《【完結】「死んでみろ」と言われたので死にました。【書籍化・コミカライズ】》38
「ナタリィィ~!」
ユリウスと共に帰宅後。
お父様の盛大なお出迎えによって、どこか熱をもった――ぎこちなかった雰囲気はぱっと消えた。
屋敷に戻ってきてから、ユリウスとナタリーを見てお母様はどこか満足げに「あらあら」とほほ笑んでいた。ただ一方で、お父様からは、「何も、起きなかったか」といった心配に関して――掘り葉掘り聞かれ。
対応が大変だったのだが…ナタリーは久しぶりに。慣れ親しんだ街へ外出ができて本當によかった、とそう思った。
(お母様、ミーナ…ありがとう)
お父様の心配という名の…矢継ぎ早な言葉に、ミーナが「旦那様、まあまあ」と押しとどめて。表がしらかくなったユリウスとも、挨拶をし部屋へと戻ることとなった。
「お嬢様…ええ、ミーナは分かっておりますともっ!」
ミーナによって、寢る支度が整えられていく中で。きっと、お父様とは別にたくさん聞かれるやも…と構えていたが。どうやら、ミーナはすでに何かを察しているようで――。
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「私は案を閣下に――」
「ええ、ええ。大丈夫ですっ!」
「そ、そう…」
何も大丈夫には見えないけれど。程よい疲労と心のしこりが取れたナタリーは、ぐっすりと眠りにつくのだった。
◆◇◆
ユリウスとのお出かけがあった翌日。
ナタリーの屋敷では、元気のいい聲が響いていた。
「ユリウス~!回復したみたいだねぇ~!いやあ、よかったよかった」
「……心配をかけたな」
「本當に!そうだからねっ!いつも、行くときは俺に一言って…」
「…すまない」
いつかの手紙の通り、戦爭の処理が終わったのか。副団長であるマルクが、ナタリーの屋敷に訪問しにきたのだ。そして、ナタリーと出會い頭に…手を取って親しみを込めた挨拶をしようとしたところ。
彼は、なにやらナタリーの背後を見て。「アッ、いやあ。お久しぶりです。麗しいご令嬢っ!」と、どこか焦ったように手を離してきたのだった。ナタリーは挨拶を返したのち、後ろを振り返れば…ユリウスがいることは分かったが。
(マルク様…いったいどうされたのかしら)
態度の変化によって、特に問題は起きてなさそうだったので。そのまま、笑顔で返すのみにとどめた。そうするとユリウスとマルクは、話し込むように何度かやり取りをし。
「が治ったばかりで、心苦しいんだけどねえ…その」
「構わない。なんだ…?」
「どうやら…ユリウスのお母様が…」
はじめは、和気あいあいと會話をしていた二人の空気が。何かをきっかけにして、重いものになっていて。屋敷の玄関だったため、ナタリーが立っている所からでは聞こえなかった。
ずっと立ち話をさせるのも…失禮だろうと思い。応接間に案しようと聲をかけようとしたところ。先にユリウスがこちらを向いて。
「…突然のことだが、行かねばならない用事ができてしまって…な」
「…っ!…そ、そうですの」
「マルクから、外に騎士団の団員がすでに待機しているようだから――後日、今回の滯在費やもてなしてくれた禮は――」
「えっ!い、いりませんわっ」
どうやら、マルクと話す中で――早速、ユリウスは騎士団の仕事ができたようで。屋敷から出て行き、騎士に戻るのだろう。が治ったら、當たり前の――想定していたはずのことなのに。
ここ數週間、一緒にいる時間が多くて。ナタリーにとっては、ユリウスが出て行くことにしの驚きがあった。
「それより、おは…大丈夫ですか?」
「ああ、十分に回復した…その…長く世話になった。本當に謝する」
彼は、マルクに促されるように支度を始めている。ユリウスが、騎士団へ戻ると聞いて――お父様やお母様が見送りにやってきて。使用人たちも、ユリウスの帰り支度を手伝っているようだった。
しかし、そもそも荷という荷はなかったため。すぐに準備は整い――。
「お気をつけて…」
「ああ、ありがとう」
マルクと共に彼はペティグリュー家へ謝を述べ、扉から出て行く。
彼の背中を見送ることに寂しさを――じるのは、きっと一緒にいすぎたためだから。懐いてくれた…と離れるような、そんな寂しさだと。
彼に対して暗いの整理はしついたものの。それとは別の――他のやましい気持ちはないのだと――自分を説得するように心でつぶやく。
(あら――?)
扉から出て行くユリウスの姿に、ナタリーはふと目がとまる。なんだか、を押さえていたような。それも、痛みがあるのかし顔が――。
でもその表を見たのは一瞬で、すぐに気を引き締めた彼の…いつもの顔に戻っていたので。自分の見間違いなのかもしれない。
「お、お嬢様…きっとこの外套は、公爵様の…ってあれ?」
「あっ」
ミーナが、息を切らしながら。黒い外套など、ユリウスの私を持って來たのは――ちょうどもう…屋敷から姿が見えなくなった頃で。すっかり、返しそびれていた服の存在を今更思い出す。
他のことに気を取られて。いつも忘れてしまう自分に、「もうっ!」とじながらも。お父様にバレると事が大きくなりそうなので…ミーナにこっそりと仕舞ってもらうように頼む。
(今度こそ…今度こそよ…!)
そんなナタリーの思いをよそに、ユリウスが率いる――漆黒の騎士団は、ペティグリュー領から出て行ったのであった。
◆◇◆
「うーん…」
「どうしましたの、お父様…?」
「ああ、ナタリーか」
ユリウスを見送ってから、幾日か過ぎ。
平穏な日常を送っている中で。お父様が朝食を終えても…ずっと席から立ち上がらず。唸っている様子が目にった。お母様も、心配そうに「あなた、大丈夫ですか…?」と伺う視線を送っていて。
「心配をさせたくはないが…、注意するに越したこともないな…うむ」
「え?」
ナタリーと妻からの視線をけたお父様は、何かを逡巡したのち。口を開いた。
「どうやら、最近國で不審な人を見かける…と知らせをけててな」
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