《真の聖である私は追放されました。だからこの國はもう終わりです【書籍化】》91・未來の王

「お嬢ちゃん……あんたは明日、ここを発つんだろう? オレ達のことなんて手伝わなくても大丈夫なんだぜ?」

料理長が私をそう気遣ってくれる。

「いえいえ。じっとしてもいられない分ですので」

「だが……」

「私が好きにやっていることです。それとも……もしかして私、邪魔ですか?」

「そ、そんなことはない! お嬢ちゃんの料理の腕は確かだ。人手も足りないし、手伝ってくれると本當に助かる!」

料理長が慌てて、顔の前で手をブンブンと振る。

料理長の心配も分かる。

でも……元々料理は好きだし、私のために誰かが頑張ってくれているとなったら、いてもたってもいられなくなってしまうのです。

よーし! もうしです!

私を気合いをれ直して——おにぎりを握った。

——こうなったのには理由がある。

「明日出発……となったら準備を急がなくてはダメだね。ここから王國の首都、王都までは結構距離があるから」

私達の話し合いが終わったあと。

Advertisement

ナイジェルはそう聲を発した。

「ですね。急がせるようなことになってしまって、ナイジェルには本當に申し訳ないです」

「いやいや、急がなくちゃ王國どころか世界滅亡の危機だからね。僕が頑張るだけでなんとかなるなら、いくらでも頑張るさ」

そうナイジェルは力こぶを作った。

ナイジェルも疲れているだろうに、私に気を使わせないように気丈に振る舞ってくれている。

彼への恩になんとしてでも報いなければ。

「騎士団長のアドルフにも急いで伝令を……武も整えて……あとは食事だね。途中でいくらか補給するにしても、いくらか持って行かなければ」

「食事は大事ですね」

空腹のまま王都に乗り込んでも、決して良い結果にはならないでしょう。

三食きっちり取って、睡眠も確保する。

もちろん、そんなことを言っている場合でもないが……だからといって、不眠不休で慌てて王都に行っても、結果は目に見えている。

「コックの人達には深夜に働かせることになってしまうね。今から何日分もの食事を用意することが出來たらいいんだけど……」

ナイジェルの心配そうな聲。

さすがに三食、全てが味しい料理……というわけにもいかないでしょうが、まあまあ長い旅になりそうですし、せめて食事くらいはなるべく満足の出來るものにはしたい。

「だったら……私も手伝います!」

「エ、エリアーヌが?」

「はい! 私、料理が好きなので!」

「それは知っているけれど……でも大丈夫かい? 明日の出兵にはエリアーヌにも付いてきてもらうんだよ? 今日のところはゆっくり休んだ方が……ってエリアーヌ!?」

ナイジェルが言い終わらないうちに、私はキッチンに向かって駆け出していた。

……というのがことの顛末だ。

私は今、キッチンで何人かのコックの人達と旅に持って行けそうな料理を作っている。

まるでキッチンは戦場のよう。

そこら中で慌ただしくコックの方達がき回っている。

「うーん……出來ればもっと立派なものを持って行きたいですけれど」

おにぎりを握りながら、私はそう口にする。

「まあ仕方がない。時間もないからな。出來るだけ簡単に……でも味しい料理を作るのが今のオレ達の役目だ」

「それもそうですね」

でもいくら急いでも手が足りない!

もしかしたら今日はこのまま徹夜になりそう……いや、私はさすがに明日もあるので睡眠を取らせてもらうけれど、コックの方達には苦労をかけてしまう。

みんなに謝をしながら、おにぎりを握っていると。

「お姉ちゃん! セシリーも手伝うの!」

らしい小さなの子の聲。

視線を向けると、そこにはナイジェルの妹——この國の第一王でもあるセシリーちゃんが、とことこと私達に駆け寄ってきた。

「あらあら、セシリーちゃん。手伝ってくれるんですか?」

「うん! 本當は明日の旅(・)行(・)にセシリーも付いて行きたいけど、にいにに止められたの! だからちょっとでもセシリーはお役に立ちたい!」

そう言って、セシリーちゃんは背びをして、おにぎりを握ろうとした。

ちなみに……みんなには王都に行く本當の理由を伝えていない。

魔王復活だなんて言ったら揺が走りますからね。

さすがに國王陛下やその重臣達には伝えてはいる。

けれどまだいセシリーちゃんには本當の理由を伝えていなかった。

「貓の手も借りたいと思っていたところです。セシリーちゃんもおにぎり作り、手伝ってくれますか?」

「うん! 任せて! セシリー、お姉ちゃんに教えてもらってから料理を頑張っているんだー!」

セシリーちゃんが炊いた白ご飯に手をばす。

そうなのです。

私はセシリーちゃんと出會ってから、暇を見つけては彼に料理を教えていた。

そんなに難しい料理はまだ教えていないですけれどね。

でも最近ではセシリーちゃんは一人で卵焼きも作れるようにもなった。

この調子だと將來は良いお嫁さんになりそう!

……そんな平和な未來を守るためにも、魔王復活なんて斷じて許してはならないのです。

「あつぃっ!」

セシリーちゃんが熱々の白ご飯に手を付けようとしたが、すぐに引っ込めてしまった。

「セ、セシリーちゃん、危ないですよ! ちゃんと水に手を付けてからにしないと……」

「そうだったの……」

「火傷とかしていないですか?」

「大丈夫! 今度こそセシリー、失敗しない!」

セシリーちゃんは手を濡らして、今度こそおにぎりを握り出した。

にぎにぎ!

ちっちゃな手で一生懸命握っている姿を見ていると、なんだか癒されてしまう。

「セシリーちゃん、上手ですよ。その調子です!」

「この調子で頑張ります! ……なの!」

私の口調を真似たからなのか、セシリーちゃんが自分の言ったことに笑った。

こんなじで忙しくも、楽しくおにぎりを握っていましたが……。

「お姉ちゃん」

「はい?」

おにぎりから視線を逸らさず、セシリーちゃんがこう聲に出す。

「……明日の旅行、きっと危険なんだよね?」

「え……?」

思いも寄らないことを言われて、つい聞き返してしまう。

「そんなことはないですよ」と口をかそうとしたが……。

「ううん。セシリー、分かっているの。本當は止めたい。だけど……セシリーが我がまま言っても、にいにとお姉ちゃんを困らせるだけだから……だからセシリーの言えることは一つだけ。無事に戻ってきてね」

……まいりました。

セシリーちゃんはまだまだ子どもだと思っていましたが、どうやら私が思っていたよりも大人だったみたいです。

さすがは王様。

私はしこの子を侮っていたかもしれなません。

だから。

「……はい。セシリーちゃん、ありがとうございます。絶対にみ(・)ん(・)な(・)で帰ってきますから。そうしたら、今度はセシリーちゃんも一緒にみんなでおにぎりを持って、ピクニックにでも行きましょう」

私もセシリーちゃんを一人のと見なして、真剣にそう返す。

「うん! 楽しみにしてるの! セシリー、それまでお留守番頑張る!」

にぱーっとセシリーちゃんは満面の笑みを浮かべて、そう言ってくれた。

の期待に応えるためにも、私もさらに頑張らなければ!

そう思い、私はさらにおにぎりを握る速度を上げたのでした。

    人が読んでいる<真の聖女である私は追放されました。だからこの國はもう終わりです【書籍化】>
      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください