《悪魔の証明 R2》第57話 039 シロウ・ハイバラ(1)
レイの聲がその反響を終えた瞬間、スピキオの仮面はそのきを止めた。
何かしら、アリスが行ったトリックの核心をついた発言だったのだろうか。
不安をに抱きながら、俺はそう訝った。
レイの言葉が示唆するところはまったくわからない。だが、スピキオが応答しなかったところから鑑みると、決してこちら側が有利になるような臺詞ではなかったと考えて然るべきだ。
「……さあ、アリス」
固まったままのスピキオから目を切り、レイはそう聲をかける。「目隠しを外しなさい。もう、そんなものは不要だわ。永遠にね」
宣言するや否や、指をパチンと鳴らす。
レイが促した通り、アリスはリボンを顔から外した。
彼の表に、焦燥をじさせる面影は微塵もない。
何はなくとも、ほっとをで下ろした。
そこで、
「遅いよ、ジゼル」とか「だって仕方ないよ、ミリア。合図の音が聞こえなかったんだもん」
という聲が、ドアの向こう側から聞こえてきた。
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いったい何をしてるんだ、あのふたりは。
俺はドアの方へと注目を移した。
事前の打ち合わせでは、レイから合図を送られたらすぐに特殊加工したアイマスクをジゼルが運んでくる手筈になっていた。
だが、予定とは違い、未だジゼルは中にってこない。痺れを切らしたミリアが、わざわざ研究室の外まで迎えにいったのだ。
どのような形狀をしているのか知らなかったこともあり、俺は今朝そのアイマスクのことを聞いた時からそれに興味を抱いていた。
俺のそのような期待に反するかのように、「早くりなよ」とか「だって、テレビに映りたくないんだもん」とか「もう、仕方ないな。じゃあ、私が持って行く」というような、一悶著が引き続き行われる。
そして、束の間の後、ようやく研究室のドアが開いた。
「よいしょ」
何やら重いでも抱えているような口振りで、ミリアが中へとってきた。
「な――」
それを目にれた俺は、思わず自分の目を疑った。
ミリアの腕の中にあるは、スピキオが被っているような仮面の類ではなかった。
顔全を完全に覆うグロテスクな鉄製の仮面。要は鉄仮面だ。
持ち上げられ宙に浮いた格好になった鉄仮面は黒りしながら、先へと進んでいく。
間近でそれを視界にれたせいか、さしもののアリスも驚きを隠せないような顔をしていた。
鉄仮面は、目、口、ともに錆びた鉄で打ち付けられていた。
鼻の部分は息ができるよう辛うじて細工されているようだが、それ以外は完全閉されていると述べても過言ではない造りだった。
明らかな焦りを見せながら、アリスがスピキオへと顔を向ける。
よほど、想定外のことだったのだろう。
だが、スピキオは軽く頭を振るだけで、彼に何か言葉をかけることはなかった。
「ふふ、おふたりさん。どうやら、問題なさそうね。さあ、ミリア。アリスに鉄仮面を裝著してあげてくれるかしら」
額から汗を流し始めたアリスを無視して、レイはそう指示を送った。
「え、何? え……」
アリスが戸った聲をらす。
その頃には、鉄仮面はアリスの頭の上を浮遊していた。
「あらあら、なかなかお似合いじゃない」ミリアにより鉄仮面を被せられたアリスに向かって、レイは冷笑を浴びせかけた。「それでは、二戦目を始めるわね。聞こえたら、手をあげてちょうだい」
素早くカードのシャッフルを始める。
ゲームの展開を早めることによって、アリスの判斷能力を失わせようとでもしているかのようだった。
鉄仮面のは、一匹のアイ・モスキートが浮遊する天井に向け力なく腕をあげる。
「ねえ、アリス。さっきと同じ左から二番目のカードなのだけれど、このカードの絵柄は何かしら」
レイはそう訊くと、素早くカードを翻した。
カードの中は先程と同じあの醜いカバ。一戦目と同様に、鉄仮面のは前に手をかざした。それにより、鉄仮面を見つめる醜いカバの姿は周囲から覆い隠される。
今度はかなり時間がかかった。
しばらく間があいた後、ようやく、「……オン」と、鉄仮面の口元から消えるような聲がれてきた。
「アリス、よく聞こえないわ」
レイが凍ったような聲で注意する。
それが耳にったからであろうアリスは、大きく息を吸い込んでから、
「……ライオン」
と、回答を述べた。
疑いようもなく不正解。
膝から崩れ落ちそうなほど、愕然とした気持ちになった。
反対にレイは、そう、と勝ち誇った吐息をらす。
すかさず、次のカードをめくる。
次は、アリスがすでに回答したのライオンだった。
すべてを正解するという前提に置いてアリスは回答しているのだから、彼が正答を述べることなどありえない。
案の定、再びレイに図柄を問われたアリスはし時間をおいてから、「カバ」と答えた。
勝負は決した。
次々と不正解を並べていくアリスを、俺を含めたすべての人間が哀れみの目を持って見守った。
もはや誤魔化しで、修正の効く範囲ではなかった。
全問が終わった後、ミリアがアリスの顔から鉄仮面を外した。
ようやく顔の自由を得たアリスは、一仕事終えたじで、「ふー」と、一息ついた。
次の瞬間、そのアリスに向け、レイが殘酷な事実を述べる。
「殘念ね、アリス。全問不正解。この実験では全問不正解する方が難しいのだけれどもね。まあ、何にしてもよく頑張ったわ」
敗北と労いの言葉を同時に突きつけられたアリスの瞳は、瞬時に灰に変わった。
額から流れ出る汗を拭おうともしない。
彼がどのようにじているのか推し量れないが、それは絶の一種であろうことは疑いようがなかった。
それを見つめながら、レイは前へと歩き出す。
頬に微笑を浮かべながら。
コツコツと、靜まり返った研究室の中をハイヒールの音が鳴り響く。テーブルの角を回り込んだ後、立ち止まった。
そして、國立帝都大學超常現象懐疑論研究所第六研究室教授レイ・トウジョウは、アリスを見下しながら獨白を始めた。
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