《【完結】「死んでみろ」と言われたので死にました。【書籍化・コミカライズ】》31

「――っ、おは――」

ユリウスと目が合った瞬間。聞きたいこと、信じられないという…様々なことが頭を駆け巡った。しかし、そうした思いを一旦抑えて――患者であるユリウスに言葉をかけようと近づけば。

「……ぁ」

「…え?」

完全に回復したわけではなかったのか。そのまま、力盡きるように彼はまぶたを再び閉じ――眠ってしまった。聞こえるのは穏やかな…呼吸音のみで。

「お、お嬢様っ!ど、どうしたんですか…?」

「…閣下が、目を覚まして……」

「えっ!」

彼が起きて、どこか構えていたの力がゆるゆるとなくなって。一方、そうしたナタリーの思いは知らず、ユリウスを凝視するミーナは「…うーん、でも今はまた眠ってしまったんですね」と。ユリウスが起きてないことを、もう一度確認していた。

「重傷を負ったとのことでしたから…また明日、お部屋に行きましょうか。お嬢様」

「え、ええ…」

「お嬢様もお休みになって、を大事になさらないと…!」

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結局、ユリウスが再び眠ってしまったことによって…話すのはまたの機會にということになった。ミーナからも、「夜更かしは、によくありませんからっ!」と口酸っぱく言われ。背中を押されるように、自室へ戻って――ナタリーも就寢することになった。

どこか寢つきにくい――そんな思いを抱えながらも、まぶたを閉じて…ナタリーは眠るのに集中した――。

◆◇◆

それから、幾度かユリウスは…どこかぼんやりとしながら目を開けては――すぐに眠ってしまう狀況を繰り返した。おそらく、フランツが言っていた魔力の副作用が出ているためなのか…。お父様やお母様をはじめとしたペティグリュー家の面々は、確かなユリウスの回復に喜んでいた。

ただ、なかなか話すことができないことに――じれったさをじながら。ナタリーは、ユリウスの萬全な回復を切に願った。

そんな祈りが神に通じたのか、それともユリウスの屈強なのなせる業だったのか――。三日ほどの時をかけて、ユリウスはしっかりと意識を取り戻していった。そして、ナタリーもまた彼にお見舞いという形で、部屋を訪れに向かったのだ――。

「あ、その…迷をかけたよう…だ、な、すまない」

彼が休む部屋に行けば――ってきたナタリーを見た瞬間。ユリウスは、視線を落として申し訳なさそうにしていた。そんな彼の近くにある椅子に、腰かけながら。

「い、いえ…むしろ、こちらこそお父様の命を助けてくださり…」

「……騎士として、すべきことをしたまでだ……。重く考えなくとも…」

なぜだろう…彼が寢ながらつぶやいた言葉を聞いた日から。ユリウスの側に行くと、手が震えてしまう。抑えようにも難しくて、そんな震えを隠すように両手をきゅっと握り合わせる。ユリウスから、騎士として當たり前だと言われたが…そんなことはないと思うのだ。

だって騎士だからといって、君主でもないナタリーの父を率先してくるのは――あまり考えられない。そもそもナタリーの父も武裝していたのだから、自分のは自分で守らないといけない――それが戦爭で。

「いいえ…、閣下の行は簡単なことではありませんわ…改めて、本當に…お父様を助けてくださりありがとうございます」

「……お父上様には、怪我はなかったか…?」

「…え、ええ」

「そうか…良かった」

ナタリーの言葉に返事をするユリウスは、どこからかい表になっていて。ナタリーは自分の目を疑ってしまう。寢言の一件もあって、彼に対しては混することばかりで。もし以前の彼なら、ナタリーのこと…ひいてはナタリーの家族のことなんて気に掛けるはずがないのに。

現在、部屋にはユリウスと二人きりだ。ミーナは気を利かせてなのか…「お茶を…!お持ちしますね…!」と言ったきり、未だに戻らない。なので、二人の會話が途切れると――無音の空間ができあがるのだ。

彼に聞きたいことはある。それなのに、知りたくない自分もいて。口を開けては、閉じるのを繰り返してしまっている。ユリウスも、話が得意といった雰囲気はなくて――余計、重い雰囲気に。

(…聞かないと分からないままよ…そんなのでいいの?)

