《【完結】「死んでみろ」と言われたので死にました。【書籍化・コミカライズ】》29
(エドワード様が…泣いていらっしゃる…?)
ナタリーは自分が見ているものが、信じられなくて――まぶたをしきりに何度もパチパチとかすが。やはり何度見ても、エドワードの目から滴が流れている。
「…エドワード様」
「……っ」
呼びかければ、まるで小の様にビクッとを揺らす。そうしたナタリーの聲によって、我に返ったのか…服の袖口で涙をぬぐおうとしていて。ゴシゴシと顔を拭いたら、痕になってしまうと思い…ナタリーはとっさに歩いて近づき。
「ハンカチを…よければ…」
「…あ、ありがとう」
何か必要になるかも…と腕に掛けて持ってきていたポーチを開いて。その中にあったハンカチをエドワードに手渡す。おずおずとしながらも、エドワードは素直にハンカチをけ取った。
「今日は星が…綺麗ですわね」
「…え?」
「お隣に、座ってもよろしいでしょうか」
第三王子に連れてこられたここが、どこかはわからないが。天井に大きなが開いていて…夜空が見えるようになっていた。満點の星々は、煌々とっていてしくて。
Advertisement
泣いているわけを、突然聞くのもはばかれるし…。訳を聞かずとも、星を見たりすることでリフレッシュにでもなればな…と思い。特に、エドワードから拒否もなかったので。無言は肯定と捉えて…ナタリーは、芝生に座るエドワードの隣に――しだけ間を空けて座った。
「……ふ」
「…え?ど、どうしましたの…?」
「いや…本當は、僕がどうして泣いているのか、聞きたそうなのに」
「エッ」
ナタリーは、ギクッとした表になってしまう。そんなナタリーの顔を見て、エドワードは小さく笑いながら。「弟が…連れてきたみたいだね」と視線を、ナタリーの背後へ向けている。
ナタリーもつられて、同じ方向を見れば。たくさんの獅子様の子どもと、はしゃぐ第三王子の姿が。本當に、エドワードのことはナタリーに任せたようだ。
「えっと…そ、その」
「ここは、城の中で王族が利用する庭園なんだ」
「……っ!」
(な、なんですって…!)
流されるまま連れてこられて、今は堂々と座ってしまっている。もしや不敬罪よりも重い罪になるのでは…と、急いで立ち上がろうとしたナタリーに。「大丈夫だよ…僕や弟の許可があれば…。王族の許可があれば特に問題はないんだ」と言われ。
「あ、そ、そうなのですね…ホホホ」
「ナタリーは、わかりやすいね」
だいぶ表が顔に出ていたのだろう。焦った顔から、気を取り直して…空を見上げながら芝生に座る。何度か話しているうちに、エドワードも落ち著いたのか涙がしずつ…おさまっていて。「このハンカチ…」と、手に持っているハンカチを気にしている。
「そのハンカチ…気にしないでくださいませ」
「…え?」
「エドワード様にとっては不要かもしれませんが…差し上げますので」
「……」
「あ、もちろんお禮は不要ですわ!むしろ今日のパンのこともありますし…」
ナタリーとしては、本當にエドワードが使うために出したものなので。そのまま、自由に使ってほしいと思ったのだ。
「その…」
城下町で出かけた時と打って変わって…今のエドワードはだいぶ、よそよそしい。城に帰還する時もそうだったが…。言いにくそうな彼が見えて。なんとなく、思い當たるのは…自分の言のせいではとじ。
「エドワード様っ!」
「ん!?」
「私…今日は、自分の考えを申し上げましたが…。それで、エドワード様の考えを否定しようとは、思っていませんの…!」
自分の意見を全部曲げて…エドワードに謝ろうとも思ったが。それは、さすがに自分を裏切っている気がして。加えて、父親譲りの駄々をこねるほどの頑固な一面が…け継がれているゆえなのかもしれない。
だからといって、エドワードに自分の意見を押し付けたいわけでもないので…。どうにかして、そうした思いを伝えようとナタリーはエドワードに語り掛ける。もしかしたら、ナタリーが強く言いすぎたせいで、彼を悩ませてしまったかもしれないし。
「その…だから、私の言い方が…気分を悪くさせてしまったのなら…」
「ああ…」
「っ!!本當に、本當に…」
「いや、ごめんね。肯定の意味ではなくて…ナタリーの意見で気分は、悪くなってないよ」
何か納得するそぶりがあったものだから、急いで謝ろうとしたら。エドワードから、誤解だと言われ。でもそうしたら…と。頭をひねって、彼を見つめていると。
