《真の聖である私は追放されました。だからこの國はもう終わりです【書籍化】》81・平和な旅路……?
ヴィンセント様が街を去り、落ち著きを取り戻したある日。
「我が行く」
『ダメだ。ラルフが行く』
中庭。
ドグラスとラルフちゃんが睨み合い、バチバチと火花を飛ばし合っていた。
「汝でエリアーヌを守ることが出來るというのか?」
『神獣を舐めるな。それにエリアーヌはそなたに抱っこされるのを嫌がっているようだが?』
「くくく、なにを言っている。見當違いも甚だしい。エリアーヌ、そうであるな?」
「うーん、嫌ではないですが、良くもないですね」
「げせぬ」
ドグラスは腕を組んで不満顔。
「なにが良くないんだ。もしかして乗り心地か? それだったらもうし優しく抱っこしよう」
「そ、そういうことではありません!」
あなたに抱っこされるとドキドキして、私のが持たないんです!
……なーんて言ったらドグラスが調子に乗ってしまいそうなので、言わないですが。
「今回はラルフちゃんにお願いしましょうか? フィリップ達にペッ——ラルフちゃんを紹介したいですし」
『おい、待て。今、ラルフのことをペットと言いそうになったな? ペットでも従魔でもなんでもいいが、もしやラルフのことをただの犬だと思っておらぬな?』
ラルフちゃんに追及されるが、私は答えなかった。
そう。
今日、フィリップ達のところに行くことにしたのです。
理由は……もちろん料理を作りに行くため。
最近、ヴィンセント様のことや資格勉強のこともあって、なかなか行く時間を作れなかった。
とはいっても前回行ってから十日も経っていないですけれどね。
霊達に早く會いたい。
「それに道中でなにか危険があれば、あなたに貰った寶玉もありますから」
「それもそうだが……」
私一人で行くのも危ないし時間もかかるから、ドグラスかラルフちゃんに付いてきてもらおうと思ったのです。
両方とも連れて行くことも可能。だけどやっぱりドラゴンと神獣をセットで行くのは、まだまだフィリップ達を怖がらせてしまうかもしれません。
それにドグラスとラルフちゃんが一緒になると、また喧嘩を始めてしまうでしょう。
まあ喧嘩とはいえ、本気ではなくてじゃれ合っているようなものだとは思いますが。
私が言うと、し納得いっていないようなドグラスであったが、
「まあよかろう。我は余裕のある男。留守番を謳歌してやろうではないか」
と渋々納得してくれた。
留守番を謳歌……ってなにをするつもりなんでしょうか? まあ納得してくれたなら、なによりなんですけれど。
「しかし……なにかあればすぐに寶玉を使って我を呼ぶのだぞ。使うのに躊躇するな」
「もちろんです」
よーし、これで決まりです。
正直、またドグラスと二人旅……となると心の準備も必要になってきますが、ラルフちゃんとだったらまったり行くことが出來るでしょう。
「ではラルフちゃん。早速行きますか」
『任せろ』
ラルフちゃんの上に乗る。
久しぶりにラルフちゃんに乗りますが……やっぱりもふもふは正義! り心地がとても気持ちよかった。
「出発です!」
「わおーん!」
ラルフちゃんは雄びを上げ、地面を蹴って走り出した。
風を切って走るラルフちゃん。
ぐんぐんと霊の森に近付いていく。
本來ここまで速度が出たら、振り落とされる危険も考えないといけないんだけれど……。
『心配するな。ラルフの安定を舐めるではない。決してエリアーヌを落とさないようにしよう』
「頼りにしています」
何回かラルフちゃんに乗って、私もしずつ慣れてきた。
今ではこうして周囲の風景も楽しめるくらい。
「それにしても長閑(のどか)ですねえ」
『だな』
どこまでも緑が広がっている草原。
突き抜けるような青空。
風も心地よく、同じような道が続くのでなんだか眠たくなってきたほどだ。
そんな平和な道中であったが……。
「ん……?」
道の先に、端でうずくまっている一人の年に目がいった。
「あの子、なにをされているんでしょうか?」
『苦しんでいるようにも見えるな』
「心配ですね……ラルフちゃん。速度を落としてくれますか?」
『うむ、分かった』
ラルフちゃんは走るのを止め、年を怖がらせないようにゆっくりと歩き出す。
大丈夫でしょうか……。
フィリップ達のもとに行くのが遅れてしまいますが、こういうのを見逃せない分なのです。
やがてラルフちゃんは年の前で立ち止まった。
「あのー、どうかされましたか?」
私はラルフちゃんから降りて、年に話しかけた。
彼はゆっくりと顔を上げる。今にも泣き出しそうな顔。
「お、お姉ちゃん……ごめんなさい。ボク……お母さんを人質に取られてて……」
「人質に?」
「本當にごめんなさい!」
なにがなんだか分からない。
しかし……その時であった。
後頭部に強い痛みが走り、意識がブラックアウトしてしまったのは。
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