《【書籍化】捨てられ令嬢は錬金師になりました。稼いだお金で元敵國の將を購します。》王都アストリアの人気者 2
飛竜のことは一先ずおいておいて、私はジュリアスさんを連れて冒険者の方々向けの洋品と武防のお店にった。
広い店に様々な料品や、剣や鎧などがひしめいている。店にあるだけではなく、倉庫にもかなりの在庫がある品揃えには信用のおけるお店である。
「ロバートさんこんにちは」
「クロエちゃん。こんにちは。珍しい、男連れだね」
茶の髪をオールバックにして口髭をはやしたスーツの紳士であるロバートさんは、今年三十六歳。っぽい奧さんと子供が五人もいる中年男である。私の仕事上武防店を訪れることも多く、すっかり顔馴染みだ。
「はい。こちらはジュリアスさんです。昨日奴隷闘技場から買ってきました。ロバートさん、ジュリアスさんにぴったりな、服と防と武をくださいな」
私の背後に立っていたジュリアスさんが、何故か私の耳を引っ張った。痛い。
「おい、阿呆。俺の顔は知られていないと言ったばかりなのに、何故分を言うんだ」
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「隠しても良いことなんてありませんし、ロバートさんですし」
ジュリアスさんは心配だわ。
私はジュリアスさんの言うような阿呆ではないので、誰に何を言うかぐらいは選んでいる。
「奴隷闘技場のジュリアスといえば、黒太子ジュリアスのことかい? それはそれは、良い買いをしたね、クロエちゃん」
ロバートさんは落ち著いた口調で言った。
「でしょう?」
「確か……、黒太子ジュリアスの奴隷闘技場での刑期は百年。百勝につき、一年刑期が短くなるんだったかな。実質の死刑宣告だったのに、三年間全勝して生き延びたとか。素晴らしい強さだね」
「まぁ! ジュリアスさん、強いのは噂で知ってましたけど、凄いじゃないですか」
私はひっぱられた耳を押さえながら、ジュリアスさんを見上げた。
ジュリアスさんは心底どうでもよさそうな顔をして、視線を逸らした。
「支配人の気が変わったのか、客寄せか話題作りかは知らないが、とても庶民には買えない値がついたと聞いたよ。売りに出されても、その恐ろしさから買い手はつかないか、よほどの好きが買うと思っていたけれど、クロエちゃんが買うとはね。さすがクロエちゃんだ、目の付け所が違うね」
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「ロバートさんならそう言ってくれると思っていましたよ」
「僕はものの価値にしか興味がないからね。でもクロエちゃん、あまり皆には言わない方が良いよ。戦爭が終わってまだ三年。黒太子ジュリアスと聞けば恐れる王國民の方が多い」
「そうですね、気をつけます」
「いや、クロエちゃんが聡明なことは知っているからね、余計なお世話だったかな。ただ、……國王シリル様や、王妃アリザ様の耳にるのは心配だね。クロエちゃんのに何か起こらないと良いけれど」
ロバートさんは心配そうに言った。
私の元婚約者シリル様と、妹のアリザには三年前からずっと會っていない。
王城に住む方々には下々の生活など耳にらないだろうし、私はとっくに死んだものと思われているかもしれない。
別にクロエ・セイグリットであることを隠したりはしていないけれど、わざわざ自分から言うことでもないし、三年もすればセイグリット家のことを話題にあげる人の方がない。
私は錬金師のクロエだ。公爵令嬢クロエである私の事を知っている人は、今はもう數えるほどしかいない。
「ありがとうございます、大丈夫ですよ。ジュリアスさん強いんで。ロバートさん、そんなジュリアスさんをさらに強くする武と、普段使いの服と靴をくださいな。下著から靴下までひととおりですよ」
「黒太子ジュリアスの武を選べるだなんて栄だね。沢山買ってくれるのかい、クロエちゃん」
「必要経費ですから。お金に糸目はつけませんよ」
「太っ腹だねえ。いつも助かるよ」
ロバートさんはメジャーを取り出すとジュリアスさんの採寸をはじめた。
ジュリアスさんは長や腕の長さや足の長さを測られる間、大人しくしているようだった。
採寸されるだけで大暴れするような獣みたいな人じゃなくて良かった。ジュリアスさんが誰彼構わず噛み付く獣じみた人である可能も考慮していたのだけれど、大丈夫そうだ。
ジュリアスさんはディスティアナ皇國のクラフト公爵だったのだし、禮儀作法だってきちんと學んでいたはずなので獣じみた人かも、だなんて思う方が失禮なのかもしれない。
私だって三年前はセイグリット公爵令嬢として優雅に「そうですわね」とか言っていた。今はもう見る影もないのだから、私だってジュリアスさんと似たようなものだろう。
私は暇になったので、店のをすることにした。
新しく荷した武や防を眺めていると、いつの間にか隣にジュリアスさんが立っていた。
「あれ、もう採寸終わりました?」
「終わった」
「ロバートさんと一緒に、好みの武とかを選ばなくて良いんですか? 今ならご主人様がなんでも買ってあげちゃいますよ」
「なんでも、と言ったな、クロエ」
