《【完結】「死んでみろ」と言われたので死にました。【書籍化・コミカライズ】》6
公爵家で見た時よりも、目の前の醫者はし若く見えた。白髪混じりの金髪、そして人の良さそうな目には皺が刻まれている。そんな彼の方へゆっくりと歩みを向けながら、った扉を閉めた。
「ふむ…わしの知り合いでも、紹介でもなさそうじゃが…」
「…ええ、お初にお目にかかります。ナタリー・ペティグリューと申します」
「おや、ペティグリュー家…貴族の方とは…」
この時代でお醫者様と出會うのは、“はじめまして”になる。その當たり前に、し寂しさをじながらも…未來と変わっていない彼の雰囲気に懐かしさを持つ。
公爵家専屬の醫者でありながら、住まいは敵國と同盟國とペティグリュー家領地の境界…國同士の牽制によって中立がり立つ僻地に置き、不自由な人々の診療を行なっているのだ。彼自、実は貴族だった。
しかし分を捨てーーこうした醫者になったという思い出を…公爵家にいたナタリーを問診する際に話してくれた。
「…分など、お気になさらないで下さいませ。気軽にナタリーと」
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「ほっほっほ…ここまで、わしに気を遣って下さるとは…何か口止めでもされそうじゃのぅ…これは冗談じゃがね、ほっほっ」
「ふふ、決して口止めなんて意図はございませんわ」
「そうか…ではお言葉に甘えて…ナタリー嬢は、どんな目的でここへ?」
話口調はらかいが、視線には鋭さがあった。そこに含まれるのは、疑問と見定め。ナタリーは軽く握り拳をつくり、意を決して口を開く。
「…涙草(なみだつゆくさ)を求めていらっしゃると伺いました」
「ほう…?」
「その草を支援致しますので、それでお作りになった薬を頂けませんでしょうか」
お醫者様の視線が先程よりも鋭くなった。それもそうだろう、未來で聞いた話をもとに提案したのだから。
公爵家に嫁いでから數年後、彼が涙草を用いて、黒點病を治療する薬を作った。マイナーな薬草のため、流通があまりなく手が困難で遅れてしまったと…お醫者様から聞いた時、歯がゆい思いをしたことをずっと覚えている。
もっと早ければ、お母様を救えたかもだなんてーー。
しかもその涙草、ペティグリュー家が所有する山に群生してるのだ。い頃、両親と山の麓の景を見に行った際、目にった…白く小さな花がそれだった。
(こんなに近にあったもので、お母様が救えたことに…いいえ、未來のことはもう仕方なかったのだわ)
ナタリーの提案から、一向に口を開かないお醫者様に、お腹が痛んでくる。もし彼が、私の言葉に頷かなかったら…優しい彼を知っていたナタリーは、大丈夫だと思って噓や言い訳をつかず話をしてしまった。
でもよく考えたら、いきなりすぎたかもしれない。
(…どうしましょう)
ナタリーが暗く、俯きそうになったその瞬間。
「ほっほ…そんなに泣きそうな顔をしなさんな…わしが怖い顔をしてしもうて…すまんのぅ」
「…いえ、私こそ…戸わせてしまって…」
「そうじゃのぅ…確かに、どうしてわしがその草をしがっていることを知っているのか…疑問はあった」
ナタリーが俯きそうな顔をあげて、醫者を見れば…そこにはいつもの優しい彼の顔があり。
「でも、ナタリー嬢がわしを陥れようなんて思えんからのぅ…あくまでわしの勘ってやつじゃがね」
「……」
「…きっと、知ってる訳を知りたいと言ってもナタリー嬢を困らせてしまいそうだからのぅ。支援は願ってもないことじゃ、ぜひお願いしたい」
「…お醫者様、本當にありがとうございます」
「ほっほっ、人さんを泣かせてしまうなんて、わしの信義に反するからのぅ」
(…本當によかった)
一時は暗雲が立ち込めていたが、彼の笑顔とお願いを聞き、ナタリーはようやくほっと息をつくことができた。
「ああ、そう言えば…わしの名を言うておらんかったな、失敬。わしはフランツと言う。ただのフランツじゃ」
「…フランツ様、このご恩忘れませんわ」
「おや、様なんてこそばゆいのう…まだ恩は出しとらんよ。ナタリー嬢のため、薬を作らないといけないのう…」
お醫者様…もといフランツの言葉は、ナタリーの心を確かに明るく照らしてくれる。彼の諾をもらったので、草を手配するためにこう。
「聞くまでもないと思うが…ナタリー嬢は黒點病に効く薬がほしいで、合ってるかのぅ」
「はい、そうです…お母様の治療に」
「なるほどのぅ、自分ではなくご家族の方であったか…」
実は黒點病は、薬でしか治らない。ペティグリュー家の癒しの魔法が、に効かないからというわけでもなく。原因が魔力の詰まりのため、の免疫でしか治らないのが特徴なのだ。
「フランツ…なにやら、騒がしいようですが…」
フランツと今後の話を進めている中…突然、彼の背後にあるカーテンがシャッと素早く開けられた。そして、聞き馴染みのない聲と共に。
「ほっほっほっ、起きられましたか。エドワード様」
「…ああ、ゆっくり寢られましたけど、どこかのご老人の笑い聲が耳に…おっと、お客様がいらしたのですね。レディ、失禮しました」
「い、いえ」
その男をしっかりと見たナタリーは目を大きく見開く。なぜなら。
(どうして、第二王子がここにいるの!?)
燃え上がるような赤い髪が、貓の癖っのようにふわふわと肩上までありーー新緑の瞳を持つ、背の高い丈夫。
彼こそ、ナタリーの國で王位継承権を二番目に持つーーエドワード・フリックシュタイン王子なのだから。
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