《真の聖である私は追放されました。だからこの國はもう終わりです【書籍化】》95・ドラゴン、再び王國に降臨する

【SIDE ドグラス】

「こんな雑魚共、我一人でも十分だな」

ある者は逃げい、ある者はドラゴンに立ち向かおうとしている。

そんな景を眺めて、ドグラスは溜め息を吐いた。

「かかれかかれ!」

「どうしてドラゴンが攻めてくるんだ!? ドラゴンは王國からいなくなったんじゃなかったのか?」

「バルドゥル様はどこだ! バルドゥル様であったら、あんなドラゴンくらい……」

騒ぐ有象無象。

現在、ドグラスは人の姿ではなく竜(ドラゴン)形態になっている。

ドグラスの呟き聲など到底聞こえない魔族にとって、まさに今のドグラスは天からの災厄に等しいだろう。

「人の姿も悪くないが、やはりこっちの方がきやすいな」

そう言って、ドグラスは魔族の集団に火炎息(ブレス)を吹きかけた。

天高く舞い上がったドグラスは、余裕の表で消滅していく魔族を見下ろしていた。

「ナイジェルとエリアーヌの考えは當たりだな。これじゃあ、あやつ等が到著する前に完遂してしまうぞ」

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魔族を焼き払いながら。

ドグラスは昨夜、ナイジェル達とのやり取りを思い出していた。

『ドグラス。君は先に一人で王都に向かってしい』

『ん? 我一人か? 汝等と一緒に戦うのではないのか』

『もちろん、それが一番だが……僕の算段では、今いる魔族の集団はドグラス一人で片付けられる可能が高い』

そうナイジェルが口にした。

『まあ別にいいが……どうしてまずは我一人で?』

『僕達が到著するまでに、あいつ等がバルドゥルの死に気付いたら、なにをするか分からないからね。ヤケになって、國民を一人殘らず殺してしまうかもしれない』

『うむ、まあその通りだな。しかし……』

『彼は誰一人死なせないことがおみだ』

ナイジェルが言うと、隣に立つエリアーヌが神妙に頷いた。

『……なるほどな。汝らしい甘い考え方だ』

ドグラスがニヤリと笑い、エリアーヌを見る。

『甘い考え方というのは重々承知しています。ただ……あまり時間をかけて、事態が急変してしまっても困るでしょう? 既に魔王復活の手段を得ている可能もありますから』

『まあそれはそうだ。時間がかからないなら、それにこしたことはない』

とドグラスは納得する。

『それともドグラス。上級魔族がいない魔族相手に、あなた一人では不安ですか?』

エリアーヌにしては珍しく、挑発めいたことをうそぶく。

それに対して「はっ!」とドグラスは聲にし、

『なにを言う! たかが魔族ごときが我に逆らうこと自が間違いなのだ! 汝等が到著する前に、魔族共を全て焼き払ってみせよう』

と自分のを叩いた。

こんなことを言われて、燃えないドラゴンはドラゴンではない。

『あ、もちろん、なにも持たないで戦えとは言わないよ。これも一緒に持って……』

ナイジェルが手渡してきたも(・)の(・)に、ドグラスは口角を吊り上げるのだった。

——というのがことの顛末。

馬車で移するエリアーヌ達に比べて、空を飛べるドグラスの到著は隨分早くなる。

本當は全員乗せていければいいのだが……いかんせん、この形態でエリアーヌ達を乗せて飛び回るのは、危険が高い。振り落としてしまわないとも限らないのだ。

そもそも人を乗せることに慣れていないドグラスなのであった。

「しかし……魔族だけはともかく、人間共を避けながら戦うのは難しいな」

眼下で走り回っているのは魔族だけではない。

魔族によって命を握られていた王國民の姿もあるのだ。

ドラゴンの登場により、魔族達も人間を捕まえておくことが無理になったのだろう。

人間達は屋外に出て、ドラゴン——ドグラスに恐れをなし、逃げ回っているようであった。

「やはりナイジェルに持たされたこ(・)れ(・)を使うしかなさそうだ。このままでは全滅させることは難しい」

とドグラスは収納魔法からとあるものを取り出した。

それはった小瓶であった。

無論、一本ではない。百本以上の小瓶。

それは空中に出現した途端、破裂。

が高い空から、地上に降り注いでいく。

「な、なんだ、これは!」

「もしや……これは聖水? ドラゴンがやったのか?」

「どうしてドラゴンがこんなものを……うわああああああ!」

魔族達の悲鳴がこだまする。

「やはり……聖水は便利だな。全く……エリアーヌはとんでもないものを作る」

魔族が次々に消滅していく姿を眺めて、ドグラスはエリアーヌの顔を思い浮かべた。

これこそ……今回の策。

ドグラスが天高く舞い上がり、そこから聖水を街中に散布する。

前回の戦いにより、バルドゥルの軍団はアンデッド系の魔族が多いことが分かっている。

本來ならいくら傷を付けても立ち上がってくる不死者に対して、苦労するものだが……聖水がある今となっては、それが好都合だった。

「何故なら……聖水は魔族に対しては有害だが、人間にはそうではないからな。これだったら人間を誰一人傷つけることなく、魔族を制圧することが出來るだろう」

その証拠に……消えていく魔族の一方、人間達は降り注ぐ聖水に対して「なんだ、なんだ?」と目を丸くするのみである。

この様子ならやはり、問題はない。

「くくく……まさか我が人間の作ったものを頼りにするとはな。我も変わったものよ」

エリアーヌに出會う以前なら、こんな人間が作った小道は使うことすら恥だと思っていた。

しかし今はそうではない。

「使えるものは全て使う。誇りにこだわって、戦死してしまっては話にならぬからな。敗者の言い訳ほどみっともないものはない」

しかも……ドグラスが敗北するとエリアーヌ達にも迷がかかる。

(我は一人で戦っているのではない……我の後ろには守るべき者がいるのだからな)

ゆえに——敗北は許されない。

そのためなら聖水だろうがなんだろうが、喜んで使おうではないか。

「魔族共よ。よく我のいない間に好き勝手やってくれたな? 誰が絶対強者かということを、分からせてやろう」

最早死にの魔族に向かって、ドグラスはそう聲を放った。

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