《真の聖である私は追放されました。だからこの國はもう終わりです【書籍化】》103・一致団結

「始まりの聖の力が必要と考えています」

「始まりの——確か魔王を封印した張本人だったか?」

私が言った言葉に、クロードはそう聞き返した。

始まりの聖のことは、國王陛下の前で説明済みですからね。

「はい」

「しかし……聖にはそんな役割があったとは、知らなかった。今でも信じられないくらいだ」

「まあそうでしょうね。私でも知らなかったですし。聖なんて最早形骸化した存在だとおっしゃっていたあなたでは尚更でしょう」

「……っ! また痛いところを突くな。その……なんだ。悪かったと思っているよ。すまなかった。今では君の力を疑ったりしない」

クロードが嫌そうに顔を歪めているのを見て、私はクスクスと笑った。

元からこういう風に笑うことが出來たら、婚約破棄も國外追放もされなかったんですけれどねえ。

でもそのおかげでナイジェルにも出會えたし、結果的には良かったんですが。

「始まりの聖は強大な力を持っていたと思います。その力の片鱗を得ることが出來れば……それは魔族に対抗する手段になるでしょう」

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「それじゃあ、なにか? 本當にあるのかどうかも分からない、始まりの聖の力を探すと?」

私は頷く。

始まりの聖はこの地に魔王を封じ込めた。

そしてこの國に結界も……。

ならば始まりの聖の手がかりは、ここ王國にあるものと考えるのが一番妥當でしょう。

だが。

「そんなに上手くいくものか? 他になんの手がかりもないんだろう?」

「どちらにせよ、今はそれしか方法がありません」

「そりゃそうかもしれないが……しかしもし見つけられなかった時はどうするんだ?」

「うーん……その時はリンチギハムに張っている結界を解いて、王國にもう一度結界を張り直すことも考えなければいけませんね」

魔王が復活してしまえば、リンチギハムにも危険が訪れる。

これもやむを得ない判斷でしょう。

だけど……一度この國は魔族に目を付けられてしまった。バルトゥルの件もある。

今更見逃してくれるなんていう甘い考えは、取りあえずはしない方がいいでしょう。

最悪、リンチギハムという國一つを人質にとって、なにか渉を仕掛けてくるかもしれません。

「今の私の力では、リンチギハムと王國同時に結界を張ることが出來ません。なので私が始まりの聖と同等の力を持つ……これが一番の解決方法だと思うんです」

「まあ確かにそれはそうだ。しかしエリアーヌ……君が一番大変だと思うが、大丈夫なのか? 王國にいる頃から、力はあまりなかっただろう?」

「あら、心配してくれているんですか?」

流し目でクロードを見る。

「か、勘違いするなっ! お前が倒れたら、この國は終わりだからな。こ、こき使ってやろうと思っただけだ!」

するとクロードは顔を赤くして慌てた。

子どもっぽい仕草に、クスクスと笑いがまた私の口から零れた。

「ですが、心配はご無用です。それに……あなたにも手伝ってもらうんですからね」

「ボクに?」

とクロードは自分を指差す。

「まず——ナイジェルの味方をしてあげてください。彼だけでは、國王達を説き伏せるのは疲れるでしょうから」

「わ、分かった。なんとかお父さんを説得してみせる。君達に苦労はかけない……と言えるまで力になれるか分からないが、盡力しよう」

「期待していますよ。そしてもう一つ……始まりの聖について、なにか知っていそうな人はいませんか? 國の伝承に詳しかったり……」

「ああ、それだったら……」

クロードは顎に手を當て、ひとしきり考える。

「王都に有名な歴史學者がいる。そいつだったらなにか知っているかもしれない」

「そんな方がいるんですか。その方はどこに……?」

しややこしい場所にいるから、あとで地図を渡そう。それに……紹介狀も用意する。そっちの方が話がスムーズに進むだろう?」

「助かります」

正直……王國で聖になってからは、ほとんど城の外に出してもらえなかったので、王都の地理は詳しくない。

彼の手助けは本當に助かった。

まずはそこから當たってみましょうか……。

と私が考えていると、

「どうしたんですか、クロード。なにか気がかりでも?」

クロードから言おうか言わまいか、迷っているような雰囲気をじ取ったので、私は訊ねる。

「いや……そんな心配する必要ないんだがな。ちょっと個的なヤツだから……上手く話がいくものかと思って」

「個的……ああ、そのことでしたら大丈夫ですよ。私、そういう類の方に慣れていますので」

「……その方というのがボクだというオチじゃないだろうな?」

「さあ」

クロードがジト目を向けてきたので、私はそうはぐらかした。

ちょっとは自覚があるようですね。

それとも、これもクロードの面が変わったおかげでしょうか?

「まあ、エリアーヌなら問題ないだろう。すぐに地図と紹介狀を用意する」

「ちなみに……その方の名前というのは?」

私の問いに、クロードはこう答えた。

「ジークハルトだ」

◆ ◆

ジークハルトさんのところに行く前に、私はナイジェルと今後について話し合っていた。

「エリアーヌ……ここに來る前に聞いていたけど、本當に上手くいくのかい?」

心配そうな彼。

「ええ。二週間後までに必ずなんとかいたします」

「そうかい。でもエリアーヌ一人で抱え込む必要はないんだからね。もし困ったことがあれば……」

「もちろんです。また一人で行して、バルトゥルの時のようになってはいけませんからね」

苦笑する。

「そんなことよりナイジェル。あなたの方こそ大丈夫ですか? 相手はあれでも國王陛下。油斷は大敵です」

「ああ。僕だってリンチギハムの王子なんだからね。なんとか上手くしてみせるよ」

とナイジェルは自分のを叩いた。

タイムリミットは二週間後。

あまりゆっくりしてもいられません。

なので私達はこれからは役割分擔をして、魔王復活を防ぐためにくことにした。

まずは騎士団長のアドルフさん。

彼は王國の騎士達と連攜を取るため、この二週間でさらなる鍛錬に勵むらしい。

いくらリンチギハムご自慢の騎士団でも、それだけで魔族と渡り合うのは骨が折れますからね。

王國の騎士団を仕切っているのもクラウスですし……あまり心配はいらないでしょう。

お次にドグラス。

彼は未だ混がおさまっていない街中の警備。さらには街の外にも目をらせてくれている。

魔族が來る前に、なにか不測の事態が起こってはいけませんからね。

ちょっとでも王都に異変が起これば、すぐに報告してもらうようにも伝えてある。

そして……ナイジェル。

ナイジェルは王國の國王陛下、そして大臣達との話し合いだ。

あの時は上手く話がまとまりましたけれど、まだ王國陣営はこちらに不信を抱いている。

それを取り除かなければ、思わぬところで足をすくわれてしまうかもしれません。

一応、王國陣営には私達の味方(?)になってくれたクロードもいるけれど……彼はまだ経験不足。あまり過度な期待は

だけどあれでもこの國の第一王子なんです。

國王は別かもしれないけれど……大臣達はクロードの意見を無視するわけにもいかないはずです。

「じゃあお互いに武運を祈るよ」

「ええ。なんとか始まりの聖の手がかりをつかんでみせます」

私とナイジェルはそう言葉をわして、一旦別れた。

さーて。

これから忙しくなりますよ!

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