《【完結】「死んでみろ」と言われたので死にました。【書籍化・コミカライズ】》34

ユリウスの疑問の聲と共に…。

ナタリーは、「あら…?」と聲を出し視線を向ければ。ユリウスの席の方へ…近づいてくる子どもが現れたのだ。

そこには、將さんと旦那さんに似た男の子がいた。まだ長しきっていないのか聲も高く――目を輝かせながらユリウスへ話しかけている。

「なあなあ!その剣、使っているところ…おれ、みたい~!」

無邪気な彼の言葉に思わず、ナタリーは「ふふっ」と笑みがこぼれる。きっとユリウスの近くに置いてある剣が目にったのだろう。お願いしている彼に気を取られて、ついユリウスのことを忘れてしまっていて…ハッとなる。

(…あ、閣下は…気分を害されてないかしら)

貴族の禮儀は、領民に強制されていない。だから、將さんや旦那さんは気兼ねなく接してくれていたのだが…あくまでそれは大人の対応で。

しかし、今は…夫妻二人とも廚房で仕込みに集中しているのか…こちらに気づいていない。線引きを知らない子どもに対して、機嫌が悪くなる貴族も多いので…大丈夫かなと恐る恐るユリウスを見ると。

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(え…?)

「っふ。剣が好きなのか」

「うんっ!かっこいい騎士になりたいんだっ!」

「そうか…」

ユリウスは不機嫌になることもなく…らかく笑ったのだ。彼が笑うところなんて、珍しくて凝視してしまう。そんなナタリーの視線には気が付いていないのか、ユリウスは続けて。

「しかし、ただで見せてやるわけにはいかないな…」

「え~~っ!そんなあ!」

男の子は、駄々をこねるように不満をいって。彼の側で、ふくれっ面だ。そんな彼にユリウスは、悩むそぶりを見せて…皿を指さし。

「そうだな…では…このクッキーを食べられたら、いいぞ」

「…えっ!そんなのでいいの?」

「ああ」

男の子は、「やりぃ~!しかもクッキーが食べられる~!」と。とても嬉しそうに、はしゃいでいて。そんな中…ふとユリウスを確認するように、男の子は見つめて。

「でもさ…本當にいいの?おにーちゃん、クッキーなくなっちゃうぞ」

「ああ……俺はまだ修行不足でな…甘いものが難しくて、な。実は條件というより…俺を助けてくれないか?」

「…え!そうなのか…!」

男の子はびっくりしたように、目を開いたのち。「騎士って人を助けるよな…!うん。おれ、クッキー食べるね!」と…どこか納得した様子でユリウスに聲をかけた。

そしてユリウスの隣に、喜々として座り。男の子はお皿にあるクッキーを、手で摑んで味しそうに食べている。それを見たユリウスは、どこか安心したように…で下ろす。

そしてナタリーの視線に気が付いたようで。顔を上げ、口を開くと。

「その…このことは騎士団でも、バレていないんだ」

「え?」

「だから…どうかに」

真面目な顔をしながら、彼はそんなお願いをナタリーにする。表と言葉のギャップに、ナタリーは笑いを堪えきれず。

「……っふ、ふふ」

「ど、どうしたのだ?」

「いえ、閣下の…ちゃんと守りますね」

ユリウスが甘いものを苦手としているよりも…そこまで隠したいという気持ちにお手上げだった。そして念を押すように、「特に副団長…マルクには、どうかにしてくれ…」と縋る顔つきで。

「ええ、わかりましたわ」

(…きっと、マルク様に話したら一日で…広がりそうだものね)

