《【完結】「死んでみろ」と言われたので死にました。【書籍化・コミカライズ】》48

元義母が言う“魔力暴走”のせいなのか。

確かに、周囲が崩れ始め。このままだと、生き埋めになってしまいそうなほどである。一方で、道を塞いだ…あの石柱と同質のものが見えた。

そのため、一部の壁面は無事だが…それすらも。まわりの自然が崩壊してしまったら――元も子もないだろう。

元義母は逃げる気もないのか、狂ったように笑うばかりで。

そんな彼から視線を外し。をかがめて、地に倒れ伏すユリウスに近づく。

「閣下っ!私が治し――」

彼のに手を置く。すると、意識が辛うじてあるのか。ナタリーの手を握って…まるで制止するように。

「いいんだ…それよりも早く、君は逃げて――」

「なにをっ」

「まだ、大丈夫なはず、だ。きっと、ここに俺がいれば…暴走の影響も外に出ないだろう…だから…」

「………っ」

ユリウスは、自分の魔力暴走から逃げてほしいと。そう、ナタリーに伝えてきたのだ。確かに、魔力暴走に対して…。先祖の石の効果や跡の構造が、外にれないよう。作用するのかもしれない。

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しかし、それはつまり――ユリウスをここで見殺しにするということだった。

「だめですっ!だって、閣下をここに置いていくだなんて――」

「俺のことは、気にせずに――」

「嫌ですっ!ど、どうにかできるはず…」

ナタリーの心をよそに、相変わらず周囲の崩壊は始まっていて。刻々と、危険なタイムリミットが近づいていることに気が付く。

そうした張から、自分を落ち著けるために。深呼吸をしたのち。ナタリーは、ユリウスのに手を當てて――癒しの魔力をかけようと試みる…が。

「うっ―――」

「はっ、バカねえ。無駄なのよ…」

元義母の嘲笑が聞こえてきた。それと同時に、自分の手が焼けただれるような覚を持つ。実際に見てみれば、火傷を負っているわけではないのだが…。

ユリウスの魔力の反発が強くて、癒しの魔法が効かない狀況であった。加えてその反発が、自分の手に痛みを出していて。

「頼むから…にげ、て…くれ」

「……うっ…まだ…」

倒れている彼は、苦悶な表を浮かべながら。何度も、ナタリーを説得するように。「逃げてほしい」と伝えてきて。

(ここで、見捨てられるのなら…あの時だってそうしてたわ…っ!)

命の危機に瀕しているユリウスを治療するのは、これで二回目になるのだろうか。一回目は、敵國との戦爭の時で。あの時だって、諦めるのなんて無理だったのだ。

これは、ペティグリュー家特有のお節介なのだろうか。

――わからないわ…でも。

「…閣下!私は、諦めませんからっ!」

「…だが……」

ユリウスは、ナタリーのを案じていて。「諦めない」という言葉に対して、困ったように眉を下げるばかりで。

そんなユリウスの聲とは反対に――彼のに手を置いて、癒しの魔法を試みる。何度も、何度も。

「くぅ……」

「はあ…本當に、無様ねえ」

しかし、ユリウスのに魔法をかけようとすればするほど。返ってくるのは、痛みと元義母の嘲笑ばかりで。

(あの時のように、力が使えれば…)

ナタリーの脳には。戦爭時に出た…白いが思い浮かんでいた。しかし、あのを出すために一どうすればいいのかが――全く分からないのだ。

加えて。

「ほんと…どうしてそんな化けを助けようとするのかしら…理解しがたいわぁ」

耳障りな元義母の言葉が耳につき。その聲を聞かないように、耳を塞ごうとした――その時。

「早く、もろとも…死んでしまえばいいのに」

元義母が、あざ笑いながら言った――その言葉耳にした瞬間。

ブチッと。

ナタリーの中で何かが切れた音がした。それと同時に、自分のからこみ上げるのは強い“怒り”で。そののおかげなのか、自分の手から痛みをじなくて。

れた呼吸を繰り返すユリウスに、手を置き。今一度、癒しの魔法をかけ直し始める。

――なんで、元義母のために死ななきゃいけないのかしらっ!そんなの絶対いやっ!彼の思い通りになってたまるものですか…!

