《【完結】「死んでみろ」と言われたので死にました。【書籍化・コミカライズ】》55

剣舞祭の盛り上がりは、日にちが近づくにつれて。大いに、賑わっていった。開催地の王都だけでなく、ナタリーがいるペティグリュー領の住民ですら。

外に出歩けば…あちこちで。「太と月はどちらが強いのだろうか」といった話題で、もちきりになっていたのだ。この勢いでいくと、間違いなく――歴史上でも、一番の賑わいが生まれるだろうなとナタリーは思った。

また、そんな楽しい記事の一方。新聞の片隅には、相変わらず「不審人」の目撃が絶えず続いているらしく。そのことに、不安をじながらも。

ナタリーは開催日まで、剣舞祭を楽しみしている両親と共に――過ごしていたのだった。

◆◇◆

ペティグリュー家も総出で、祭りへ向かう準備の中。

開催日が明日に迫った頃だった。自室で、し休憩している最中に。廊下から、ノック音が聞こえてきたのだ。

「ナタリー。いるかい?」

「あら、お父様…!どうぞ…!」

お父様の聲が聞こえて返事をすれば。そのまま、お父様は部屋の扉を開き。ゆったりとした足取りでこちらへ向かってきたのだった。

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お父様は、剣舞祭に向かう準備と共に。相変わらず、ペティグリュー家の跡調査の協力もしていて。父の調を気遣いながら、ナタリーは対面の空いているソファに案する。

そして、お父様がソファに腰かけたのを見て。ナタリーは伺うように聲をかけた。

「お父様、お疲れではないですか…?」

「大丈夫だよ…むしろ、明日久々に――みんなで出かけられるからね」

ナタリーの聲に、嬉しそうな返事をしたのち。お父様は、「明日が楽しみ過ぎて、眠れなくなってしまったら…どうしようかな」なんて、冗談めいたことも言った。

「ふふ、お父様が言うと…本當に聞こえますね」

「おや?父さんは、いつでも本気――いや、じょ、冗談だよ。そんな母さんと似た視線…うっ、が」

本當に眠らずに…徹夜をしそうな父の反応に。疑問の視線を向ければ。予想以上のダメージがったようだった。ナタリーの視線に、過剰な反応を見せつつも。お父様は、一息をついてから。

「話は変わるんだが…ずっと、父さんは跡に行っていただろう?」

「え、ええ。そうですね」

「殿下から派遣された者と共に――資料とかを読んでな…その」

「…何か、わかりましたの…?」

歯切れが悪そうなお父様は、し下を向いたのち。ゆっくりと顔を上げて、ナタリーと視線をわす。その表には、どこか暗い影があって。

「どうやらな…我々のご先祖は――魔法で攻撃ができない代わりに…。兵であったり、相手の魔力をはじく魔法の習得に力をれていたようだ」

「…ま、まあ」

ペティグリュー家は、癒しの魔法ができるイメージが先行していて。攻撃といった部分は、魔法以外の武蕓に頼っているため。武力面では、期待されていない家なのだ。

癒しの魔法と環境を保護する魔法――あくまで、人に害を及ぼさない魔法を得意とする。

しかしご先祖は、そうした部分を乗り越えて。さらなる発展を目指していたのかもしれない。それなら、喜ばしいことなのではないか…とお父様を見ながら。

「つまり、國に貢獻していたってことなのでしょうか…?」

「う、ううむ…それがな」

「…?」

「結果としては…手放したそうだ」

「え…?」

大きく目を見開いて。思わず驚きの聲をあげてしまう。発展の可能をあきらめるなんて、どうして――と。そんな疑問を持ってしまったから。その疑問は、お父様もじていたようで、続けて。

「父さんもな、おかしいと思って――先祖の意図を読み解いていったら…分かったことなんだが。つまりは…過ぎる力は…消されてしまう、とのことらしい」

「それは――」

「ああ、きっと…“國に”だろう。そこは濁して書かれていたが、見當はついたよ」

お父様が言うには。先祖が書き殘した資料から。ペティグリュー家とは別に、発展を公にした家があったようだが。まるで見せしめの様に、力をはく奪されて。

そのまま王家が管理していった顛末が書かれていたのだとか。

そんな慘狀を見たご先祖様は、跡の地下に隠すように――すべてを封印して。そして、につき始めていた魔法すら。その魔力を石柱に注ぎ込んで、伝しないように。葬り去ってしまったということだった。

それなら、ナタリーのあの力は――。お父様と、視線が合う。お父様は、気まずそうな顔をしながら。

「ナタリーのや魔力を消す――といったものは、もしかしたら。隔世伝…先祖返りなのかもしれない」

「先祖返り…?」

「ああ…それと。なにより…現在もあるなんて――王家に知られていない力だ」

「………っ」

「王家、その側近など…だな。そこに見つかってしまうと…」

そう言ってから。お父様は、悲しそうに眉をひそめて。「どうなってしまうのか…父さんも分からないんだ」と、苦しそうに話した。

「ナタリーの話を聞くに…公爵様の母君にしか見られていない、で合っているか?」

「は、はい」

「うむ…彼は、罪人として宰相に関する証言は聞き取られるだろうが。ペティグリュー家の話をしても。妄言として取られる可能が高い…」

そして、「公爵様の母君にしか見られていない…というのは。幸いだった」とナタリーに優しく言う。そのまま、お父様は自にも言い聞かせるように。

「あのに関しては、あくまで父さんの見立てで――先祖返りと言ったが。資料にも載っていなかったことだから。公表しなければ、大事はないだろうと…思っているんだ」

「お父様…」

「父さんは…ナタリーが嫌な目に遭うことは。耐えられないんだ…どうか、バレないように…」

きっとお父様にとっても。隠し事を続けていく事態に、を痛めているのだろう。そんな様子を見て、ナタリーは決斷したように口を開いた。

「…わかりました」

「ナタリー…」

「私も、ペティグリューにとって。辛いことに…繋がってほしくありませんもの」

ナタリーの言葉を聞いたお父様は。そのことで、ほっとしたように肩から力が抜け。「ありがとう…それと不安に思わせてしまって…すまないな」と言葉を紡ぐ。

「お父様、謝る必要はありませんわ…むしろ、ちゃんとお話をしてくださって、私…嬉しいんですの」

「ナ、ナタリー…」

お父様は、えずき始めたかと思うと。「ううっ。こんな、立派に長してくれるなんて…嬉しいけど…もっと甘えてくれたって…」とブツブツ言いだして。

「ほ、ほほ…」

「ううっ、いつでも父さんのはあいているからな…!」

いつもの調子に戻ったお父様に、想笑いを浮かべながら。ナタリーは、お父様との會話のおかげで、魔法の危険を知った気がした。だからこそ、今後――魔法を使うときは用心しなければ…と思いつつ。

現在は目の前の、泣き蟲なお父様をあやすことに注力するのだが――結局、お父様の喚き聲を聞いたお母様によって。お父様は回収されていき。

明日の剣舞祭に向けて、ナタリーは眠りにつくのであった――。

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