《真の聖である私は追放されました。だからこの國はもう終わりです【書籍化】》88・それは短くて長い時間

それからのこと。

バルドゥルとの戦いに勝利した私達。

ほどなくして殘りの魔族もヴィンセント様率いる兵士や冒険者の方々が、全て片付けたと報告をけた。

「全く……お前はいつも突然、無茶なことを言う」

とヴィンセント様がぶつぶつ文句を言っているのも、彼の人柄が分かった今となっては微笑ましく思えた。

あっ、そうそう。

ドグラスの方も上手くいったみたい。

『想像以上に弱かったぞ。もちろん子どもと母親も無事だ』

念話でそうドグラスが言った時、私は一際安心したものです。

その後……私達はフィリップと霊の今後のことについて話し合った。

「この村を破棄して、違うところに移り住もうと考えている」

「え……? でも、もうバルドゥルは……」

「無論、もう一度結界を張り直せば、魔族も簡単にこの村にはってこれないだろう。しかし……一度場所を知られてしまっているからな。あの瘴気も魔族の仕業だったみたいだし、また目を付けられないとは限らない」

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フィリップの言うことはごもっとも。

だけど私は寂しくじた。

あまり遠くの地にお引っ越ししてしまったら、もう料理を作りに行くことも出來なくなるでしょうか……。

そんな私の気持ちを察したのか、ナイジェルがフィリップの前に出て。

「そのことだけど……だったら用(・)心(・)棒(・)がいればどうかな?」

「用心棒?」

「ああ。実は前々から話していてね。この森はヴィンス——こいつの領地に近い。ヴィンスなら、この森になにかあったらすぐに駆け付けることが出來るだろう」

ナイジェルはヴィンセントの肩にポンと手を置く。

「こいつの領地にいる騎士や冒険者は、どれも腕に自信のある者だ。聖水もあるし、周囲の敵への抑止力になると思う」

「それは助かるが……本當にいいのか? そんなことまでしてもらって」

バルドゥルの自を止めたように、霊達は膨大な魔力を保持している。

しかし戦闘に関しては、正直言ってかなり劣っていると言わざるを得ない。だからこそ、今までここに隠れ住んでいたのです。

だけどヴィンセント様が守ってくれれば、フィリップ達もまないお引っ越しをする必要はないはず。

そうナイジェルは考えたんでしょう。

「もちろん見返りは用意してもらうぞ。しでいいから、ここの水や野菜を分けてしい。どうだ?」

ヴィンセント様が取引を持ちかける。

フィリップはし悩んでいたが。

「分かった。それくらいならお安いご用だ」

「決まりだね」

「ああ、本當にありがとう。ナイジェルにはつくづく世話になる。全く——君達人間は俺達の救世主だ」

話も上手くまとまったみたい。

ナイジェルが振り返って、私にウィンクした。

そして後処理を終わらせて、私達は王城がある街に戻ってきた。

「なんとかなりましたね」

王城のルーフバルコニー。

私はナイジェルと隣り合って、そこから街の風景を眺めていた。

「うん。でも心殘りがあるとするなら、バルドゥルのことだね。もっと報は聞き出したかったけど……跡形もなく消えてしまった」

「ですね」

でもあとから悔やんでも仕方がない。

それよりも今回、死傷者を出さなかったことを誇ろう。

「……ナイジェル」

「ん?」

私はナイジェルの瞳を真っ直ぐ見つめて、こう続ける。

「私、今回のことでさらに強くじました」

「なにをだい?」

「みんなの力があってこその私だということを」

今回のことだって、私が油斷していたばっかりにフィリップ達を危険な目に遭わせてしまった。

ドグラスがいなければ、あの塔から出出來なかった。

ナイジェルがいなければ、バルドゥルを倒すことが出來なかった。

もっと言うとヴィンセント様がいなければここまで事態が完璧に収束することもなかったでしょうし、フィリップがいなければ最後の自を阻止出來なかった。

私一人では——出來ない盡くし。

「……そうなのかもしれないね」

私の言葉をナイジェルは否定しない。

「だけどそれは僕だって一緒さ。エリアーヌがいなかったら、こんな風に國民を守ることが出來なかっただろうしね」

ナイジェルの髪が優しげな風で揺れていた。

「ねえ、エリアーヌ。もしかして君一人でなんとかしようと思っていないかい?」

「え?」

「そんな必要はないよ。前から言おうと思っていたけど——君はもっと僕に頼ってしい。こんなことを言うのは我がままかな?」

困ったような表を作るナイジェル。

「そんなこと思っていませんよ——でも、もしかしたら自分一人でなんとかしようとしていた部分があったかもしれません」

人は一人では生きていけない。

私はナイジェルの婚約者としてふさわしいのか、ここしばらく悩んでいた。

しかしそうやって一人で悩むこと自が間違いだったかもしれません。

もっとナイジェルに本音をぶつけるべきだったのです。

「だから……これからはさらに手を取り合って歩いていきましょう。ナイジェル。あらためてよろしくお願いします」

「うん、こちらこそ」

私はナイジェルの手を握る。

溫かい手。

そう——私はこれを求めていた。

こうしているとナイジェルと深く繋がった気がした。

「エリアーヌ」

その瞬間。

ナイジェルがそのまま私の両肩に手を置いた。

彼の顔がどんどん近付いてくる。

私はそれを拒まず、素直にナイジェルのれた。

それは一瞬だったかもしれない。それとも永遠に等しい時間だったかもしれない。

まるで時間が止まっているかのよう。

それは短くて——長い口づけ。

やがてナイジェルは私からを離して、し慌てた素振りで。

「す、すまない! いきなりこんなことをしてしまって! でも……君の顔を見ていたら何故だか我慢が出來なくて……!」

こんな表のナイジェル、なかなか見られません。

いつも大きく見えるナイジェルが、何故だかこの時は子どものように可く思えた。

「いいですよ。私も……その、あ、ありがとうございました」

私も顔を真っ赤にしていたでしょう。

「じゃ、じゃあそろそろ戻ろうか……こんなところに二人でずっといたら、誰かに怪しまれるかもしれないし」

ナイジェルが恥ずかしさを誤化すように、ルーフバルコニーを後にしようとする。

だけど。

「待ってください、ナイジェル。あなたにもう一つ、相談したいことがあります」

「ん?」

立ち止まるナイジェル。

正直……こんなことを言うべきか、ギリギリまで悩んだ。

でも私は決めたんです。

もう私一人で抱え込んだりしません。

「私——」

私の言葉に、ナイジェルは驚き目を見開いた。

◆ ◆

王城のとある寶庫。

薄暗い室で、一際を放つ一本の剣があった。

——封印が解かれる時は近い。

それはエリアーヌがフィリップから貰った古ぼけた剣。

その剣の輝きは今(・)は(・)誰にも気付かれることがなかった。

二章終わりです!

ここまでお読みいただきありがとうございます。

引き続き三章も頑張ります!

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三章、よろしくお願いします!

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