《【完結】「死んでみろ」と言われたので死にました。【書籍化・コミカライズ】》49

「……え?」

「あなたが、どれだけ大変だったかなんて、知りませんわっ!」

ナタリーが大きな聲を出すとは、思わなかったのか。元義母は、ナタリーに圧倒されていた。今まで、辛いことがあったから…他人を陥れるのは仕方がないなんて。到底理解できないし、理解したくもない。

毒気が抜かれた彼のことは気にせず。ナタリーは話し続けた。

「それに、あなたの理屈で言うと…被害者なら、仕方ないのよね?」

「…?」

「…ほら、そこにあなたが使った短剣があるわ。私、あなたのせいで死にそうになったから…刺してもいいってことに、なりますよね?」

「……ひっ!」

元を摑みながら、そう告げれば。ナタリーが言った容を理解したのか…元義母は、サーっと顔が青ざめていく。

その様子を見て、恐ろしいとじるなら…最初から自分で言わなければいいのに。とナタリーは思った。そして、「だけど、私はしませんわ…」と彼に言い。

「あなたと、同じになりたくないから…って言えば、分かりますか?」

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「………」

ナタリーは人を癒したいとは思うが、殺したいとは思わないのだ。確かに、以前の人生では元義母に、許せない程…怒りをじた。憎しみも抱いていたように思う。

しかしやり返すことで。きれいごとなのかもしれないが。結局、自分が言った“人を刺す化け”には…なりたくないと強く思ったのだ。

「それと…あなたは自分が被害者だと言うけれど。一番の被害者は…あなたの息子、閣下よ」

「…そ、それは」

「閣下はあなたに剣を向けましたか…?どうしてあなたを、母と思っている閣下を…」

「……っ」

元義母の瞳から、怒りが消えたようにじた。そして、ナタリーの背後で倒れているはずのユリウスに視線を向けているようで。

やっと自分が息子を手に掛けたことに…そのことの重さに。理解が追い付いたのか。目に見えて、力していく姿が分かった。

「あなたは…ずっと悔い続けてください。自分がしでかしたことに、死ぬ最期の時まで」

ナタリーがそう言えば。元義母は何も言い返してはこなくなっていた。抵抗する様子もなくなったので。離して――エドワードと合流するべきか…と考えていると。

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――ゴゴゴゴッ

「…え?」

なんだかこの音は聞き覚えがある気がする。しかもデジャヴで…また自分の頭上から聞こえていて。上を見上げれば、案の定。巖の塊が、さっきの揺れのためか崩れて――ナタリーのいる所へ落下し始めていた。

「ナ、ナタリーッ!」

ユリウスが、大聲でこちらを呼んでいる気がする。それと同時に、ナタリーは摑んでいた元義母を…反対方向へ突き飛ばした。それによって、だいぶ巖がこちらにやってきていて。

証人を殺してはいけないとか、お節介さとか…無意識な、自分の行に。思わず笑ってしまう。前とは違って、巖から逃げてはいるものの。逃げきれなさそうだ。

もうダメだと、そうじながらも。思わず。自分の手を上にかざして、もう一度奇跡か何かで。どうにかなれと念じようとした…その瞬間。

風が頬を通り過ぎて、疑問に思えば。

見間違えない、黒い服。赤い瞳が見えて。

そのまま、勢いをつけていたのか。

ナタリーを両手で抱え――巖が來ないその先へ飛び込んでいく。

「か、っか…?」

ユリウスと認識したその直後。先ほど自分がいた場所から。ドオンッと大きな衝撃音が、辺りに響いた。

(痛くないわ…どうして)

一緒に飛び込んでいったはずなのに、ナタリーのから痛みは全くなかった。そして、その理由はすぐに分かった。

「閣下!」

「……ぐ、ぅ」

ユリウスがナタリーの下敷きになるように。痛そうな床面から、ナタリーを守ってくれていたのだ。魔力暴走の時とは違い、ところどころり傷や切り傷ができていた。

ただ、ユリウスの鎧がを保護していたのも大きくて。命にかかわるような怪我ではなさそうだ。しかし、怪我は怪我。

急いで抱きしめられている姿勢なんて気にせず。手の屆く範囲で…癒しの魔法をかけようとするが――ずっと魔力を使いすぎていたためか。だいぶ、弱々しい魔法になってしまっている。

「ご令嬢…。け、怪我は…」

「閣下のおかげでありませんっ!」

「良かった…」

いや、全てまるっと良かったという訳ではないが…。ユリウスの行によって、無事に済んでいるのも大きくて。強く否定もし辛い。

元義母とナタリーが話しているうちに、けるようになったのかもしれないが。萬全ではない狀態で、ユリウスは自分に魔法でもかけたのだろうか。それくらい驚異的なスピードで、ナタリーのところまで來たのだから。

彼はを酷使しているのだ。どうにか、治してあげたい…と思いつつも。ゆるゆると、魔法をかけていれば。ナタリーの魔法に気が付いたユリウスが、「無理をしなくて、大丈夫だ」と言ってくる。

