《【完結】「死んでみろ」と言われたので死にました。【書籍化・コミカライズ】》14
私の記憶では、舞踏會で元義母が問題を起こしても…ユリウスは黙って容認していたように思う。しかし、今の彼は――ナタリーと出會う前だからなのだろうか。それとも、死ぬ前とは違う行をしているからなのだろうか。
――ユリウスに対しての違和。
扉から出れば、溫かい明かりが無人の廊下を照らしている。もう公爵家の馬車に乗ってしまったのだろうか…。ふと、床に赤いがついていることに気が付く。それは狀で、ポツポツ…と馬車がある方とは別の場所へ続いているようだ。
(いったい…どこに向かったの?)
赤い點を辿るように、ナタリーは足早に進んでいくのだった。
◆◇◆
辿っていけば、外に出た。そこは、王家直屬の庭師によって手れされた花園。季節の花が、鮮やかに咲き誇っていて。赤いバラが咲く庭園の中央に彼はいた。
――目を閉じて、設置されているベンチに座っている。
衝的に來てみたものの、いざ彼を目の前にすると…不安が頭をよぎる。しかし、やはりが點々と続いていた場所を思い出し――気合をれるように、深呼吸をした。
Advertisement
しっかりとした足取りで、ユリウスの方へ歩いていけば。
「誰だ」
僅かな足音に反応したのか、閉じられていた目がぱっと開く。そして、赤いルビーの瞳とナタリーは目が合った。目が合えば、ユリウスが息を呑んだのがわかる。
「二度目でしょうか…ナタリー・ペティグリューと申します」
盜賊襲撃の時と今回の二度目。ユリウスに挨拶をし、禮儀に則ったカーテシーを行う。それを、見たユリウスが慌てて立ち上がり――。
「ユ、ユリウス・ファングレーだ…その…」
「挨拶をありがとうございます。怪我をされていますから…立ち上がらなくとも構いませんわ」
「そ、そうか。では…失禮する」
なんだか、ギクシャクしているような――気がしなくもないが。ユリウスはナタリーの言葉通りに、ベンチにまた腰かけた。加えて、怪我をしているであろう手も隠しながら。
「…まだ、お帰りではなかったのですね」
「あ、ああ。家の馬車が先に出発してしまって…副団長が乗ってきた馬で帰る予定だ」
その後は言いづらそうに、「ただ、馬の嗅覚を刺激するとよくないもので」と答えた。きっと、舞踏會でついた食事や酒の臭い、そして彼の手。ユリウスは一通り言い終わると、目線をナタリーに投げかける。
ナタリーはどうしてここに?と言わんばかりの視線だ。
「私は、助けてくださった方を治しに來ましたの」
「そ、それは…」
「たまたま運よく…跡がございまして。ちゃんと見つけられてよかったですわ」
ナタリーが下を向けば、ユリウスも合わせてそちらを見て。そして、「ああ、それか…後で掃除の対処をしなければ、ならないな…」と暗い聲を出していた。
庭園の芝生に赤いが、いくつか描かれている。しかも、ユリウスの座っているベンチ付近も…ポタポタと小さなだまりになっているのだ。
「怪我した手を…見せてくださいませんか」
「……その…」
大変、見せるのが嫌そうである。しかし見せてくれなければ、治せないのだ。なぜ嫌がっているのかは、わからないが…ナタリーを助けて重傷だなんて寢覚めが悪い。いつかの恐怖など――どこかに忘れて、ナタリーはユリウスに近づく。
「ペティグリュー家のご、ご令嬢…な、なにを」
「無禮を承知で…失禮しますわね」
焦った態度のユリウスを制止して、怪我をした手をそっと摑んで持ち上げた。ナタリーの行に思考が追い付かないのか、「あ」や「う」などの一文字を発するだけで――ユリウスはされるがまま。
「…痛い、でしょうに…」
ユリウスの手のひらは、ひどい狀態だった。未だにが止まらない狀況から予想はしていたが、予想以上にガラスによって深く傷がついていて。じくじくと痛んでいそうな手は、摑んだ時どれほどの――。
「ご令嬢に…見せるものではなかった。すまない…だから離し」
「今から、魔法をかけますので…!じっとしててくださいね」
「…そ、そうか…」
ベンチの前に座り込むようにして――未だに止されていない手を、ナタリーは自分の両手に挾むように持つ。くのを防止する役割と魔法を効果的に発できるように。が付くことは全く気にせず。
そうしたナタリーの行に、驚いているのか…ユリウスが時折、謝罪を口にしていた。それは、を付著させてだとか、ご令嬢に無理な勢でだとか。
「処置しやすいから、この姿勢でいますので…お気になさらず」
「それなら、いい、のか…?」
まだ困を隠せないユリウスに、著々と自分の魔法をかけていく。集中して――傷を塞ぐように…皮を合するように。そうすれば、彼の傷が段々と癒えていくのがわかる。
「ふう…!これで、大丈夫です。ですが、今かけたばかりなので…無理はしないでくださいね」
「ああ…傷が綺麗になっているな…本當に謝する」
「いえ…、もし癒しの魔法が使える方がいたら…また日を改めてかけてもらってくださいね。そうすれば、きっと快癒しますから」
「…承知した。ご令嬢は、優しいのだな」
「え?」
ユリウスに褒められるとは思っておらず、裏返った聲を出してしまう。そして、ユリウスがおもむろに立ち上がって。
「ご令嬢、立ち上がれるか?」
「あ…ごめんなさい。足がしびれてしまって…時間が経てば立てますわ」
急にナタリーに質問したかと思うと。
「しだけ我慢を…申し訳ない」
「…へ?」
ユリウスの言葉を聞いた瞬間、ふわりと…そしてしっかりと抱きあげられ――。ユリウスが座っていなかったスペースにナタリーを降ろす。ナタリーの頭には混の文字が埋め盡くされ。