自分を鼓舞するように、気合をれてナタリーは口を開き――。

「……閣下、お尋ねしてもよろしい、でしょうか」

「…あ、ああ」

「………」

先ほどよりも、強く両手を握り合わせて、ユリウスの顔を見る。そして。

「…リアムという名前をご存じでしょうか?」

「………っ!」

「閣下が、眠っておられるときに呟いていた名前で…私は…私は…」

ベッドに座るユリウスが、息を呑んだのがわかる。ナタリーの回答を目を離さないように、待っていて。

「変かもしれませんが…私は、その名前の子どもを――産んだ記憶がございます」

「そっ…」

「突拍子もありませんが、閣下は――今とは別の記憶をお持ちなのでしょうか」

「……っ」

力を振り絞るように…ナタリーはユリウスに言い募った。そのナタリーの言葉に、ユリウスは答えを言わない。無言で、ナタリーを何度も確認するようにパチパチとまぶたを閉じたり開いたり。とても言いにくそうにしていて。

それが――何よりの答えな気がして。

「…ウソはつかないでください」

「……」

「どうか、教えてくださいませんか」

たとえ、雰囲気で察しても――ユリウスの言葉を待つ。判決を待つ囚人のように…一時も緩まる時がなくて、息苦しいそんな時間。そんない表のナタリーを気遣ってか、ユリウスは何かを決めたように…「ふう」と一息吐いたのち。

「ああ、俺は――リアムという息子の名前を覚えている。そして…君と結婚した記憶ももちろん…だ」

「………っ!」

その言葉を聞いた瞬間、背筋が凍る。どうして、なんで…そんなことがあるのか…と。あり得ない、信じられないものが目の前にいる気がして。ナタリーの口から出る言葉は、震えてしまう。

「…す、すべて、ですか?」

「……ああ、記憶にいる奴と…同じ人間だ」

「そ、そん、なっ…」

神様の悪戯なのだろうか。ナタリーだけでなくユリウスも記憶を持ったまま、ナタリーが死ぬ前に…過去に戻らせたなんて――。

震えているせいなのか、開いた口がふさがらない。ユリウスもまた、何かに耐えるように。眉間に力をれて、難しい顔をして――暗い聲を出した。

「俺は、君を苦しめた――人間だ」

ユリウスの話した容は――ナタリーの頭から溫度をサーっと奪うようで。自分の意識をはっきりさせるために、歯をきゅっと食いしばり――目の前の彼に相対する。

「……楽しかったです、か?」

「…え?」

「何も分からない私を…っ、掌の上で転がしていたの…ですか?」

「いや、それはっ」

恐怖、疑問、悲しさ、怒り…やるせない気持ちがどんどん溢れてきて。彼は、どうして自分をわざわざ助けたのだろうか。意味がわからなくて、混で――そんなから目に熱が集まっているような気もする。

「それとも…今更、哀れに思ったのですか…?」

「………」

「何もかもを失ったに、施しを與えて…いい気分になりたかったのですか?」

「……っ」

ユリウスは、何かをこらえるように。黙るのみで。

「…ああ、もしかして…最後に、意思を鑑みないっておっしゃってましたものね。こうやって、助ける素振りを見せて…今度こそ、意のままにしたかったのですか?」

「そんなことは…っ」

「ではっ、どうして、助けたのですかっ!どうしてっ!」

何か言い返してくればいいのに…ユリウスは全くそんなことをせず。むしろ、ナタリーの言葉をれていて。言葉を出しても、すぐに途切れているのだ。そんな彼の態度が、余計にナタリーを刺激した。

「私、言いましたよね。あなたのことが、大嫌いと、憎むと」

「…ああ」

「…っ!ゆるしません…あの日々のことを、私はっ…私はっ」

ナタリーはユリウスが座るベッドのシーツを摑む。彼のことで泣くものか、と涙をこらえ…キッと睨みつければ。ユリウスは、今までナタリーが見たことのない顔になっていて。

「…ああ、俺は…赦(ゆる)されない」

彼はどこまでも暗く、威勢もなく…そう言葉を紡いだ。

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