《【完結】「死んでみろ」と言われたので死にました。【書籍化・コミカライズ】》36

ペティグリューの街が一できる高臺は…ゆるやかな坂道を歩いて。し階段をのぼった先にある。王都とは違い、樹木や花々が多いこの街で――そうした景観を眺め、癒されに來るお忍びの旅行者もいるとの評判だ。

ナタリーはユリウスを伴いながら、目的地へ迷いなく進んでいく。自分の心の迷いなんて、ないのだと再確認するように。

そうして道なりを越えていけば。

(…いつ見ても、綺麗だわ)

レンガの街並みととりどりの花々。そして青々とした木々が、夕日に照らされ――穏やかで。ナタリーにとっては懐かしい景が広がっていた。

い頃は両親と一緒に來ていたこの場所。お父様が「ペティグリューは、発展しすぎないのがいいんだ」と満足げに言っていて――當時は、どうしてなんだろうと疑問があったのだが。

今見たら、その理由も納得する。かな自然とゆっくりと時間が過ぎる街並みは…かけがえのない価値があるように思えるから。公爵家に嫁いでからは、訪れることは葉わず。

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――ずっと、ずっと見たいと願っていた。

思い出の中と変わらない風景は、他の観客も魅了するようで――ナタリーやユリウス以外にも。ちらほらと人が、ベンチや野原で座ったり、立ちながら…堪能していた。また、ナタリーの隣に立つユリウスは。

「…しいな」

そう言葉をらして。それに加えて、「この景は、本當に素晴らしいな…案してくれて、謝する」ともナタリーに話してくる。

「いえ、満足してくださったのなら…よかったですわ」

「ああ…」

「それと――あそこ…見えますか?」

ナタリーが手でさす方向に、ユリウスも視線を向け。「ああ、見えるが――」と言う。二人が見つめる先には、ペティグリュー領の山があって――その中腹にひときわ、大きな石造りの建があることがわかる。

「あれは、だいぶ昔の――ご先祖様が暮らしていた跡と言われていて…崩れてしまわないように、周りを魔法ので覆っていますの」

「…そう、か」

「ええ、他にも天候によって壊れないように…そうした魔法をかけている所もあって――」

ペティグリュー家の癒しの魔法は――爭いに向いていない。その代わりに、こうした保護などといった魔法に応用が利いて。跡以外にも、魔法をかけている場所はある…例えば、外に置かれている墓地とかだ。

死ぬ前は、時間がなくて――ミーナに両親の墓の整備をお願いしていた。しかし結局、ナタリーがそのお墓を見ることはできなくて。

(でも、きっと…ミーナのことだから、きちんとしてくれたわ)

そうしたナタリーの説明をけたユリウスは、熱心にそこを見つめて…そのためか、どこか表くなっていた。彼の心境を伺うことは、ナタリーにはできないが…こうして二人で見ていると。

一度目の人生とは、全く違う時間が流れていると…強く実する。

両親やミーナが生きていて。ちゃんと、“戦爭”という悲慘な過去から変化したのだ。大切な人たちと話して、笑って――そんな何気ない日常が守られたこと。

大切な人の死ほど、辛いものはない。それくらい、ナタリーにとっては…“今、一緒に生きている現実”が尊くて。それは夕日に輝く景のように、眩しくて。

――なにより、こうした現実があるのは…ユリウスのおかげが大きくて。

「ご、ご令嬢…?」

「…え?」

一緒に景を眺めていたユリウスがナタリーを伺うように、聲をかけてきた。

なにやら、驚きながら視線を――自分の顔に向けているようにじる。そこで、ナタリーは自分の目からとめどなく…涙が流れていることに気が付いて。

「…あらっ、どうしてかしら」

「……」

「日のが眩しくて…その…」

上手く言葉が出ない。この涙は、戦爭が終わって嬉しくて泣いているのだ。きっと…そうなのに。自分の顔を隠そうと、つい俯こうとすれば。

「…俺は、木だ」

「……え?」

ユリウスからかけられた言葉が、よくわからなくて。つい彼の方へ視線を戻す。すると、彼もまた眉を下げて…いつもの彼らしくなくて。

「だから、気にしなくて…いい」

「……っ」

「…俺は必要ないかも、しれないが…」

目の前のユリウスは、悩んでいるように見える。きっと、ナタリーが泣いたことに対して――彼なりにできることを言ったみたいで。だから、ナタリーが泣いているのを。

――…その大きなで周りから…見えなくしてくれているなんて、知りたくないのに。

ナタリーは、のままユリウスの服をぎゅっと摑む。目からは、相変わらず熱い滴が止まらない。

「どうしてっ…!」

「………」

「どう、してっ、その思いやりを、言葉を…あの時の私に、してくれなかったのですか。今日のように、普通に笑って、話して…下さらなかったのですか」

――私は、悔やんでいるなんて、思いたくなかったのに。

もし、ナタリーが死ぬ前に。それか結婚後でも、普通に接してくれたら。使用人や義母からの難癖を調査してくれたら。

いや、それよりも。

食事処の夫婦とまでは言わなくても、ユリウスと話したかった。食事だって共にしたかった。お互いんだ結婚じゃなくとも、嫌な気持ちなく過ごしたかった。何より――。

自分の息子――リアムと、もっと一緒に暮らしたかった。

彼の長を見たかった。いつリアムは、立つことができて、言葉を覚えて――そんなありふれた、息子の毎日を見たかったのだ。

そして、今日のようにユリウスに剣を學んだりするリアムを――見守ったりもする、そんな日常が。そんな戻らない幻想が、ずっと頭に浮かんでしまっていて。

一緒に“家族として”笑いあえる日常があったかもしれないと。そこから、どんなに辛くても…前に進む力になったかもしれないと。そんなどうしようもない思いが、溢れてしまうのだ。

「どう、してっ」

ユリウスの前では泣くまいと決めていたのに。それなのに――彼の服を摑みながら、涙が止まらなくなってしまっていて。

頭では分かっているのだ、彼を責めたって…もう戻らないこと。どうしようもないのだと。だから、ずっと彼の服を摑み続けてはいけないと。

自分のをギリギリで止めながら――彼の服から手を放そうとした。その時。

サアッと、一陣の風が。高臺へ吹き抜けていく。

季節風ゆえなのか、突然の強い風によって…ナタリーのがよろけてしまう。バランスを崩したその瞬間。

ナタリーのを、逞しい腕が素早く…支え――先ほどよりも、ユリウスの服と距離が近くなる。

「…っ!す、すまない」

はからずも――。

ナタリーはユリウスに、抱きしめられる形になったのだ――。

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