エドワード自も、何かをためらっているのか。うーんと悩ませていて…そんな彼を見ている間、獅子様の子どもがナタリーの膝の上に乗ってきて…丸くなる。芝生が冷たくて、避難してきたのかもしれない。
そんな獅子様をあやすように、でれば…満足しているのか、ゴロゴロと鳴きながら寛いでいるようだ。エドワードは、ナタリーが獅子様に構っている間に決心がついたのか…口を開いた。
「その、ナタリーの言葉を聞いて。僕は…」
「……?」
「僕は、非な人間じゃないのかって…思って、ね」
「…え?」
エドワードから言われた言葉にぽかんとする。そんなナタリーの顔を気にせず…エドワードは、眉を下げながら。
「だから、ナタリーの発言のせいってわけではなくて…その僕が…」
隣にいる彼は、泣いたことも言った言葉も…すべての責任は自分だというように振る舞う。そんなエドワードを見て、ナタリーは思わず。
「…そんなことありませんわ!」
「……え…?」
「エドワード様は、優しい心を持っていますわ!」
ナタリーはエドワードがいかに優しいかを知っている。確かに腹の奧底が読めない…難しい王子だなと最初は思っていた。しかし、実際に話したり、出歩いたりしてみて。
「街で見た“エディ様”は、民たちが楽しく暮らしているのを見て、本當に嬉しそうな表をしていましたわ」
「……」
「なにより、何度もお店に通う程…街を視察して、國民のことを思いやっていて」
ナタリーの顔を見るエドワードは、呆気に取られていて。そんなエドワードに、言葉が屆くように心を込めて。
「もし、エドワード様が本當に非なら…私やあの店主は笑顔になったりしません」
「それは…」
「…確かに、私たちの意見は違いましたが…ひとつだけの考えが全てではありませんもの」
そうした言葉を聞いたエドワードは、考え込むように下を向いて。そして、ゆっくりと顔を上げ。
「…でも、僕は…救えそうな人を見殺しに…そんな汚れた人間で…」
「……」
エドワードの悩みはだいぶ深いようだ。ふう、と息を吐きだして、ナタリーは目を向ける。
「もしかして、エドワード様は無暗(むやみ)に人を殺めたり…人を殺すのがお好きとかなのですか…?」
「いや!それは違うっ」
その答えを聞いて、ナタリーは分かっていたが…ホッとする。そして、こちらを見るエドワードの視線をしっかりと見つめ返して。
「それなら、エドワード様を汚れているだなんて…私は思いませんわ」
「え…」
「誰しも、取り返しのつかないことや仕方のないことはありますもの。完璧な人間なんて…いません」
ナタリーの頭の中には、公爵家で暮らしていた様々な思い出が浮かんでくる。エドワードがいったい何をもって見殺しと言っているのかは、あくまで想像になってしまうが。それでも、あの母子の件だって――彼なりに最善を考えたまでで。
「もし何かやり直したいのなら、今からでも遅くありませんし…何より、私から見て…エドワード様は輝いておりますわ」
「……本當かい?」
「ええ!私、これでも視力には自信がありまして…!ほら、あそこにる星も見えますのよ!」
夜空に浮かぶ星をナタリーは指さす。そこには、様々なを放つ星があって。エドワードもその星に目を向けたのか…「ふふっ」と笑う。
「ナタリー、ありがとう…」
「…大したことはしておりませんわ」
エドワードの謝に言葉を返すため、彼の方を見れば。彼もまた、星を見終わったのか――ナタリーの方を見ていて。お互いの瞳がお互いを映していた。またエドワードの瞳が、今までじたことのない熱を帯びているような気がする。
それは決して、泣いたから熱をもったという訳ではなく――。
「…ねえ、ナタリー」
「は、はい…」
し空いていた隙間を埋めるように、エドワードがこちらに詰めてくる。気づけば彼と至近距離に。端正な顔立ちと、綺麗な…エメラルドのような瞳がこちらに近づいて――。
「…僕は君が…好きだ…もし嫌なら――」
ふわっとしたがナタリーの顔に當たり――ああ、どうしよう、どうしようと思っているうちに。彼のがナタリーの口へ向かって落とされ――。
「にゃっ」
「……っ!」
彼のが落とされることはなかった。なぜなら――。
ナタリーの膝で寛いでいた獅子様が、気まぐれに…立ち上がって。エドワードの顔に、二本の前足にある球を――押し當てていたからだった。
お読みくださりありがとうございます!
