《真の聖である私は追放されました。だからこの國はもう終わりです【書籍化】》99・彼も昔のままではないようです
クロード達を解放した後、私達はすぐに他の方々の救出に走った。
クラウスの言った通り、大臣や國王陛下もこのフロアにいくつかある地下牢に閉じ込められていたみたい。
幸運にも、みなさん無事でした。
まあ魔族からしたら利用価値が高いと考えたんでしょうね。それに魔王復活のために、國民の命を犠牲にするとフィリップは言っていた。
そういうこともあって誰一人殺さなかったんでしょう。
當初、みなさんは「どうして隣國(おまえら)が助けにきた?」と怪訝そうな顔をしていた。
しかし不審がっている場合でもなく、比較的私達の言うことを素直に聞いてくれた。
王國の騎士団……クラウスもどちらかというと私達の行に賛同してくれているし、戦っても勝てないと踏んでいるからでしょうか。
そして……時間を置いてから、私達は玉座の間に集まり、話し合いの場がもたれた。
「この度はよくぞ我が國の救出に盡力してくれた。禮を言うぞ」
尊大な態度で國王陛下が告げる。
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偉そうな態度は相変わらずなんですね。
それにしても……お久しぶりの言葉もないなんて、あんまりです。まあどうでもいいですけれど。
……玉座には國王が座り、その傍らにはクロードの姿。
一方……私達側はナイジェル、ドグラス……そして私の三人。
さらに私達を囲むようにして、騎士団の數人や王國の大臣達がり行きを見守っていた。
ちなみに……呪いが解かれたレティシアはこの場にはいない。
まだ憔悴しているようだったので、自分の部屋で休ませている。
國王陛下を前にして、ナイジェルが床に膝を突く。
「お目にかかれて栄です。あらためて申し上げますと、私はナイジェル・リンチギハム。本來であれば我が國の國王陛下がこの場にいるのが筋かもしれませんが、なんせ今は急事態。無禮をお許しいただきたい」
「うむ」
頭を下げるナイジェルに、國王が値踏みするような視線を向ける。
玉座の間に張が走った。
「堅苦しい話はよそう。単刀直に聞く。リンチギハムは——我等になにをむのだ?」
と國王からの問い。
きた。
話の本題だ。
王國は今まで、他國に対してかなり一方的な外をしていた。いつ戦爭狀態になってもおかしくなかった。
だからリンチギハムでもヴィンセント様みたいな方が軍事の拡張を主張していたのですね。
そんな王國が魔族に制圧され、急事態だからといって助ける國があるか?
否……利害抜きにして有り得ないでしょう。
そのことは國王陛下も重々理解しているようでした。
まあ大臣達にそう言われただけかもしれませんけれどね。
どちらにせよ、タダでこの國を助けようとしてくれる者はいない……と國王は考えているんでしょう。
要求によっては王國の窮地は続く。
だからといって、魔族の攻撃に弱りきっている王國は、最早他國からの侵攻を防ぐ力はない。
ここにいるみなさんもそう考えているに違いありません。
獨特の張のせいで、がピリピリと焼け付くように痛かった。
誰もがナイジェルの一挙一に注目している中、彼は堂々とした口調でこう言った。
「私がむことはただ一つ。しばらく私達とリンチギハムの騎士団を、この國に滯在させてしいのです」
「…………」
ナイジェルからの要請に、國王は言葉を返さない。
それを意にも介さず、ナイジェルは話を続けた。
「失禮な話になるかもしれませんが、今……こ(・)の(・)國(・)は魔族の侵攻によって弱りきっている。まともに國を元通りにかすことも困難でしょう」
「否定はしない。だが……」
「魔族がこれで王國を諦めるとは思えません。きっと第二波、第三波の魔族軍が襲いかかってくる。それは陛下も分かっているでしょう? その時……この國はその攻撃に持ち堪えることは出來るでしょうか?」