「ど、どうして…」
「ああ、…説明不足ですまない。手を…」
ユリウスがナタリーの手を見る。つられて見てみれば。魔法の際にによって染まった箇所が、汚れをふき取るようにサッとなくなった。
「わあ…!用ですね。ありがとうございます」
「いえ…それと…」
用な魔法の使い方に、歓聲を上げていれば…彼は急に跪きだす。その変化に驚いて見ると、懐からハンカチを取り出しているのが分かった。そしてナタリーの足――自分では気づいていなかったが、走ったため赤くなったところが目にる。
そしてその赤くなった足をヒールから外して。
「ちょ、ちょっと!」
「嫌なことを我慢させてしまい、誠に申し訳ない」
彼の表を見れば、眉が八の字に垂れ下がっていた。逞しい手に足をられ、鼓が早くなる。ナタリーの脳処理が追い付かなかった。
そのため、強制的に制止をせずに見ていれば。手早くかつ丁寧に、ナタリーの足にハンカチを巻いてくれたのだ。
「俺は、癒しの魔法が使えず…これくらいしかできないが」
「いえ…お、お気遣い、謝しますわ」
なんとも突然な気遣いだったが、確かにこれ以上…足の痛みはひどくならなそうだ。
「では…そろそろ。時間を取らせて…本當にすまない。では失禮する」
「え、ええ」
彼は、ナタリーが來た道を引き返すように歩いて行った。そして魔法をかけたのだろうか…庭園にあった赤がすべて消えていて。また下を見た拍子に、自分の足に巻かれているハンカチが目にり――。
「あっ!」
(返さないといけないものが増えてしまったわ…!)
自分がされるがままのせいで、悩みの返卻が増えたことに――今、気づいたナタリーであった。
お読みくださりありがとうございます!
⭐︎の評価を下さると、勵みになります。
よろしくお願いします!
悪役令嬢の中の人【書籍化・コミカライズ】
乙女ゲームの好きな平凡な少女、小林恵美は目を覚ますと乙女ゲームアプリ「星の乙女と救世の騎士」の悪役令嬢レミリアになっていた。世界の滅亡と自身の破滅を回避するために恵美は奔走する! ……その努力も虛しく、同じく転生者であるヒロインの「星の乙女」に陥れられた恵美は婚約破棄された上で星の乙女の命を狙ったと斷罪された。そのショックで意識を失った恵美の代わりに、中から見守っていた「レミリア」が目を覚まし、可愛い「エミ」を傷付けた星の乙女と元婚約者の王子達に復讐を行う。 主人公は「レミリア」です。 本編は完結してますが番外編だけ時々更新してます。 おかげさまで一迅社から書籍化されました! コミカライズはpixivのcomic poolさんにて11/19から始まります! ※ガールズラブタグは「人によってはガールズラブ要素を感じる」程度の描寫です
8 187【書籍化&コミカライズ】小動物系令嬢は氷の王子に溺愛される
『氷の王子』と呼ばれるザヴァンニ王國第一王子ウィリアム・ザヴァンニ。 自分より弱い者に護られるなど考えられないと、実力で近衛騎士団副団長まで登り詰め、育成を始めた彼には浮いた噂一つなく。それによって心配した國王と王妃によって、ザヴァンニ王國の適齢期である伯爵家以上の令嬢達が集められ……。 視線を合わせることなく『コレでいい』と言われた伯爵令嬢は、いきなり第一王子の婚約者にされてしまいましたとさ。 ……って、そんなの納得出來ません。 何で私なんですか〜(泣) 【書籍化】ビーズログ文庫様にて 2020年5月15日、1巻発売 2020年11月14日、2巻発売 2021年6月15日、3巻発売 2022年1月15日、4巻発売 【コミカライズ】フロースコミック様にて 2022年1月17日、1巻発売 【金曜日更新】 ComicWalker https://comic-walker.com/contents/detail/KDCW_FL00202221010000_68/ 【金曜日更新】 ニコニコ靜畫https://seiga.nicovideo.jp/comic/52924
8 160No title_君なら何とタイトルをつけるか
ポツダム宣言を受諾しなかった日本は各國を敵に回した。その後、日本は攻撃を受けるようになりその対抗として3つの団を作った。 陸上団 海上団 空団。この話は海上団に入団したヴェルザの話… 馴れ合いを好まないヴェルザ。様々な人達に出會って行き少しずつ変わっていく…が戻ったりもするヴェルザの道。 戦爭を止めない狂った日本。その犠牲…
8 92ギャング★スター
まちいちばんの だいあくとう ぎゃんぐ・すたーの たのしいおはなし
8 167男女比が偏った歪な社會で生き抜く 〜僕は女の子に振り回される
就職して戀愛・結婚をし子供が生まれる、これで普通の人生を歩めると思ってた……でも現実は、時間が過ぎるとともに幸せな家庭は崩れ去り、僕を苦しめるだけだった。 戀愛・結婚に臆病になった男が男女比の偏った世界に生まれ変わり、女性に振り回されながらも奮闘する。 ※申し訳ありませんが、感想の返信は停止しております。
8 156目覚めると何故か異世界に!
退屈な毎日に刺激を求めたいた俺達が皆揃って異世界に!? 目覚めて始まる、異世界バトル、剣に魔法! なぜ、彼らはこの世界に來たのか、元の世界に帰ることはできるのか、集たちの運命を懸けた戦いが始まる。 能力不足ですが読んでいただければ嬉しいです! コメントや、お気に入りに入れていただければ嬉しいです、アドバイスやダメ出しもお願いします!!!!
8 91