《【完結】「死んでみろ」と言われたので死にました。【書籍化・コミカライズ】》33
「…えっと、ご案いたします…ね…?」
「……あ、ああ。ありがとう…お願いする」
場の空気がヘンテコになりながらも。ナタリーは、ユリウスをペティグリュー領にある…牧歌的な街へ連れて行くべく、一緒に歩きだす。
ナタリーとし距離を取って歩くユリウスは…おそらく、いまいち狀況を理解しきっていないのかもしれない。もちろん、ナタリーも流されるままに街へ向かっているわけだが…。
(お母様に言われた通り…気分転換も大事よね…?)
ユリウスとこうして歩くなんて、夢にも思ってなかったためか。どこか現実味が薄くじる。思考も曖昧な中、ユリウスを案するのが無難なことだと自分に言い聞かせて。
どこかぎこちない空気があるが――深く考えすぎないように、歩き続けるのだった。
◆◇◆
「…ペティグリュー領は、街…というよりも村な側面が強いかもしれませんが…ここが街へのり口です」
「そうか…俺の領地とは雰囲気が違うから、どこも目新しくじるな」
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「それは、よかったです…?」
「あ、ああ…」
ユリウスが統治する領地は、王都と遜がないくらいに――整備された街だったように思う。あくまで、ナタリーが輿れの際に…窓からし見ただけの記憶なのだが。
一度見ても覚えているくらい――それほどまでに、公爵領は発展していて…かな印象を持ったのだ。だから、ペティグリュー領の街を見て…ユリウスが満足するのかは不明で。
窺うように彼の方へ顔を向ければ、言葉通り「目新しく」じているのか…辺りをキョロキョロと見回していた。何か気になるものでもあるのだろうか――とナタリーが見るより早く、元気な聲がかけられた。
「まあ!お嬢様、お久しぶりです」
「…あ、久しぶりね。將さんもお元気そうで」
振り向けば、そこにはエプロンを腰に巻いた活発そうながいて。彼は、ナタリーがい頃から…家族でよく利用していた食事処の將だ。噂では、子寶に恵まれて…毎日にぎやかなのだとか。
「ちょっと…!しかも、かなりの男を連れてるじゃない…!」
「…へ?」
「目の保養の為にも、うちの店にいらっしゃい!最近、カフェっていうスタイルも取りれ始めたから…!」
「そうなのですね…?」
かなりの食い気味で、ってくる將さんにナタリーはたじろいでしまう。しかし、散歩と言いながら…まだ案しきってないし。それでも、店に行ってもいいのだろうかと。ユリウスの方へ、目を向ければ。
どうやら、將さんのオーラに圧倒されたのか。「俺は、構わない…むしろ日差しが強いから、歩くのは疲れるかもしれない…先に休憩しようか」と言ってくれて。そうした彼の意見もあって、嬉しそうな將さんを先頭に店へと足を向ける。
確かに今日は日差しが強かったので…ナタリーの首元や額には、じんわりと汗が出ていた。し涼めるのは、ありがたいかもしれない…それに。ユリウスと街に來てから…多くのたちの視線をじる。
(今日は騎士というよりも…お忍びで旅をする青年のようだわ…)
いつもは、上げている前髪を…下ろしてる部分も大きいのだろう。しく、加えて憂えているじが気を出していて――。
「…どうかしたのか?」
「えっ」
「こっちを見ていたような…気がして」
「そ、そんなことは…」
言葉を濁して答えたところ、ユリウスは「そうか」と納得したようだ。しかし、しっかりとナタリーは彼の姿を見ていたので…どこか心にやましさをじながらも。他のたちの視線を追ったゆえだからなのだと、自分に言い訳を心の中でしておく。
そうしたユリウスを見つめる熱い視線から離れるように…レンガ造りの店へ到著したのであった。
◆◇◆
「お客様よ~!しかも、お嬢様も來てくださったわ~!」
「お!本當かい…!って、君好みの男が…!」
「ふふっ、腕によりをかけてね!あなた」
「お嬢様はいいが…いや…待てよ、お嬢様のツレということは…」
お店に著くや否や、広い席に案され。ユリウスと向かい合う形で座る。窓からは、綺麗に手れされた庭が見え――また店の夫婦のやり取りも聞こえてきて、明るく楽しい雰囲気をじた。
「牧場のミルクを紅茶と混ぜたミルクティーがお勧めだけど、いかがでしょうか?」
「では私はそれで…えっと…」
「俺もそれを頼む」
「は~い!わかりましたわ…!しお待ちを~!」
ユリウスに伺うまでもなく、彼が先に注文を言ってくれて。元気な將が、旦那さんに注文を伝えれば。廚房からは、作業音が響く――それが落ち著いた効果音として、ユリウスとナタリーの耳に屆いた。
(どうしましょう…話題がないわ…)
二人は注文を終えると沈黙になっていて。ユリウスが目覚めた以降…記憶の一件を抜いて――會話という會話をしていない。今日はたまたま、お母様の提案に巻き込まれる形になったが。