「バカにするな。そなた等に心配されなくても、この國は我等だけで……」
「実際出來なかったから、今のような現狀なんでしょう?」
「……くっ」
ナイジェルからの追及に、國王は顔を歪め、上手く答えを返すことが出來ない。
「この提案は王國にとっても悪いことではないはずです。國が落ち著くまで、しばらく私達が、混をおさめる手伝いをしようという申し出なんですから。國王陛下、どうか私の申し出をけてもらいたい」
再度ナイジェルが頭を下げる。
ナイジェルからの要求は至極當然のもの。一見筋が通っていて、王國にとっても良いことばかりな気がする。
しかし國王は簡単に首を縦に振ることが出來ない。
當然です。
何故なら「このまま耳障りのいいことを言って、リンチギハムがこの國を牛耳ろうとしているのではないか」と考えているからです。
この懸念もまあ普通。
実際、歴史上そのまま國が乗っ取られてしまったという例もなくはない。
だからといって、ナイジェルからの申し出も的をている。
ギリギリの駆け引き。
すぐには答えを出せないかもしれません。
「……あのー、お(・)父(・)さ(・)ん(・)」
迫した沈黙が流れる中。
そこで一人、手を挙げて國王に発言する者がいた。
「……どうした、クロード」
クロードです。
彼はおどおどとして、たどたどしい口調ながらもこう口にした。
「リンチギハムの言うこと、聞いた方がいいんじゃないかなーって」
「なんと?」
「い、いや……! 確かに魔族のせいで、國がボロボロなことは間違いない。それに彼達がこの國を助けてくれたことも事実だし……」
驚いた。
クロードがこんなことを言うなんて予想外でしたから。
『助けてくれなんて言った覚えはない!』
と恩を仇で返すようなことをおっしゃると思っていたのに……。
それにクロードはこの國の第一王子という立場でありながらも、自分の父親である國王陛下には頭が上がらない。
こんな風に反抗することなんて、有り得ないのに……。
先ほどの土下座の件といい……魔族に國をボロボロにされて、彼も昔のままではないといったところでしょうか。
しかしクロードの発言は、
「なにを言っている! お前はまだ政治に関わるのは早すぎる! 余計なことを言わず、黙っておきなさい!」
と簡単に卻下されてしまった。
「ひ、ひっ!」
國王陛下に怒られて、一瞬気圧された様子のクロード。
だが、彼は一瞬私……そしてナイジェルに視線をチラリとやってから、諦めずに言葉を重ねた。
「し、しかし……お父さんも分かっているはずだ。このままではこの國は終(・)わ(・)り(・)だと。なんてったって魔族に目を付けられているからな。しかも解決策も皆無だ。恩(・)人(・)にそういう口を利くのも、どうかなーって」
「クロード! お前……儂に意見するのか? お前になにが分かるっ!」
おやおや。
親子喧嘩が始まってしまいました。
どうやらクロードは私達の味方(?)をしてくれているようですけれど、國王をなかなか説き伏せられない様子。
口喧嘩では父親に軍配が上がりそうですね。
「……どうしましょう」
「まあすぐに結論が出るとは僕も思っていなかったさ」
お互いに口撃を飛ばし合っているクロードと國王を見て。
私とナイジェルは聲を潛めて、言葉をわした。
取りあえず、ここは一旦お開きで結論はまた明日……というのが無難でしょうか。
あまり時間をかけたくありませんが、こうなったら仕方ない——。
「おい」
しかしこの時。
今まで、腕を組んで口を閉じていたドグラスが一歩前に出た。
「なに、まどろっこしい真似をしている」
それは瞬きするほどの時間。
ドグラスがまるでのように國王のもとに駆け寄り、彼のぐらをつかみあげてこう言った。
「そもそも汝等に選択肢はないのだ。なんなら、今すぐにでも我が、この國を滅ぼすことも出來るのだぞ?」
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