《【書籍化】捨てられ令嬢は錬金師になりました。稼いだお金で元敵國の將を購します。》王都アストリアの人気者 3
ロバートさんが算盤を弾いている。
料金の計算を待ちながら、私はジュリアスさんと共にロバートさんが用意してくれた料品や武を確認した。
私が期待していたセンスのなさは殘念ながらロバートさんにはなかったらしく、全ヒョウ柄の服とかは用意されていなかったのであまり面白くなかった。はっきり言って殘念だ。全ヒョウ柄のジュリアスさんが見たかった。
そんなことより、ジュリアスさんの黒太子という二つ名に相応しく、カウンターの上に置かれた服はほとんど黒だった。派手さはないけれど、どれもこれも質が良い。良い生地で作られているのだなと、るだけで分かる代だ。
服の他には、黒い外套に、剣が一本と槍が一本。
「その外套は、一見普通の洋服に見えるだろうけれど、クロエちゃんに錬金してもらったアリアドネの糸で織られたものでね、軽くて強度も抜群で、破れても切れても糸自に自己修復能力がある優れものだよ。そのまま丸洗いしても問題のない主婦の味方のような裝備なんだ。で、そちらの剣と槍は、クロエちゃんに錬金して貰った久遠の金剛石で作ったもので、勿論素の能力値も高いけれどなんせ魔法に対する応が大きくてね、つまり、魔力が乗るんだ。クロエちゃんの魔法でジュリアス君を援護できる、という優れものだよ。いつでも仲良く戦ってしいと言う、おじさんからの真心を込めてみました」
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算盤をぱちぱちを弾きながら、ロバートさんが長い説明をしてくれる。
「わー、ありがとうございます!」
私はにこやかにお禮を言ったけれど、心戦々恐々としていた。
アリアドネの糸も久遠の金剛石も、それはもう高い。めちゃくちゃ高い。売っている私が言うんだから間違いない。それらを私から買い取って武に加工して再び私に売りつけようとするロバートさんの節のなさ、まさに商売人というじだ。
ジュリアスさんは私をお金持ちだと思っているようだけれど、私の資金だって無盡蔵ではないので。
これに更に飛竜を買うとなると、貯蓄が底をつく可能がある。
私はジュリアスさんを見上げた。とても興味のなさそうな顔で、窓の外とか見ている。ジュリアスさんにはものの価値とか分からないに違いない。飛竜に乗って竜騎士してたとか言うのに、武の価値が分からないとか何事なのかしら。それでも將軍だったのかしら。
「なんだ、阿呆。お前好みの顔を見たい気持ちは分かるが、あまり見るな。不愉快だ」
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「ジュリアスさん、下著穿いてない癖に……」
私の視線に気づいて高圧的な態度をとってくるジュリアスさんに、私は小さい聲で言い返した。
「何か言ったか」
「別にぃ」
ジュリアスさんには聞こえなかったようだけれど、ちょっとすっきりした。
「全部で総額五百萬ゴールドだよ、クロエちゃん」
「……お洋服と武と防が、ジュリアスさん本の値段と一緒……」
それぐらいはいっているだろうなと思っていたけれど、いざ値段を出されるとショックだ。
払えない額ではないけれど、暫く豆のスープで飢えをしのぎながら、危険な魔を狩って希な素材を集めないといけない。依頼は來ているけれど素材集めが大変過ぎて保留にしている案件がいくつかあるので、それらをこなせばジュリアスさん二人分の値段の元はとれるだろう。
「久遠の金剛石も、アリアドネの糸も高いからね。王都で一番腕の良い職人に加工して貰ったんだから、それなりの値段はするよ。それに、ジュリアス君は元々クロエちゃんと同じ貴族だろう。あまり安価な服を提供すると、うちの店の評判が落ちてしまうからね」
ロバートさんは、一般庶民が一年間頑張って死ぬ気で働いても到底稼げない額を提示しながら、落ち著き払っている。私なら払えると確信している顔だ。
ロバートさんとはそれなりに親しい間柄だけれど、私達の関係に値引きという言葉は存在しない。
ジュリアスさん一人養うのに二日間で一千萬ゴールドも使ってしまう事に衝撃をけながら、私は「分かりました」と頷いた。
自宅にある無限収納トランクと繋がっている無限収納鞄から、百萬ゴールドでひとまとめにしてるお金の束を五つ取り出して、ロバートさんに渡す。ロバートさんはとてもにこやかだ。
「ジュリアスさん、この鞄の中に適當に買ったものを突っ込んでくださいな」
「何故俺がやる必要がある」