二人きりになると…和気あいあいとした雰囲気から離れているので――ミルクティーが來るまで黙って待とうかと考えていれば。
「お嬢様~!この男は、領主様公認の…人なのかしら?」
「えっ、ちが…」
「あのお嬢様にべったりな領主様を…なんとかするなんて、男さんやるわね~」
「いや、俺は…」
「でも、領みんなの天使…お嬢様を悲しませたら、ただじゃおかないからね?」
にぎやかな將さんが、ユリウスとナタリーに近づいてきた。本日は、他のお客さんがまだ來ていなかったようで。手が空いていたのか、聲をかけてきたのだった。
ペティグリュー領は、お父様の影響もあってか。領民とペティグリュー家の流が活発だ。ただ、最近は戦爭があったので、通う頻度がなくなっていたが。
それでも、いつ訪れてもナタリーや両親を見つけると…こうして親しく話してくれるのだ。將さんもその一人で、彼の言葉を聞いたユリウスは何かを考え込むように黙ってしまい…。
「あら~~!もう!ちゃんと真剣なのね?」
「へ?」
「……」
「心まで、いい男だなんて…はあ、あたしがあと十くらい若ければ…」
將さんは何かを想像しているのか、をくねくねとかして。「まだ旦那と出會っていない頃なら、アタックして…」とつぶやいた時。
「そうだとしても、僕は君をあきらめないからねっ!」
「あら、あなた…早かったわね」
「お待ちどおさま…妻のお喋りに、付き合ってくれてありがとうございます」
旦那さんは、ティーカップを持ってくると――慣れた手つきで、茶菓子と一緒にテーブルへ置く。そこには、優しい香りがするクリーミーな紅茶。そして、砂糖がまぶしてあるクッキーがあった。
「わあ…味しそうですね。ありがとう」
「ええ、腕によりをかけましたからね…ゆっくりしていってください」
「…ありがとう」
味しそうな香りに、ユリウスもホッとしたのか。彼の眉にっていた力が抜けたようにじた。そして旦那さんは、將さんに「ほら、まだ…今日の仕込みが終わってないだろう?」と言い。
「あら!すっかり、いい男に目がいってたわ~」
「はあ…まったく」
「では、お二人とも…失禮しますわね~」
旦那さんに急かされるように、將さんは廚房へと戻っていった。その時、旦那さんはしきりに後ろを見ないようにガードしていた気もするが。それよりも。
(どんな味かしら…?)
このお店で出される紅茶は初めて飲む。いつもは食事処として、軽食を食べてばかりだったから…ゆっくりとカップの取っ手を摑み。飲んでみれば…口の中全に控えめな甘さが広がって…。
「……!味しい…!」
「味いな…」
ユリウスと口を開いたタイミングが一緒で。二人して、顔を上げ…目が合ってしまう。そうすると、言葉をらしたのが恥ずかしかったのか…ユリウスは目元が赤くなりながら、視線を逸らす。
「閣下は、この味がお好きなんですね」
「…あ、ああ。ミルクティーは飲んだことがなかったが…うちの領でも提供してほしいな…」
「まあ…!そこまで気にってくれたのなら、將さんも喜びますわ」
今まで、會話する時にあった張の糸が…しほぐれた気がする。それくらいに、自然と言葉が出てきていて。味しい食べのおかげなのだろう…と、ナタリーはお店に來てよかったと思った。
そうしてお茶を楽しんでいると、ふとユリウスの手元に目が行く。
「あら、閣下…どうかされたのですか?」
ユリウスは、クッキーが置かれたお皿に手をばしては…ひっこめていたのだ。ナタリーに言われて、ビクッとしたのち。言いにくそうに、言葉を出して。
「その…」
「…なんですか?」
もしかして、何か重大なことを言い淀んでいたのか…と息を吞んで、彼の顔を見れば。
「…俺は、甘いものが…苦手なんだ」
「…え?」
とんでもないことを話されると思ったのに。別に大したことではないと、彼の顔を見れば。
「…甘いものが…苦手なんだ…すまない」
「いえ、聞こえましたが…」
だいぶバツの悪そうな顔をしていて。重大機を話したくらいには、恥じらっていたのだ。
「その…誰しも、苦手なものはありますし…」
「…すまない」
確かにユリウスは、紅茶に砂糖をれてなかった。クリーミーな味わいは大丈夫だが、クッキーにまぶしてあるような…砂糖の甘さがダメなのかもしれない。そんなに、恥じらなくてもナタリーは気にしないのに。
「君の…行きつけの店みたいだから…」
「え、ええ。そうですね…」
「紅茶も味しかったし、クッキーも…」
おそらく、ナタリーの顔を立てて…苦手なクッキーを食べるべきか悩んでいるようだ。それか、ナタリーの味覚を信じて甘いものを克服したいのか…。
変な方向の気遣いをしているみたいで。いずれにせよ、無理はしなくていいと伝えようと…口を開きかけたその時。
「おにーちゃん、おっきいね!しかも剣…!かっけー!」
「…ん?」
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