《真の聖である私は追放されました。だからこの國はもう終わりです【書籍化】》83・呑めない要求
「ど、どうして彼がこんなことに!?」
フィリップが聲を荒らげてしまう。
それを聞き、魔族——バルドゥルは気持ちよさそうに続けた。
「私もよく分からないのよー。なんでも小さな男の子を助けようとしたところを、私達の部下が手伝った……ということを聞いてるけど」
「噓を吐くな!」
「本當よ。で……こんなところで立ち話もなんだからと、私達の家に招待したっていう経緯らしいわー」
「なにを戯(たわ)けたことを……」
斷定しよう。バルドゥルの言っていることは100%噓である。
フィリップはバルドゥルの要求を拒否した。
だが。
「ま(・)だ(・)手荒な真似はしていない」
混しているフィリップの一方、バルドゥルは余裕綽々にこう口にする。
「でもね、私の部下。可いの子を見つけたら、ちょーっと一緒に遊びたくなる困った格をしているのよ。もしかしたら、彼にはその遊びに付き合ってもらう必要が出るかもしれないわ。そのせいでこの村には二度と來れなくなるかもしれない」
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「くっ……」
フィリップはテーブルに拳を叩き付ける。
(遊びというのはろくでもないことに違いない。エリアーヌが危険に曬されてしまう。なら……どうすればいい? 無関係な彼を巻き込むわけにはいかない!)
バルドゥルを村に迎えれることは自殺行為だ。
とはいえ、ここでフィリップが拒否したとしても、今度はエリアーヌが殺されてしまうかもしれない。
(なんという卑怯な……!)
こうなってしまったからには、フィリップの出來ることは一つだけだ。
「……分かった。だがバルドゥル、村にっていいのはお前一人だけだ。これは譲れない」
『ふふふ、分かったわー。今(・)のところはそれで納得してあげる。せっかくだし、顔を付き合わせてお喋りしましょう』
上機嫌なバルドゥル。
しかし一方のフィリップは歯ぎしりし、今後のことを計算していた。
バルドゥル一人だけ……と條件を付けたのは、それならここにいる霊達でもなんとか対処出來ると判斷したためだ。
だが、ヤツは一人だけではないだろう。
このような姑息な手段を使い、渉してくるということはいつでも部下が総攻撃を仕掛けられるように待機している可能が高い。
(考えろ……! この事態をおさめる手段を!)
フィリップは思考するが、都合良く名案が思い浮かぶことはない。
屈辱に塗(まみ)れながらも、やむを得ずフィリップは村の結界を解くことになった。
「ふうん、なかなか良いとこじゃない」
村の中央広場。
本當なら今頃、ここでエリアーヌの料理にみんなが舌鼓をうっている頃ではあったが……來たのは災厄。
フィリップとバルドゥルが向かい合い、二人を囲むようにして他の霊達が心配そうにり行きを見守っている。
「……なにが目的だ」
フィリップは低い聲でバルドゥルに告げる。
「やーねー。そんなに怖い顔しちゃダメよ。私はお喋りしにきただけなんだから。もっと仲良くしましょ」
バルドゥルが握手を求めるが、フィリップはそれを無視する。
ヤツのお姉口調がやけに耳にまとわりつき、フィリップはさらに不快な気分になった。
バルドゥルはニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべ。
「私の目的はただ一つ。あなた達霊と協力関係を結びたいの」
「協力関係……だと?」
「うん。的に言うと場所の提供。私達魔族を何かここに住まわせてしいの」
そんなこと——出來るわけがない。
武力に欠けた霊達では、魔族と面向かって戦うことが出來ない。
だからこそ、人里離れた森に隠れ、厳重な結界を張ってひっそりと暮らしてきたのだ。
バルドゥルの要求はそれだけでは止まらなかった。
「そしてもう一つ。私達がこれからしようとすることに手伝ってしいの」
「一なにをするつもりなんだ?」
「私達魔族が世界の覇者となる礎を作るのよ。そのために王國の中心——王都であの儀(・)式(・)をする」
バルドゥルからそれを聞き、フィリップの顔が一瞬で青ざめる。
「なっ……! お前等はまだ諦めていなかったのか!? そんなことが本當に出來ると思っているのか?」
「出來る出來ないじゃなくてするのよ。大丈夫。私の計畫は完璧だから。生け贄はいーっぱい、いるんだからね」
そうバルドゥルはウィンクする。
バルドゥルの言う『生け贄』とは、それ即ち——間違いなく、王國民の命であろう。
(なんということを……あの儀式が功してしまえば、どれだけの者が犠牲になるだろうか)
だが、いくらが十分になったとはいえ、魔族だけではあの儀式を功させるには々骨が折れる。
普通なら莫大な時間が必要になる。
そのためにバルドゥルは、魔力に長けた霊達の力を使おうとしているのだ。
(しかし……そんなことが許されるわけにはいかない。それをすれば俺達だけではなく、世界の終わりだ。なんとしてでもそれだけは阻止しなければならない)
とはいえ馬鹿正直に拒否したとしても、バルドゥルは決して首を縦に振らないだろう。
どうすればいいのか……フィリップが考えを巡らしていると、
「まああんた達からしたら呑める話ではないわよねー。でも呑んでもらうわ。拒否すればあんた……とってもイケメンだし、私の遊びに付き合ってもらおうかしら」
とバルドゥルは舌舐めずりした。
(さっきまで話し合いとか言ってたくせに……最初から渉などするつもりはなかったということか)
だが、バルドゥルの言葉にフィリップは一筋の明を見出す。
「……俺のことなら好きにしてもらっていい。死ぬまで付き合ってやろう。だが他の霊達には手を出さないでしい」
「分かったわ……と言いたいところだけど私、あんまり噓を吐きたくないのー。もちろん、他の霊達にも遊んでもらうわね」
フィリップは心で舌打ちする。
(やはり……俺だけが犠牲になろうと無駄だったか。まあ魔族の言うことなど、とてもじゃないが信じることは出來ないが……)
ならばどうする?