「ジュリアスさんのものですから! 自分のは自分でしまう! 當然です。私はジュリアスさんの奧さんじゃなくてご主人様なんですよ」
「……」
「今ジュリアスさん舌打ちしませんでした? 五百萬ゴールドもするお洋服と武と防を買って貰って、舌打ち! なかなかできませんよ!」
「お前が買いたいから買うんだろう。俺は頼んでいない」
ジュリアスさんなんて一生全で過ごせば良いんだわ。
そう思ったけれど、私は言わなかった。優しいので。
腕を組んだままジュリアスさんはこうとしないので、私は仕方なく並んだ服や武をしまった。
アリアドネの外套も久遠の武も案外軽かったので、さほど苦労はせずにしまいこむことができた。
私の鞄の中に吸い込まれるようにして、沢山あった洋服たちがしまわれていく。ジュリアスさんの黒い下著は私の下著とは違い三角形ではなく、半ズボンみたいな形だった。また買わなきゃいけないかもしれないし、覚えておこう。
「またよろしくね、クロエちゃん」
「こちらこそ、ロバートさん」
沢山売れてご機嫌なロバートさんが、軽く會釈をしてくれる。私に挨拶をしたあと、ジュリアスさんに視線を向けた。
「ジュリアス君、クロエちゃんをよろしくね。クロエちゃんは、こう見えてかなり苦労しているんだ。セイグリット公爵の悪評がどうであれ、クロエちゃんに罪はない。今ではみんなそれを分かっている」
「ロバートさん、ありがとうございます」
私は、心の籠ったお禮を言った。
ロバートさんが私の立場についてここまではっきりと口にするのは初めてかもしれない。
「今じゃすっかり街の人気者だよ。だから、クロエちゃんを大事にしないと、恨まれるよ、ジュリアス君」
お父さんのように私を心配してくれるロバートさんに釘を刺されても、ジュリアスさんは怒らなかった。
返事はしなかったけれど、さっさと店を出て行ってしまったけれど、怒らなかったので褒めてあげよう。
私はロバートさんに手を振って、ジュリアスさんの後を追った。
「ジュリアスさん、お買いが終わったからご飯食べて帰りましょ。人なお姉さんの切り盛りする食堂があるんですよ」
すたすた來た道を戻っていくジュリアスさんに小走りで追いついて、橫に並んだ。
太は空の真ん中からし傾いている。買いをしていたらお晝を過ぎてしまったようだ。
「帰るぞ、クロエ。お前にはやることがある」
ジュリアスさんは私を一瞥して言った。
「やること?」
「錬金をしろ。お前は飛竜をどうにかすると、言った」
「頭の中飛竜でいっぱいじゃないですか。どんだけですか。ご飯食べないと集中力続かなくて錬金できませんよ」
「使えない阿呆だな」
「私だって人間なんですー、天才錬金師も魔力と集中力が切れたら錬金できないんですよぅ」
「死ぬ気でやれ」
「嫌ですよぅ、実りもないのに死ぬ気で錬金だなんて。やる気が出ませんよ。せっかく味しいもの食べましょってってるのに。家に帰ったら豆のスープしかないんですよ」
しばらく豆のスープ生活になるのだから、最後の晩餐ぐらい味しいものが食べたい。
「ジュリアスさん、育ち盛りなんですからとか食べたいでしょ。おが好きそうな顔してます」
「奴隷闘技場では黴びたパンを齧って生き延びていた。食事など食えれば何でも良い」
「獣の発想ですよ、それ。ジュリアスさん思い出して……あなたは、貴族だったのよ……!」
私は泣き真似をした。
ジュリアスさんは私の耳を無言で引っ張った。痛い。
「クロエ、大聲で貴族などと言うな。阿呆なのか、本當の」
「どういう意味ですかそれ」
「俺の素は隠すんだろう? 先程の店の店主にも言われていた。忘れたのか? 記憶力がないのか?」
「ジュリアスさんて結構人の話ちゃんと聞いてますよね。やっぱり育ちが良いからなんですかねぇ」
「お前はしは話を聞け、阿呆」
「聞いてますよ、聞いてます。お金のこと考えてて忘れてたとかじゃないです」
ジュリアスさんと言い合いながら歩いていると、天の商人さんやお惣菜屋さんのおばちゃんたちが、「クロエちゃん、人できたのね!」などといいながら、次々と食べのった袋を私に手渡しに來てくれた。
「人じゃなくて奴隷です」ともいえず、私は曖昧に笑った。ジュリアスさんは無言だったけれど、見た目が良すぎるので、無言でもおばちゃんたちから黃い聲を浴びせられていた。
渡されるものをありがたく全部け取りながら歩いていると、食堂にたどり著く前に、私の両手はいっぱいになってしまった。
「よかったな、街の人気者。帰るぞ」
ジュリアスさんが満足気に言う。
街の人気者と言われて嬉しくなかったのはこれが初めてだった。
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