、彼には治癒士や薬師としての能力がある。

それらをみんなに示して、自分がナイジェルと隣り合う価値のあるだ——そう証明し続けろという意味だった。

しかし。

「くくく……まさか私の言葉を曲解して、薬師の資格試験をけるとはな。そんなことをしなくても、あいつは十分すぎるほどの力を持っているというのに」

「ヴィンセント様は昔から言葉が足りなすぎます。そういうことでは誤解されますよ。昔、側近達を粛正した時のように」

セバスが言っているのは、不正な出金があった側近共を辭めさせた時のことである。

なんでもヤツ等は領の金を使って、豪遊していたらしい。

今は亡き元領主の父は優しく、なあなあにしていたが、ヴィンセントはとてもじゃないが見逃すことが出來なかった。

ヴィンセントはすぐにそのことを追及し、不正をしていた側近共を辭めさせて、犯罪者として法の下で裁いた。

(しかしその話に尾びれがついて、『反対派の大臣共を皆殺しにした』という噂が一時期流れたこともあったが……あの時はし反省したものだったな)

ちなみに殺してはいない。

しかし爵位を取り上げ、今は山奧の田舎でひっそりと暮らさせているが……彼等にやる気があるなら、きっと人生をやり直してまた政治の世界に戻ってくるだろう。

(……まあそんな、ヤツ等にあるとは思えないがな)

「ヴィンセント様が氷の公爵と呼ばれているのも、私はいかがなものかと思っていますが……あなたはもうし自分のイメージを向上させることに力を使うべきです」

「興味がないな。それに……苦手だ」

セバスの言葉にヴィンセントは苦笑する。

(そもそも氷の公爵だなんて言われるから、誤解されるのだ)

どうしてそんな誤解されるような異名を……と當初ヴィンセントは思ったが、これも自分らしいと考え否定はしなかった。

「あのお守りもしは役に立ったみたいだからな。まあ彼の中での私のイメージは、氷のように変わっていないと思うが……」

「それはないと思いますよ」

「何故だ?」

「このセバス、あなたをずっと見ていますから。それくらいは分かりますよ」

セバスは表一つに変えずに言う。

相変わらず表に出さない男である。

(しかし——あのようなが將來の王妃ならば、この國も安泰だろう)

あの街での滯在を思い出し、ヴィンセントは素直にそう思うのであった。

「だが、気を緩めるわけにはいかん。セバス、帰ったらすぐに仕事をするぞ」

し休まれては?」

「そんなことをしている暇はない。新しいダンジョンは聖水のおかげでなんとかなりそうとはいえ、まだまだ領には問題が山積みだからな」

他國からの侵攻も防がないといけない厄介な領地。

(全く……なかなか面倒な地の領主になったものだ)

だが——やりがいはある。

ヴィンセントはすぐに頭を切り替え、領地のことを考えるのであった。

【作者からのお願い】

「更新がんばれ!」「続きも読む!」と思ってくださったら、

下記にある広告下の【☆☆☆☆☆】で評価していただけますと、執筆の勵みになります!

よろしくお願いいたします!

    人が読んでいる<真の聖女である私は追放されました。だからこの國はもう終わりです【書籍化】>
      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください