《【完結】「死んでみろ」と言われたので死にました。【書籍化・コミカライズ】》23

慌てていたミーナの伝言を聞いたことにより。ナタリーもお父様も立ち上がって…彼の案にすぐさま従った。そうして――急いで玄関へと向かえば。

「ほっほ…ナタリー嬢、ご無事でなによりじゃ」

「フランツ様…!」

溫かい笑みを浮かべたフランツが、立っていた。どうやら、戦火に巻き込まれなかったようで…フランツに怪我はなさそうだ。

「來てくださり…本當にありがとうございます」

「いいんじゃ、公爵家付きの醫師として當然じゃからな…早速、案を頼んでもいいかのう?」

「ええ、もちろんですわ」

眠り続けているユリウスの部屋へ、フランツと共に向かうことになった。ナタリーの後ろから、ミーナとお父様が付いていく形で…彼がいる部屋に。

◆◇◆

「うーむ…なるほどのう…に異常はなさそうじゃ」

「……はい」

「怪我も見けられんし…それと、魔力詰まりもないからのう…」

フランツは、自前の醫療を使いながら…ユリウスのを診察していた。しかし、わかったのは…“異常がない”ということで。

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「確か…ナタリー嬢の魔法で治療したんじゃよな?」

「ええ、そうです」

「ふぅむ…あくまで推測じゃが…」

何かを考え込むような仕草をしてから、フランツは口を開いた。

「もともと公爵様になかった魔力が――癒しの魔法が注がれたことで、がびっくりしているのかもしれんな」

「……そ、それは」

「ああっ!そんな悲しい顔をしなくても大丈夫じゃ!魔法がになじめば、この癥狀は解消されるはずじゃから!」

彼の説明を聞くと、こうした副反応は良く起きるとのことで。癒しの魔法になれていないばかりに、が休息を求めて…眠ってしまうそうなのだ。ただ大抵は一日程度で起きるらしいのだが…。

「まあ、そうじゃのう…ナタリー嬢の魔法を、強く浴びた影響として…長い眠りが必要なようじゃ」

「つまり、私の…せい」

「いや!そんな悪いものではないぞ!そもそも、魔法をかけにゃいかん狀態なら、誰しもそうするからのう…」

フランツはナタリーを勵ますように、「むしろ公爵様は喜びこそすれ、嫌がることはないじゃろう」と言葉をかけてくれる。暗い表になりつつあったナタリーは、彼の言葉に救われて。

「心臓の怪我となれば、即死もあり得たんじゃ…それを治してくれたナタリー嬢、あとお父上様も…わしから謝を言わせてほしい」

「い、いえ」

「あ、ああ、気にしないでくれ…そもそも彼に命を救われただからな」

「そうか…それでも、命あっての人生じゃ…本當に、ありがとうございます」

お父様とナタリーを見つめて、しっかりとお禮を述べる。そうしたフランツの顔は、家族のような優しいまなざしでユリウスを見ていて。

「わしの見立てじゃが、おそらくあとしで目覚めそうじゃ」

「ほ、ほんとうですか?」

「ああ、魔力の流れを見るに…今は急な流れじゃが、こういったものは休息で治る類じゃからのう」

不安そうにしていたナタリーに、「いつも忙しない公爵様に、ちょうどいい休暇がきたってとこかのう」と語り掛けてくる。

「…そうなのですね」

「ああ、本當に仕事が大好きなやつじゃったからなあ…わしの忠告が目に見えて起きたってことじゃな」

「…へ、へえ」

「何度も休まんとが壊れてしまうぞと言ったからのう…休んでおればこんなに、眠らなくて済んだかもしれんから…ナタリー嬢は、本當に悪くないからのう!」

フランツはユリウスより、ナタリーの味方という風にイタズラな笑みを浮かべている。彼の様子から、きっとユリウスの容態にウソはないのだろう。フランツにつられて、ナタリーも笑みを浮かべた。