頭にも、怒りの熱が行きわたっているのか。今まで以上に、自分を叱咤する――強い憤りが生まれてくる。

そもそも、ナタリーが知らないことが多すぎるのだ。魔力暴走ってなんだって話だし。あの元義母は、どうして宰相と手を組んでいるのかってところもだし。なにより。

元義母が言うように、他の人をなおざりにして。遊んで暮らしたつもりはないのに。ぽんこつな令嬢扱いをされるなんて――。

どんどん頭に熱がこもり、意識がかすまないように。ナタリーは自分のをかみしめる。どうか、ユリウスの魔力暴走が鎮まるように。そう願いを込めながら。

そして目を閉じれば、見えてくるのは。魔力の波形で。いくつか、波となってあるようだが…ひと際大きく波打ってる部分が見えてくる。

ここだけでも、抑えなければ。集中をして――力をこめるように気合をれると。

「え――?」

「……ご、れいじょう…?」

ナタリーの手から、まばゆいばかりのが溢れる。それは、ユリウスを包むように。そして、ナタリーの脳すらも…真っ白に染め上げるように。

そんな真っ白に染まっていく中――目を閉じているはずのナタリーは、誰かと目が合った気がして。

(あら…?)

あれは、あの薄い赤は――。

「そ、そん、な…そんな…」

元義母の放心した聲と、共に。

ナタリーはパチッと目を開いて、現実に戻ってくる。まだは熱いが、ユリウスのを確認するために。彼へ視線を向け、手をかざせば。

「…暴走は、とまった…?」

癒しの魔法で見れば、まだいくつかの波形はあるものの。あの大きな波はなくなっていて。それが分かったのと同時に、周囲にあった揺れや崩壊もピタッと止んでいた。

ユリウスは、まだに力がっていないのか。倒れているままで、呆然としている様子が見えた。

「な、なによ…あんな…あ、あんたも、化けなのねっ」

元義母は取りしながら、ナタリーをなじるように。聲をかけてきて。

の方へ視線を向け、しっかりと。元義母の姿をとらえたナタリーは、本能のままスッと立ち上がる。ユリウスに魔法をかけたばかりだが、不思議なほどは熱く、軽かった。

「ご、ご令嬢…?」

意識はあるものの。相変わらず、地面にを付けたままのユリウスが目を見開いて。ナタリーを見つめている。

そしてナタリーは、力強く元義母の方へズンズンと進む姿を見て。彼は、「あ、危ないから…」とナタリーを心配する聲をあげる。

そんな彼の聲に振り返って、ナタリーは安心させるようににっこりとほほ笑んだ。そして、また元義母に視線を戻して。

「…なっ、なによ!こっちに來ないでよっ!」

わめく元義母は、手にあった短剣に魔法をかけ。あろうことか、ナタリーの方へ飛ばしてくる。

ビュンっと。

しかし、その短剣を見ても。不思議と恐怖はじなかった。そして勢いよく來た短剣に、ナタリーは手をかざす。自分のを守るために、咄嗟に出た行だったのだが。

刺さると思った短剣は、予想を外れ――ナタリーの手の前で。まるで力をなくしたかのように…カランと落ちてしまって。

「そ、そんなっ」

「……」

「お、おかしいわっ!」

元義母は、諦めずにその辺に落ちている。鋭利な石にも魔法をかけて、再度ナタリーへ飛ばす…が。手をかざしたナタリーの前に、それらの石ころは全て落下してしまって。

まるでナタリーは、あの石柱と同じような質を纏ったかのように。元義母からの魔法をけ付けなかった。

「……」

「ひ、ひぃ…」

ついに、魔力が切れてしまったのか。元義母が、悪あがきで後ろへ引き下がるものの。ナタリーがそれに追いつき…。彼の目の前に立つ。

そして。

「…ぐっ」

息を詰まらせる…元義母の元――ドレスの布をひっつかんで。

「これが何か、わかりますか?」

「…ひ、ひぃ」

真っ赤に染まった手を、彼の前に突きつける。その手は、ユリウスが短剣で怪我した際に――癒すためについたもので。

確かに傷は淺かったものの、それでもナタリーの手を染めるほどには出していた。

「あなたが、刺した際に出たです」

「そ、それが…」

「化け、化けと言いますが――人を平気で刺すあなたの方が、よっぽど…化けですよ」

ナタリーは、彼を睨みながら。力を込めてそう言い放った。そして、ナタリーの言葉の後…し放心していた元義母が。ハッとなったように。小刻みに、震えながら聲を荒げ始めた。

「う、うるさいわっ!」

「………」

「あたくしは、あたくしは、被害者なのよ!変な家に巻き込まれて、問題にも巻き込まれて…それでも、守ってあげようと……あんたにっ。何が分かるのよっ」

ナタリーに言われても。負けじと言い返してくる元義母に…うんざりとしながら。息を整えて、ナタリーは言い放った。

「分かりませんっ!」

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