ここで提案を拒絶し、バルドゥルと戦うことは可能だ。ヤツ一人だけなら勝てないにしろ、なんとか追い返すことくらいなら出來るだろう。
しかしそうしてしまった場合、エリアーヌがどんな目に遭わされるか分からない。
彼は外見だけではなく、心もしい聖。
なんの見返りも期待せずに、フィリップ達に手を貸してくれた。
(みんな、すまない。俺達の命の恩人を——巻き込むわけにはいかない!)
フィリップは前を向き、バルドゥルの目を真っ直ぐ見つめる。
「……わ、分かっ——」
そうフィリップが口をかそうとした時であった。
「その必要はありません!」
村に澄み渡った聲が響き渡る。
その聲の主にフィリップは視線を向けた。
「エ、エリアーヌ……!」
そう。
魔族に捕われているはずのエリアーヌのご登場——そして彼の傍らにはナイジェルが立っていた。
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【コミカライズ&書籍化(2巻7月発売)】【WEB版】婚約破棄され家を追われた少女の手を取り、天才魔術師は優雅に跪く(コミカライズ版:義妹に婚約者を奪われた落ちこぼれ令嬢は、天才魔術師に溺愛される)
***マンガがうがうコミカライズ原作大賞で銀賞&特別賞を受賞し、コミカライズと書籍化が決定しました! オザイ先生によるコミカライズが、マンガがうがうアプリにて2022年1月20日より配信中、2022年5月10日よりコミック第1巻発売中です。また、雙葉社Mノベルスf様から、1巻目書籍が2022年1月14日より、2巻目書籍が2022年7月8日より発売中です。いずれもイラストはみつなり都先生です!詳細は活動報告にて*** イリスは、生まれた時から落ちこぼれだった。魔術士の家系に生まれれば通常備わるはずの魔法の屬性が、生まれ落ちた時に認められなかったのだ。 王國の5魔術師団のうち1つを束ねていた魔術師団長の長女にもかかわらず、魔法の使えないイリスは、後妻に入った義母から冷たい仕打ちを受けており、その仕打ちは次第にエスカレートして、まるで侍女同然に扱われていた。 そんなイリスに、騎士のケンドールとの婚約話が持ち上がる。騎士団でもぱっとしない一兵に過ぎなかったケンドールからの婚約の申し出に、これ幸いと押し付けるようにイリスを婚約させた義母だったけれど、ケンドールはその後目覚ましい活躍を見せ、異例の速さで副騎士団長まで昇進した。義母の溺愛する、美しい妹のヘレナは、そんなケンドールをイリスから奪おうと彼に近付く。ケンドールは、イリスに向かって冷たく婚約破棄を言い放ち、ヘレナとの婚約を告げるのだった。 家を追われたイリスは、家で身に付けた侍女としてのスキルを活かして、侍女として、とある高名な魔術士の家で働き始める。「魔術士の落ちこぼれの娘として生きるより、普通の侍女として穏やかに生きる方が幸せだわ」そう思って侍女としての生活を満喫し出したイリスだったけれど、その家の主人である超絶美形の天才魔術士に、どうやら気に入られてしまったようで……。 王道のハッピーエンドのラブストーリーです。本編完結済です。後日談を追加しております。 また、恐縮ですが、感想受付を一旦停止させていただいています。 ***2021年6月30日と7月1日の日間総合ランキング/日間異世界戀愛ジャンルランキングで1位に、7月6日の週間総合ランキングで1位に、7月22日–28日の月間異世界戀愛ランキングで3位、7月29日に2位になりました。読んでくださっている皆様、本當にありがとうございます!***
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