そんな愉快な想像をしながら、ユリウスと男の子を見て…ナタリーは溫かい気持ちになった。そうして男の子がクッキーを完食すれば、將さんが慌てた様子で駆け寄ってくる。

「まあ!この子ったら、目を離したすきに…!」

「へへっ!食べたから。おにーちゃん、約束のやつ…!」

「もうっ、何を言ってるの!」

將さんは、息子を咎めるように聲を出そうとしていたところ。ユリウスが待ったをかける。

「いや、この子とは約束をしているんだ」

「え…?」

「その庭を借りても良いだろうか…」

「え、ええ。構いませんが…」

どうやら事が分かっていないらしく、目がぱちくりとしている。そんな將さんの背中を押すように、男の子が「お母さんも一緒に見ようよ~!」と聲をかけていて。

いったいどうなっているのか――気になっている將さんの視線をけて。ナタリーは、ユリウスが男の子に剣技を見せる約束をしたのを説明する。

「まあ!本當に?」

「ええ、私の方からも…腕前は保証しますから、庭に出てもいいかしら」

「あら~いいですわよ!むしろ…この子のお願いを頼みますわね。…はあ、私も見たいけれど…夫を手伝わないと、彼すぐ拗ねちゃうから…」

將さんは、やれやれといった雰囲気を出しながら。それでも旦那さんのことが好きなのか、庭に出ることを許可した後は…廚房に戻るようだ。

將さん、庭の…あの木は薪のためか?」

「え、ええ。でもなかなか丈夫で…ずっと放置しててねぇ」

「そうか…なら、俺の剣で切ってもいいだろうか」

「え…そ、それはいいですが…」

ユリウスの腰にある剣を見て…斧じゃなくて本當にできるのか?と疑っているようだ。しかし、できなくとも構わないと思ったようで。「できるようでしたら、切ってくださいね」と言って、笑顔を見せた。

「では、庭へ行こうか」

「うん!楽しみだっ!」

「君も…」

ユリウスは、ナタリーの方に視線を向けて伺ってきた。彼の元保証人…案役として見たほうがいいだろうとナタリーは判斷し。「ええ、いきますわ」と返す。そして男の子と一緒に外へ…庭へ向かったのだった。

◆◇◆

「おにーちゃん!あの木…すごく大きいけど…大丈夫か?」

「ああ、まかせろ」

ナタリーは、彼らの後方で見守る。ユリウスと男の子の前にある木は、男の子が言うように…だいぶ大きい。大人が三人でやっと…周りを取り囲めるほどの太さで。

(大丈夫かしら…)

ユリウスの腕を信じてないわけではないが…彼は、まだ回復したばかりということもある。無理をしていないだろうか、そもそも剣で木を切ることに慣れているのだろうか。

そんな心配事を考えているナタリーをよそに、ユリウスは剣に手をかけて。

「はっ」

一息、聲をらしたのと同時に。剣に彼の魔力が注がれたのか…風が巻き起こり。鮮やかな一太刀を、木の幹に與えたその瞬間。

バキッと、衝撃音が鳴り響く。

音が聞こえたのと同時に…メキメキときしむ音を出しながら。大木は橫に倒れていく。その倒れている最中に、彼はまた素早く剣を構え――今度は、木全に何度か斬撃を加えたのだ。

風を切る音と共に、その斬撃によって大木は元の形から一変してしまい――木材として庭の片隅に積み重ねられていた。

「…っわ――――――!すげ――!」

男の子は、興が高まったのか――ユリウスの周りをピョンピョンと飛びながら、はしゃいでいて。それを見たユリウスは、剣を腰に仕舞いながら。男の子の様子に対して…楽し気にけ答えをしていた。

剣の扱い方や、そのコツなど他もない話をしている二人を見ると―――。

(まるで…仲のいい親子のようね…)

歳的には兄弟なのかもしれないが…ナタリーの記憶しているユリウスが今よりも…年上だったので。どうにも親子をイメージしてしまっていた。

そんな姿を見ると…微笑ましいと思う反面。がチクリと痛むのだ。

――もし、ユリウスとこじれていなければ…家族として、他もない時間を過ごせたのだろうか。

もう戻らない記憶が、ナタリーの脳で思い出されてしまう。そう…どうしようもない記憶で、気にしても仕方ないのに。それなのに。

(あの生活に戻るのは、もう嫌…そうでしょう?)

自分を叱咤するように、じていた思いを振り払う。そんなナタリーの心を知らないユリウスは、こちらを窺うように見てきて。

「ああ、魔法で風が強く出てしまったが…大丈夫か?」

「え、ええ」

自分に対して気を遣ってほしくないのに…いや、どうして気を遣ってほしくないのだろう。そうした――変な自分に戸いながらも、ナタリーはユリウスに不用な笑顔を向けるのだった。

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