《真の聖である私は追放されました。だからこの國はもう終わりです【書籍化】》106・神の代行者

私はジークハルトさんに禮を言ってから、すぐに家を後にして王城に戻った。

「ナイジェル。今、お時間よろしいですか?」

會議室から出てきたナイジェルに、私は聲をかける。

「ん……ああ。丁度、話し合いも一段落付いたから。その様子だと、始まりの聖について、なにか手がかりはつかめたみたいだね」

そう言うナイジェルの顔は、し疲れているように見えた。

散々國王や大臣に、厳しいことを言われたんでしょうか。

でも落ち込んでいる様子はない。

どうやら話し合いは上手くまとまったようですね。

「いえ。始まりの聖については報を得られませんでした。ですが……代わりに他の方法を思い付きまして」

「他の方法?」

首をかしげるナイジェル。

神です。聖神の代行者。彼とお話することが出來れば、なにか分かるかもしれません」

「なるほど……でもそんなに上手くいくのかな? いくらエリアーヌが聖でも、神と信したことはないんだろう?」

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「ええ。ですが……」

私はジークハルトさんの話を聞いて思い付いたことを、ナイジェルに説明する。

すると彼は興味深そうにしていた。

「なるほど……僕を通してなら、神と信することが出來るかもしれない。それは良い考えかもしれないね」

「そのためにナイジェルのお力も借りたいんです」

「もちろんだよ。エリアーヌのためなら、なんだってする」

とナイジェルは自分のを叩いた。

頼もしいお方です。

「私がナイジェルに神の加護を付與した時……どういう覚なんですか? そこになにか手がかりが隠されているかもしれません」

「うーん、そうだね……言葉では説明しにくいけれど、力が自分の側から湧いてくるじなんだ」

ナイジェルは天井を向いて、こう続ける。

「その力は今までじたことのないもので……まるで自分が自分でなくなるような……」

「自分が自分でなくなるような……?」

「うん……分かりやすく言うなら、誰かにられているような……そんな覚とも言っていいかな。意識は殘ってるんだけど」

られているような……。

もしかして、神がナイジェルのを一時的に借りている? でも神の加護を付與している時、彼の意識がなくなったりはしていない。だから神とナイジェルの意識が混ざっている……そんな狀態でしょうか。

もしそうなら、ナイジェルを通して神と信する計畫も、見當外れではなさそうです。

「一度、神の加護をナイジェルに付與してみましょうか。そうすれば、神の聲を聞くことが出來るかもしれません」

上手くいくかは分からない。

だけどやってみる価値はありそう。

もし神がこの世界の平和を願っているなら……今は間違いなくピンチ。

大昔にも、こういう時に始まりの聖が現れたみたい。今だったら、彼の聲を聞けるかもしれない。

「ナイジェル」

「うん。早速やってみようか。ここだったらなんだし……周りに人がいないところに行こうか。じゃないと、エリアーヌも集中出來ないだろう?」

「ええ」

私はナイジェルと一緒に、人がいなさそうな場所を探した。

◆ ◆

やがて私達は王城の中庭に出た。

「ここでしたら人の気配もないですし、丁度よさそうです」

私が言うと、ナイジェルも頷いた。

すっかり辺りも暗くなっている。

空に浮かぶ半月が、私達を優しく見守ってくれていた。

「では……いきますよ」

「いつでもどうぞ」

私はナイジェルの背中に軽く手を當てた。

すると彼のを放った。

それは夜の闇を切り裂くように、辺りに広がっていく。

だけどここまではアルベルト……そしてバルトゥルの時と同じ。

問題はここからです。

「ナイジェル……いつもと変わったところはありませんか?」

「いや……前と同じだね。信じられないくらいの強大な力が、僕のを……」

ナイジェルがそう言葉を続けようとすると、ガクンと意識が落(・)ち(・)て(・)しまったかのように、彼のから力がなくなる。

「ナ、ナイジェル!?」

そのまま倒れてしまいそうになる彼のを支え、ゆっくりと地面に寢かせた。

両瞼を閉じているナイジェルは、まるで眠っているよう。

ど、どうしたんでしょうか!?

こんなこと、今までなかったのに……。

「ナイジェル、ナイジェル! 目を覚ましてください! 大丈夫ですか?」

焦った私は橫になっているナイジェルのを強く揺さぶる。

今まで大丈夫だったのに、急に神の加護が適合出來なくなった……?

いや、でもナイジェルのからは神々しいが放たれたまま。

神の加護が適合していないなら、この現象は説明が付かない。

「と、とにかく……すぐに誰か人を——!」

——呼びに行こうと思い、その場を離れようとした時でした。

「その……必要はあり……ません……」

ナイジェルから聲が聞こえる。

「ナイ……ジェル……?」

「……やっと信……た。あまり……長くは……話……ない」

途切れ途切れの聲。

相変わらずナイジェルは意識をうしなったまま。

それに間違いなくナイジェルから聞こえているのに、彼の聲ではない。優しげなの聲です。

もしや……。

神様……?」

「わ、た……そうで……」

相変わらず聞き取りにくいけれど、確かにナイジェル——彼から肯定が返ってきた。

私はそれを聞き、その場にしゃがみ、神に向かってこう問いかける。

神様! 教えてください! もうお知りだと思いますが、世界は危機に瀕しています。私だけの力では……」

さらに言葉を続けようとすると、彼はそれを遮るようにこう続ける。

「分かって……ます。魔王……復活の危機。だから私は……この方を通し……」

いつこの狀況が終わるのか分からない。

私は神からの言葉を一言一句、聞きらさないように意識を集中させた。

「あなたに與えた力……不完全」

「不完全?」

「ええ……それもこの世界と私を結ぶ《道》……なくなってしまったせい……それがあれば……もう一度……出來る」

ということは神から得られる力が完全になれば、私も始まりの聖のようになれるということ?

「それはどうすれば?」

「始まりの聖……彼が……ううん。彼の一(・)部(・)……あれば……る」

神からの聲がだんだん小さくなっている。かすれかすれで聞き取りにくくもなってきた。

この様子だと、神と信出來るのもあとほんの僅かみたい。

それも神の言う《道》がないせいでしょうか?

「ですが、始まりの聖は大昔の人です。も殘っていないでしょうし、今更そんなことは……」

……確か……えた。だけど、まだ始まりは……まだ……いる」

「え?」

聞き返すと、神の聲はこう続いた。

「始まりの聖は……自らを犠牲にして、魔王を封印……今も魔王と、この地で眠って……る」

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