《悪魔の証明 R2》第56話 036 クロミサ・ライザ・リュウノオトハネ(2)

「サイキック・チャレンジに? ああ、いつかな」

スピキオから素っ気ない言葉が返ってくる。

「いつかじゃないわ、それは今日よ。今日戦えないものは明日も戦えないの」

憤然とした心持ちになりまた格言を述べてしまった。

「ほう、中々面白いことをいうな」

妙なところでスピキオが心する。

「だって、私が行ったら絶対に勝てるでしょう。そうやって、毎回みんなを騙してきたんじゃない。なぜ、第六研の場合だけは特別なのかしら」

矢継ぎ早にそう言葉を並べ立てた。

この臺詞に、ふー、とスピキオが呆れた吐息をつく。

何、この態度。腹立たしい。

私がそのようにじているのを目に、スピキオはし間を空ける。それから、変聲機によって変換された低い聲を響かせた。

「クロミサ。今はその時ではない。君は最終兵なんだよ」

「最終兵……あら、やっぱりそうなの?」

「ああ、そうだ。君は私にとって最後の切り札なんだ。だから、わざわざ帝都大學の近くまで連れてきているんだ。そう前にも言っただろう。いったい、何度言ったらわかるんだ」

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スピキオはそう言うと、軽く頭を振った。

「でも、もうちょっと近くで――のぞき見するくらい、別にいいじゃん」

當然まだ不服だった私は、そう言い返した。

レイ・トウジョウに絡み出してからというもの、サイキック・チャレンジの度にたら最終兵たら核兵たら、たいそうな単語をスピキオは使ってくるが、一度としてその兵は使われたことがない。

「頼むから、たまには言うことを聞いてくれ。この前も、私の目を盜んで第六研の研究室近くに來ていただろう」

スピキオが諌めるような口調で言う。

「な、なぜ、それを……」

額から嫌な汗が流れた。

「やはりな」

と、見計らったかのようにスピキオは早口で返してくる。

ああ、しまった。

この野郎。またカマをかけてきやがった。それにまた簡単に乗ってしまうとは、私はなんて馬鹿な……

「いいかい、クロミサ。萬が一にでも、今、彼に君の存在を知られては困るんだよ」頭を抱えながら自戒している私を無視して、スピキオは告げる。「まだその時ではない。レイ・トウジョウ――彼にはこれから、壯大な恥をかいて貰わなければならないんだからね」

そして、この白の仮面の発言から、し後のことだった。

「う……」

私は言葉を失った。

それは、もちろんスピキオが言った容のせいではない。

前屈みになったスピキオが、子犬を諭すかのように顔を近づけてきたので、図らずも赤面してしまったのだ。

と、短い回想を終えた私はまた頭を抱え込んだ。

思い立ったかのように何度も額付近を叩く。

「私の馬鹿!」

目を瞑りながら、そうんだ。

これはいつものスピキオの手口なのだ。

人の心を読んだような態度、優しげな腰。常人とは覚の違うアメとムチの使い分け。

何度騙されたらわかるんだ、私は。

そう肩を落としながらも、タブレットパソコンの畫面に再び目を移す。

先程まで映像の背景は黒だったのだが、今は灰の壁が映っており人影がくようになっていた。

「いよいよ、始まるのね」

そう聲を零しながら、さらに畫面を注視しようとした瞬間だった。

レイの顔がアップで抜かれる。

そして、その彼の登場により、畫面はその容姿を褒め稱える文字で埋め盡くされた。

コメントを非表示にしていたはずなのだが、アプリケーションのバグなのか何度アイコンを押しても文字の弾幕は消えない。

この雪みたいな顔をしたのどこがいいのか。

非表示にすること諦め、図らずも文字を見つめるはめになった私はそう何気なく思った。

こいつの顔やスタイルのレベルなんて、メイド喫茶とかネット上で散見される素人アイドルにが生えたようなものでしょうに。

そう卑下はしたが、実際のレイはネット世界においてほぼアイドルに近しい存在だった。

たかがネット限定の隠れ地下労働施設級素人アイドルとはいえど、チャンネル開設當初からオタク共の熱烈なサポートがあったこともあり、今現在の人気は凄まじいものがある。

未だネット市民の間でのみもてはやされている存在ではあるが、下手なアイドルよりは有名だと述べても過言でない。

それを証明するかのように、第六研の投稿する畫へのアクセス數は既に大學の公式チャンネルレベルでは考えられない數字になっている。

その人気ぶりは、レイ・トウジョウ五百人委員會というレイ・トウジョウ非公認のファンクラブまで存在する程だ。

そこまで考えた私はなぜだか無に腹立たしくなり、

「……というか、レイ・トウジョウ五百人委員會って何? 名前自意味が不明なのよ」

と、歯軋りをしながら文句をつけた。

それだけでは腹の蟲がおさまらず、彼の映り込んだ畫面を毆り飛ばそうかと拳を固める。

だが、頭を強く振りその気持ちを抑えつけた。さすがに新品のタブレット端末の畫面を傷つけるのは気が引ける。

力を抜いて、手を前にばしそっと畫面にれる。すると、水面に広がる波紋のように畫面が波打った。

それによりレイの顔が醜く変形することを期待していたのだが、運の悪いことに畫面はすでに切り替わっていた。

白一――

何、この気持ち悪いの。

と一瞬思ったが、波紋が収まるとその正はすぐに判明した。

その白の正は、言うまでもなく微睡を帯びた白のデスマスク――スピキオ・カルタゴス・バルカだった。

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