⭐︎の評価を下さると、勵みになります。
よろしくお願いします!
【書籍版8/2発売】S級學園の自稱「普通」、可愛すぎる彼女たちにグイグイ來られてバレバレです。
【講談社ラノベ文庫より8/2刊行予定】 権力者の孫娘にして超人気聲優アイドル・瑠亜の下僕みたいな立場に甘んじていた俺。 「アタシと幼なじみなこと、光栄に思いなさい! ッシャッシャ!」 しかし、しかし……。 彼女がやった「あること」がきっかけで、俺はぶち切れた。 お前とはこれまでだ、さらばブタ女。 これまでずっと陰に徹して、ブタの引き立て役だった俺。 ようやく普通に生きられると思っていたが、「普通」はなかなか難しい。 天才が集うS級學園の特待生美少女たちに、何故か次々とモテてしまって――。 これは、隠れハイスペックの主人公がヒロインとの「絶縁」をきっかけにモテまくり、本人の意志と関係なく「さすがお前だ」「さすおま」されてしまう物語。 ※ジャンル別日間・週間・月間・四半期1位獲得 ※カクヨムにも投稿
8 60死神と呼ばれた殺し屋は異世界に
「暴力団」、「犯罪組織」、「反政府テロ組織」、 それらを中心に殺す政府公認の殺し屋、通稱「死神」 その正體は高校生の夜神 佑。 そんな死神が異世界にクラスで転移される。 元の世界で培った殺し屋としてのスキルと転移したことで手に入れたスキルで彼は生きていく。
8 68異世界転移した俺がやることは?
突如教室に現れた魔法陣に慌てるクラスメイト達。そんな中1人、落ち著いている奴がいたそいつは、「あ、これもしかして異世界転移じゃね?」とのんき にそんなこと考えていた。強い光があたりを照らし、その光が収まって周りを見渡すとそこは、學校の教室ではなく全く知らない場所だった... ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ この作品は自分がなんとなく書きたいなぁと思って始めたものです。拙い文章で読みにくいかも知れませんが見てくださるととても嬉しいです。 6月21日 タイトルを変更しました。 6月23日 サブタイトルを若干変更しました。
8 67感傷
悲しみ、怒り、喜びなどの 人間の感情を話の軸にした短編小説集。 「犠牲」 とあるきっかけで殺人を犯してしまった遠藤翔 (えんどうしょう) その殺人の真相を伝えるための逃走劇 そして事件の真相を追う1人の若き記者、水無月憐奈の物語 「メッセージ」 20歳の誕生日の日、家に帰ると郵便受けに手紙が入っていた。 その內容は驚くべきものだった。 「犠牲」のその後を描いたAnother Story 「ニセモノカゾク」 當たり前が當たり前じゃない。 僕は親の顔を覚えていない。 ここに居るのは知らない親です。 家族の形が崩壊していく様を描いた物語
8 168蛆神様
《蛆神様》はどんなお願いごとも葉えてくれる...........???--- 隣町には【蛆神様】が棲んでいる。 【蛆神様】はどんな願いごとも葉えてくれる神様で、町の人々は困った時に蛆神様にお願いごとをするそうだが……。
8 51內気なメイドさんはヒミツだらけ
平凡な男子高校生がメイドと二人暮らしを始めることに!? 家事は問題ないが、コミュニケーションが取りづらいし、無駄に腕相撲強いし、勝手に押し入れに住んでるし、何だこのメイド! と、とにかく、平凡な男子高校生と謎メイドの青春ラブコメ(?)、今、開幕!
8 66