レティシアも……？

「本気ですか？」

私が質問すると、レティシアは真剣そうな表で頷いた。

正直、あまりレティシアを傍に置きたくない。

何故なら私はまだ彼のことを完全に信頼していないからです。後ろから背中を刺されないとは限りませんから。

王國時代、彼の虛言癖には散々頭を悩まされてきた。

そのせいもあるからでしょう。

どうしても彼に対する抵抗が取れず、簡単に頷くことは出來ませんでした。

でも……。

「ナイジェルはどう思いますか？」

「ん……そうだね。確かに僕も心配だ。でも同時に呪いのスペシャリストを仲間に引きれたいことも事実。この先、なにがあるか分からないからね。呪師がいるとなったら頼もしい」

「ですよねえ……」

どうやらナイジェルも私と同じ考えみたい。

正直、レティシアのことは心配。

しかし彼が一級品の呪師である事実には変わりない。

玉座に強力な呪いを施していた相手ですから……この先にも、同様の罠が仕掛けられている可能も高そうですしね。

「…………」

じっと私はレティシアの両眼を見つめた。

その視線をレティシアは真っ直ぐけ止める。

……キレイで大きな眼。

ロマンス小説に出てくるヒロインみたいです。

私が聖をしていた頃のレティシアは、瞳にもっと闇が孕んでいた。いつ発してもおかしくない、というんでしょうか……。

でも今のレティシアにはその淀みがない。「足を引っ張らないようにするから」という言葉は、私達を騙そうというわけでもなく、本心……のように思えます。

「……分かりました」

私は肩の力を抜いて、レティシアにこう言う。

「しかししでも怪しいきを見せれば、すぐに帰ってもらいますからね。私達の指示にも従ってもらいます。それでもよければ……」

「話が分かる聖(・)(・)じゃん」

パチンとレティシアは指を鳴らした。

まるで無邪気な年のような表。

今までのレティシアだったら考えられないことなのに……クロードと同様、彼も大きく変わろうとしているんでしょうか。

……そうです。

「クロード。あなたはどうしますか？」

私の視界の片隅で。

なにか言いたげにしていたクロードに私は聲をかけた。

「へ、へっ！？」

急に呼びかけられ、クロードは素っ頓狂（とんきょう）な聲を出す。

「私達はこれから地下に潛ります。危険があるかもしれません。レティシアが話してから、あなたは落ち著かない様子でしたが？」

「レ、レティシアが危ないと思ったからな。彼は可憐で弱々しいだ。それなのに危険が多そうな地下に、君達と一緒に行ってもいいのか……と思って」

クロードは私から視線を外しつつ、俯き加減で言った。

ふふふ。まだレティシアのことを、どこにでもいるただのだと思っているようですね。

いちいち指摘するのもあれだし、言いませんが。

「もしよかったら、クロード王子も同伴するかい？」

私の言いたかったことを、ナイジェルが代弁してくれた。

「は、はあ？　ボクもだと？　だが、ボクはなんにも出來ないぞ。あまり人數は増やしたくないと言っていたのに……」

「それはそうなんだけど、クロード王子一人だけなら大丈夫だと思ってね。それに君とは腹を割って話をしてみたかった。レティシア嬢のことが心配なら、いっそのこと付いてくればいい」

「…………」

ナイジェルの言葉に考え込むクロード。

しかし結論を出すのには、あまり時間はかからなかった。

「よ、よかろう！　でもボクは本當になにも出來ないからな！　足を引っ張らないようには気を付けるが、それでもよければ……」

「うん、分かった」

とナイジェルが微笑んだ。

足手まといは増やしたくない。

だけどレティシアの方に視線をチラチラやって、いてもたってもいられないクロードを見ていると、とてもじゃないが置いていけないのも事実です。

あとから追いかけてこないとも限りませんからね。だったら最初から連れて行く方が、まだ安心です。

「レ、レティシア！　ここから先はボクから離れるんじゃないぞ！　君のことはボクがきっと守ってみせるから！」

「はいはーい」

強い言葉とは裏腹に、両足が震えているクロード。

そんな彼の傍らに、レティシアが呆れたような顔をして寄り添った。

これじゃあ、どちらが守ってもらう側なのか分かりませんね。

「じゃあ行こう」

「はい」

こうして私達は謎の地下空間へと足を進めるのでした。

書籍版の公式発売日がとうとう明日になりました！(もう並んでるところもあるみたいですが……)

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