ジュリアスさんが口元だけに薄い笑みを浮かべている。目が笑っていないのが不気味だ。
「飛竜っていうつもりなんでしょ、ジュリアスさん。どんだけ飛竜が好きなんですか。飛竜好家ですか」
「竜騎士とは飛竜に乗るものだ。蟻のように地を這うのは好きではない」
「大多數の人が蟻のように地を這って生活してるんですけどねぇ、ジュリアスさん。飛竜高いんですよ。もしかしてジュリアスさん、私が無盡蔵にお金持ってるとか思ってます?」
「溜め込んでいるだろう。お前は、暮らしぶりも服裝も質素だ」
「服裝が質素で悪かったですねぇ。可いじゃないですか、エプロンドレス。錬金師ってじがするでしょ? この格好で街を歩くと皆がクロエ錬金店のクロエちゃんってわかってくれるんですよ。つまり私は歩く広告塔というわけです」
「お前の服裝についての詳しい話はどうでも良い」
「ジュリアスさんが先に服裝について言ってきたんじゃないですか」
ジュリアスさんめ、顔が良くてスタイルも良いからその辺で買ったフリーサイズのローブでさえさまになってるのが腹立たしいわね。
男の下著事がわからなすぎて下著の準備はできなかったので、今パンツ履いてないくせに。
私は心の中で言いがかりをつけた。でも流石に下著については指摘できなかった。準備していなかった私の責任だし。
「必要なを買ったら、飛竜のお店にも行ってあげますよ。確か王都の端に、飛竜のお店があったような……、ジュリアスさんが気にいる飛竜がいるかどうかは分かりませんけど。そういえば、三年前に乗っていた黒い子はどこいっちゃったんです?」
ジュリアスさんは、奴隷闘技場で奴隷剣闘士になる前は、皇國で黒い飛竜に乗って戦場を飛び回っていたらしい。らしいというのは、私は実際見たわけではないからだ。
戦爭は起こっていたのだろうけれど當時の私にとっては遠い世界の出來事のようにじられた。ジュリアスさんのことだって、噂でしか知らなかった。
「さぁ。殺されたか、野に帰ったか」
「懐いてました?」
「まぁな」
んなことに興味がなさそうなジュリアスさんだけれど、飛竜の話になると雰囲気が変わる気がした。
肯定する言葉には、懐かしそうな響きがあった。
「名前もありました?」
「それを聞いてどうするつもりだ」
「私、良いこと思いついたかもしれません。飛竜って壽命が私たちよりずっと長いし、賢いんですよね」
「あぁ。そうだ。あれは、人間よりもずっと賢く純粋な生きだ」
「飛竜好きなんですねぇ。そんなジュリアスさんに良い作ってあげますよ、私」
「錬金で、か?」
「そうです、作ると言ったら錬金です。特別大サービスですよ。だから飛竜の名前を教えてくださいな」
「……ヘリオス」
「可い名前ですね。ヘリオス、ですね。覚えました。ヘリオス君が生きていれば、飛竜、買わなくて良くなるかもしれません。飛竜屋さんに行くの、一日待ってもらっても良いですか?」
「仕方ない」
ジュリアスさんが譲歩してくれたので私は「ありがとうございます」と禮を言った。
私がお禮をいうのおかしくないかしらと一瞬思ったのだけれど、別に減るでもないし良いかと考え直した。ありがとうは無料なので、いくらでも言う事ができる。接客業を三年も続けていれば、完璧なありがとうが言えるようになるのだ。そんなに心は籠もっていないんだけど。
「ジュリアスさん、ロバートさんと一緒に武とか服とか選んでくれば良いのに」
「何でも良いから、適當に選べと伝えてある。武にはこだわりは無いと言っただろう」
「服にはこだわりがあるんじゃないですか? どうします、ロバートさんのセンスがダサかったら。ロバートさんおじさんですから、凄いダサい服持ってくるかもしれませんよ。全豹柄とか」
全豹柄のジュリアスさん、面白そうだから見たいわね。
ジュリアスさんは凄く私を小馬鹿にしたような表で上の方から見下した。
「阿呆と話をしていると頭が痛くなるな」
「その阿呆と話をするために近づいてきたのはジュリアスさんじゃないですか。私は一人で靜かに新しい武を見てたんですよ、邪魔しないでくださいよ」
「お前は剣を使うのか、クロエ」
「私が使うのは錬金道ですよ。魔法もし使えるので、あとは魔法増幅の杖とかがほとんどですね。私非力なんで、剣とか持っても弱いのがさらに弱くなるだけですし」
「それなのに剣に興味があるのか?」
「時々お客さんで、剣とか防に特殊な効果をつけてしいってくる人がいるんです。ちょうど、ジュリアスさんの義眼みたいに。真実のアナグラムの効果を剣につければ、死霊系魔がサクサク倒せるようになるので、お勧めしていますね。非常に高いですけど。それでもそこそこの騎士さんや冒険者さんなんかはしがります。だからどんな武があるのかを見ておくと、依頼が來たときに対応しやすいんですよ」
店の奧でジュリアスさんと話をしていると、ロバートさんの私たちを呼ぶ聲がした。
ジュリアスさん用の料品を選び終わったようだ。
ロバートさんの立つカウンターには、置ききれないぐらいの量の服や武が並べられていた。
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