「気持ちは、ありがたいが…そんな大層な怪我じゃ――」

そう、言い張る彼に。ナタリーは、強く。

「閣下!」

「な、なんだ…?」

「助けてくださったのは、謝します!本當に…ありがとうございます」

「い、いや…」

「でもっ!」

彼の怪我をし治したところで。ナタリーはユリウスのを挾み込むように…手を地面についた。砂埃にまみれてもしさにりがないユリウスの――赤い瞳と目が合う。

「私は、私はっ。閣下が怪我するところを見たくないんですっ!」

「…そうか、それは。っすまない…」

「謝らないでください…それより…」

「……?」

ユリウスが、ナタリーの言葉に疑問の表を浮かべたあと。彼の頬に、ぽたぽたとこぼれる水滴があった。それにユリウスは、驚く――だって、その水滴はナタリーの瞳から出ていて。

焦ったように、オロオロするユリウスに…自然と笑みがこぼれる。そしてそのまま。

「閣下が、無事で…本當によかった…」

ナタリーは、涙を流しながら。ユリウスに語り掛けた。彼は、「君が――」と何かを言おうとして。目を見開き、無言になる。

ナタリーの姿に、目を奪われ…言葉を忘れてしまったのか。沈黙の時間が生まれた。そんな時、ナタリーはハッとなる。

「あっ!閣下…私、閣下のお母様に…結構言いましたが…。謝りませんよ!」

「……ん?」

ユリウスは、ナタリーからそんなことを言われるとは思っていなかったらしく。ポカーンとしている。しかし、ナタリーとしては…きっとユリウスはあの時の會話を聞いていたわけで。

彼的に、自分の母親にあんなに言われて気分を害したかもしれないが。それでも、ナタリーの意思表示をしようと思ったわけで。そう、決意を持った表で彼を見つめれば。

「ふっ…」

「…っ!なにが、おかしいのですのっ!」

「いや、別に…俺はそのことを怒っていないし…そうだな…」

ナタリーの言葉を聞いたあと。ユリウスは、破顔して。「むしろ、ありがとう――」とナタリーに謝を言った。

「母上を諫めてくれて。そして、その…」

「……その?」

「俺のことを思って、言ってくれて。謝する」

「……っ!」

ナタリーは面と向かって…こんなに謝されるとは思わず。顔に、熱がのぼっていく。取り繕うように、「べ、べつに…そ、そんな」と口をもごもごしていれば。

に変な力がっていた。それは、照れ隠し的な…いらない力のり方で。

何より運悪く。手をついていた床面が、磨かれていた木材であったためか――ナタリーは、自の手汗で変な力のまま。ツルッとり、自分の勢が維持できなくなる。

「あっ!」

そうすると、見つめあっていたナタリーの顔はユリウスの方へ近づき。

ぷにっとした覚が。自分の鼻にぶつかって。

(この覚は――それよりも)

ユリウスの顔が近い。距離なんてないくらいに、とても近く。心拍數が壊れたように、うるさくなった。涙はその衝撃のおかげで…引っ込んでいて。

一方のユリウスは、かせないから自的に黙るのみで。

(わ、私、なんてことを――!)

冷靜になれば、なるほど背中の冷や汗は止まらなくなり。手にまた力をれて姿勢を変え、ユリウスに弁解をしようとしたその瞬間。

「ナタリィィ~!父さんが!迎えに來たぞう~!」

「お父上、そこはまっすぐで――」

「で、殿下…殿下に“父上”って言われると、なんだか心臓が苦しい…」

不運は続くもので。宰相を追いかけに行ったエドワードと自分のお父様の聲。それと、「ユリウス~!無事か~!」というマルクの聲と共に、たくさんの足音がこちらへ向かっていることに気が付く。

急いでユリウスから離れなければ…とそう思ってこうとしたが。一歩遅く。

「おや…?」

「ユ、ユリ、ウス…?」

するエドワードとマルク。そして。

「ナ、ナタリィ~~~!!」

お父様の絶が、響き渡ったのだ。ナタリーは、その聲を聞いて頭が痛くなり。考えることをやめた。

だから、すぐさまお父様によって。ユリウスから離され…そのまま抱きかかえられても…もう抵抗はせず。

エドワードからは、「すごい地震があったから、宰相は部下に任せて。合流した後続班と共に…こっちに戻ったのだけど…」と、どこか暗い聲が聞こえてきて。

「ユリウス…お前…。さすが団長だな…」

「…うるさい」

「またまたぁ~!顔が真っ赤だぞ…あっ、痛いっ、小突く力がっうっ」

マルクの楽しそうな笑い聲に包まれながら。後続の騎士たちが、ナタリーが突き飛ばした元義母の所へ赴き。「こちらに気絶している…ご婦人がいますっ」と報告していたり。

全ての報量が滝のように押し寄せてくるので。お父様にお姫様抱っこで、抱えられながら。ふと、自分の鼻にれて――。

らかかったわ――って!何を考えているの私!)

何かを振り払うように。ナタリーは必死になっていたとは。この場にいる誰もが、知らないままだった。

そして跡が崩れることもなく。無事に一行は、死者を出さずして外へ出することになった。

こうして一連の不審な…魔力反応問題は。元義母が逮捕され、尋問にかけられることによって幕を閉じる。

穏やかで、領民たちの笑顔が絶えない…平和なペティグリュー領。

しかしそれは。

宰相が依然として、逃亡している事実が広まり。

平穏が崩れていくまでの“つかの間”だったなんて。

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