《【完結】「死んでみろ」と言われたので死にました。【書籍化・コミカライズ】》18

お父様と溫かい時間を過ごしたのち。

父はナタリーに、「早速、明日にでも取り掛かるとするか――必ず、領地の守りを強化すると約束しよう」と言ってくれた。その言葉は、ナタリーを深く安心させた。

◆◇◆

その日から、ナタリーはお父様とお母様の手伝いをしながら暮らした。お父様が、領土の守りの為…外出をするときは――ペティグリュー家の事務仕事を。お母様が調を崩した時は、側で看病をし――フランツから貰った薬を、飲むのを見屆ける。

一歩ずつの歩みながらも、コツコツとできることに手をばした。

そして落ち著いた時には、ミーナから舞踏會での話をせがまれたり。「このハンカチは…」とナタリーに聞きたそうにしていたが。上手く話題を逸らしながら、保管してもらっている。ペティグリュー家に人のが増えた狀況だったが――。返す予定のばかりなので、ひとまずは気にしないことにした。

気づけば、あっという間に半年が過ぎ。フランツがお母様の診察のため來た日のこと。

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「うむうむ…奧様!黒點病はもう、完治したといってもいいでしょう」

「まあ…!」

「ナタリー嬢も…安心してくだされ」

「…フランツ様、本當に本當にありがとうございますわ」

お母様の病気はすっかりなりをひそめ、気味の悪い黒い痣がなくなったのだ。それは、ずっと心待ちにしていた瞬間で。お母様の元気な顔が、ちゃんとそこにあった。

このことは屋敷中に広まり――お父様もとても喜んでいて。快気祝いだといって、ワインを一気飲みしようとしたところを、お母様に取り押さえられていた。そんな明るいやり取りを、ミーナをはじめ使用人たちは微笑ましく見守る。

ナタリーとフランツも同様に。

その日は、フランツも含め豪華なパーティーを催して忘れられない一日となった。

◆◇◆

お母様が回復したこともあり、お父様はナタリーが頼んだことをより一層力をれて取り組んでいる。計畫では、あと半年――つまり戦爭が始まる、ちょうど前あたりに兵力、戦力が揃う見通しになった。

(私が知っている記憶とは違う――だから、これで大丈夫だわ)

手を盡くせることは盡くして。あとは天命を待つくらいまで――順調にことが運んでいたのだ。だからもう、何も心配することはない…そう思っていた。

フランツが噂を教えてくれた…あの日にじた“嫌な予”が當たるだなんて、思ってもみなかったのだ――。

◆◇◆

その知らせは突然だった。ペティグリュー家の領地で兵がきちんと配備されつつある中。ミーナが、青ざめた顔で「おじょおおおさまああ」と部屋を開けてきた。

「どうしたの?ミーナ」

「お、おじょう、さ、ま…その、こちらを」

「新聞ね…そんなに驚くことが――」

ミーナが持ってきてくれた新聞を目にした瞬間、ナタリーは驚く。なぜなら、そこには。「宰相派閥が獄!その後、敵國へ亡命!?」と大きな見出しが書いてあったからだ。

(いったい…どうなって)

記事を読み進めていけば、宰相らは敵國へ亡命後…自國の報を売った可能が高いこと。なにより、そのせいで國同士のが高まって戦爭の可能が示唆されていたのだ。

「だ、大丈夫でしょうか」

ミーナが不安げに、ナタリーを見る。ナタリーの中も不安でいっぱいで。

(まだ半年あるから…大丈夫、大丈夫なはずで…)

――本當にそうだろうか。舞踏會ですら、自分が知らなかったことに遭遇したのに。半年後なんて言いきれるのだろうか。

「…ミーナ、お父様やお母様は――」

「ええ…大変張されておいででした…」

「そう…」

どうかこの予が外れてくれと願った…が、そうしたものほど當たってしまうのはなぜなのか。半年を待たずして、第一王子の訃報と共に――戦爭が幕を開けたのだ。

しかも、ペティグリュー家の領地が標的になっていて。自分が知っている記憶と似てきている。

「家族は必ず、父さんが守るから…屋敷で安全に待っていてくれ」

「あなた…」

お母様の病気は治ったが、お父様を見送る顔はだいぶ悪くて。お父様の言葉は、記憶通りの――同じ言い方だった。

嫌な汗が背中を流れる。この後はいったいどうなっただろうか…と蓋をしていた記憶を思い出す。そうこうしているうちに、お父様は兵たちと一緒に出て行って。

――そう、出て行って…領地で待ち伏せしていた敵兵に鋭い槍で貫かれるのだ。

「ナタリーっ!どこへいくの!」

「ちょっとそこまで行ってきますわ…!お母様、心配しないでくださいっ」

「お、お嬢様…!」

急な戦爭によって、使用人や馬など…すべてがてんてこ舞いで――。頼れるのは…自分だけだ。

お母様やミーナの心配を背に、ナタリーは屋敷から飛び出した。目指すは、まだ出発準備中の父の所へ。

◆◇◆

(急いで、頑張って私の足――)

普段、激しい運をしていない弊害がここで生まれている。ちゃんと鍛えておけばよかったと、をきゅっと引き結ぶ。

火事場の馬鹿力とでもいうような、神力でナタリーは慣れないながらも走った。本當に馬に乗る練習もちゃんとしておけばよかったと思う程で――。

(…いないわっ、お父様どこ――あっ)

出発前の待機場所に父の姿がなく、いよいよ目の前が真っ暗になりそうな瞬間。し離れた所に、お父様の姿を発見する。良かった間に合った――早く聲を。

「お、おとう、さ、ま…」

(走ったせいで、聲が出ない…癒しの魔法だって自分に使えない)

「だ、めっ、お、とうさまっ。止ま、って!」

兵や父が乗っている馬たちには、聞こえているのか――ピクピクと反応している。その反応に、疑いを持ったのか何人かが「馬が――」と止まろうとした。

(これで、大丈夫、もう大丈夫)

ほっと安心するナタリーを裏切るかのように――お父様の近くにある茂みが揺れる。そして、當たってほしくない予想が現実に。

茂みから鋭い槍の先端が見え――お父様をとらえようと素早くく。咄嗟のことで、判斷が遅れる父。

(――どうして、嫌、嫌よ…)

に染まったその時。ナタリーの隣で猛スピードの何かが橫切った。それは、黒い馬で――手綱をしっかりと握り。走ることに専念していて。

「え――」

そのまま、父と槍の間へ割り込むようにそれは進み――。

ザシュっというが裂かれる音と共に。

槍は鋭く――ユリウスのを貫いた。

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