「…まあ、ただ、寢たくても…眠れなかったのかも…しれんがな…」

「え?フランツ様…?」

「ああ!いや、公爵様の寢顔はなかなか…拝めんと思っての…ほっほ」

「…?」

フランツがぼそっと何かをつぶやいた気がしたが…。彼は笑うだけで、それ以上言ってくれず。その笑みも…なんだか寂し気に思えて。

「だから、わしから言えることは…心臓の怪我で深刻になる必要はないってことじゃ!」

そう自信をつけるように言われれば、ナタリーは頷きでその言葉に返した。そして、ハッと気が付いたようにフランツが。

「ああ、そうじゃ…寢ているからと言って、栄養がとれんのもよくないからのう…注をして今日は帰ろうかのう」

「まあ、ありがとうございます」

「うむ!あ~それでじゃ、実はその荷をまだ下に置いてあってな…」

「はい!ミーナがとってまいります…!」

フランツの言葉にいち早く反応したミーナが、急いでかつ靜かに部屋から出て行った。ユリウスに気遣ってのことだろう。いつもの彼とは思えない、用な技だ。

「あ~その…フランツ先生…」

「ん?なんじゃ?」

「うちのナタリーも、が無事か見てほしいんだが…」

「お、お父様っ!」

一通りユリウスの診察を終えたのであろうフランツに、お父様がお願いをした。ナタリーとしては、どこもが悪くないのに聞くのは申し訳ない気がして。

「いや、せっかくの機會だから。ナタリーも診てもらった方がいいだろう」

「おや…ナタリー嬢、遠慮はいりませんぞ。病や怪我は早期発見がいいからのう」

フランツとお父様の言葉に押されて…ナタリーも診察をけることになった。そして、フランツが「ふむふむ」とを使い終われば。

「ど、どうだろうか…!」

「そうじゃな…ナタリー嬢は…」

「あ、ああ」

診察結果に張しているお父様が、ハラハラとした様子で…フランツを見つめ。フランツの口から出た言葉は…。

「すごく!健康じゃ!」

「…え?」

「もうそれはすごく、すごく!健康じゃ!生活習慣がいいんじゃろうな…行、魔力の流れ異常なしじゃ!」

フランツの言葉に、ナタリーとお父様は肩の力が抜ける。加えて、お父様は「そうか…!よかった!」と非常に嬉しそうで。きっと、ナタリーから出たのことを気にしてだと思うが…お父様の過保護な様子にし照れてしまう。

ただ、診察結果から“健康”とのことだったので。はナタリーのに、害を及ばしてはいないのだろう。あのについて、気になりはするが…すぐ対応しなければ、いけないものでもなさそうだ。

お父様とナタリーの安心した様子に、フランツは笑みを浮かべた。そんな中、廊下からタッタッと小走りで部屋にくる音が聞こえて。

全員その音が聞こえたのだろう…扉に目を向ければ。

「お、おじょう…さま~」

小聲で、ナタリーを呼ぶミーナは焦っている様子だった。しかも、下にあるフランツの荷を取るのも忘れるくらいに。

「どうしたの?」

「そ、それが…王城から…使者が來ましたっ!」

「え?」

お父様が、小聲で「な、なにー!」と驚いている。ナタリーも、使者が來る理由が分からず…口を開けたままで。

「ほっほ…今日は人がたくさんやってくる日なのかのう」

「あ!フランツ様のお荷…忘れてしまいましたっ!またすぐに取ってきますね…!」

「は、走らなくてもよいからな…安全に頼むのう」

「はいっ!…それでは、旦那様、ナタリー様」

ミーナの聲で、お父様とナタリーは彼の方へ視線を向ける。ミーナは「使者様から、お二人を呼んでほしいと言われましたので…!荷を取るのと…加えて案しますね!」と話した。

「ナ、ナタリーにも用事がある…だ、と」

「…お父様、下へ向かいましょうか」

「ほっほっほ…いい知らせだといいのう」

フランツは笑いながら、呼ばれた二人を見送る。お父様とナタリーは、席を外すことと診察のお禮を言って――玄関へと向かっていった。ミーナをはじめとして、二人とも使者のことで頭がいっぱいになり。

だから、部屋に殘るフランツの顔がユリウスに向いていることにも気が付かず――。

「…公爵様の魔力暴走は――治らないまま…なんじゃな…」

悲し気な彼の言葉が、ぽつりと部屋に殘されるだけだった。

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