《【完結】「死んでみろ」と言われたので死にました。【書籍化・コミカライズ】》58
ナタリーが席に戻ると。
両親が迎えてくれた。お父様は、「お化粧を直していたのか…?ナタリーは、いつでも可いぞ…!」と勝手な勘違いをしていて。
控室での全てを話すと、ややこしくなりそうだったので…。お父様には申し訳ないが、フランツに挨拶をしてきたとだけ話した。話途中で時々、お母様の心を見かしたようなウィンクが飛んできたが。きっと気のせいだろう。
「おお、ナタリーに話し忘れていたが…次の試合はな…」
「はい、お父様」
ナタリーは席につき、両親と共に試合を見守っていた。
◆◇◆
試合容は、ところどころ白熱したものもあったが…いつもよりも時間は比較的にスムーズに。かつ、観客の大歓聲が響き渡っていた。それもこれも、エドワードとユリウスのおかげなのだろう。
あっという間に、試合はエドワードの準決勝戦へと進んでいて。席では、両親と…ユリウスが近くにいたのであった。彼もまた、エドワードの試合の後に――準決勝戦があったはずで、大丈夫なのだろうかと視線をやれば。
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「相手が…棄権してしまってな…」
「あっ、そ、そうだったのですね…?」
なんとも言えない顔つきで、事の経緯を話してくれたのだった。そんなわけで、ユリウスも席で一緒に観戦することになったのだ。
「ふむ…殿下のお相手は…今年の優勝最有力候補者だな…」
「まあ…」
「だが…うむ。すぐに方が付くというか…殿下のお相手は、來年度に期待だな」
お父様がちらりと、ユリウスに視線を向け。その次に、試合會場にいるエドワードを見る。つまり、対戦相手は不運なことに…強い二人が參戦したことによって。優勝候補者ではなくなったというのは、みなまで言わずとも分かった。
ナタリーは気を取り直して、試合會場へと視線を戻す。そこには、余裕な笑みを浮かべるエドワードと…屈強な男が立っていた。寢不足なのか、顔は悪いが――優勝候補ともあって、研ぎ澄まされたもあり。実力には申し分なさそうだ。
(――あら…?)
「確かに実力者のようだが…あの武は、貴國で流通しているものか?」
「む…?たしかに、あれは珍しい武ですな。刃の部分がギザギザと尖っていて…初めて見ますな…」
エドワードの対戦相手が持つ武に、目が留まったのだ。ナタリーやユリウスが疑問をもち、お父様は初めて見るというその武。祭りということもあって、新調したものなのだろうか。
(でも、この祭りで相手の命を奪うことは止だから…杞憂かもしれないわ)
一抹の不安をじたが、魔法も止である試合で…無茶なことは起きないだろうと思ったのだ。お父様が、「おっ、始まるようだ」と聲をかけるのと同時に。試合の火ぶたが切られたのだった。
◆◇◆
「うむ…これは…」
「……」
お父様とユリウスが、じっと見つめるその先には。エドワードと対戦相手の打ち合いが続いていた。すぐに片が付くと話していた父の予想を裏切るものだったためか。
興が止まない父は、席から立ち上がって試合を集中してみている。そして一方で。
(なんだか…がざわつくわ…)
見ているナタリーは、ずっと嫌な不安をじていた。それは、なんだか居心地の悪さのような…変な気配のようなもので。その原因を探るべく、じっと目を凝らして試合を見守っていれば。
「……え?」
(エドワード様のお相手、武から魔法が…!?)
思わず聲が出てしまう程、あり得ないものをみたのだ。対戦相手の歪な刃から、確かに風のようなものが生され。エドワードの剣をはじいているのだ。
しかしそんな狀況に、お父様をはじめとした…試合を見る観客は熱気に包まれているため…気づいていないようで。
「気づいたか…?」
「え…閣下も見えて…?」
「ああ…」
ユリウスはナタリーに、聲を潛めて話し掛けた。どうやら、この違和をユリウスも持ち…何かを思案するような顔つきだった。
「あれは…まずいな」
「ど、どういうことでしょうか…?」
「殿下は、相手の魔法を會場に飛ばぬように…そらしているようだ」
「え?」
ユリウスにそう言われて、集中して見てみれば。確かに、先ほどからエドワードは防戦一方の狀態で。傍から見ると、エドワードが押されているように見えた。しかしそうではなく、魔法を――。
「ゆ、床が…」
「……」
よくよく見れば、観客の周りには何も被害はないが。試合會場の床が、魔法によって徐々にえぐれていることが分かったのだ。なにより対戦相手がずっと…攻撃を緩めず、人並外れた力を発揮しているのも――おかしい。
(まるで、何かに囚われてしまったように…)
自我が無くなってしまったその様相に、ユリウスに目を向ければ。彼は、ナタリーの視線をけてこくりと頷き。「あの武がどんな原理かは分からないが、魔力がない者でも…一時的に魔法が使える代なのだろう」と言ったあと。
「ただ魔力に耐がないものは…段々と意識すら保てなくなるだろうな」
「そ、そんな…」
「しかも、あの者の場合は…自分のを代償に、剣の魔法を大きくさせていて。このままだと…」
「ど、どうなりますの…?」
息を呑んで、ナタリーがユリウスを見れば。彼は重そうに口を開く。
「この會場が吹き飛ぶほどの、威力が生まれるかもしれない」
「…っ!」
今は対戦相手の大きな魔法を、エドワードが打ち消すように。…おそらく瞬間移などで違うところで飛ばしたりしているのかもしれないが。このまま長引けば、相手の命はもちろん、エドワード、ひいてはこの會場全に被害が及んでしまう可能があるのだ。
「俺が間にってもいいが…しかし、殿下の打ち消しのタイミングが合わなければ…」
「會場に被害がでるのでしょうか…?」
「そう…なる、な」
ユリウスは、暗い表で答えを返した。つまり、助けに行くに行けない狀況というわけで。二人の間に沈黙が生まれる。
(でもこのまま、どうなるかわからない試合を放置するのは、よくないわ…)
ナタリーは試合會場に再び目を向ければ。相変わらず、エドワードの対戦相手が何かにとりつかれたように、攻撃を仕掛け続けている。そして、床の損傷が先ほどよりも大きくなり始めているのが分かった。
(そういえば…)
どうしようと悩んだナタリーの頭の中に浮かんだのは。跡地下にあった石柱。そしてお父様が言う「先祖が魔力をに注いだこと」だった。また同時に、「王家にバレてはいけない」ということも思い出す。
(でも、今は急事態だから…そうしないと…)
ぐるぐると不安や心配が頭に渦巻き。決心がつかなくなってしまう――このままではいけない、わかるのに。それをしてしまっていいのだろうか。
「…ご令嬢」
「か、閣下?」
「何か案が思い浮かんだのか…?」
「そ、それは…」
気遣うように、聲を潛めながら。ユリウスはナタリーに問いかけてくる。
「言いにくいようなら…言わなくともいい。話せる部分があるのなら、それでも」
「……っ」
「いざとなったら、俺があそこへ介する。必ず、この會場を…君を守ろう」
ぶっきらぼうにそう言いながらも、ユリウスはナタリーを安心させようとしてくれているみたいだった。そんなユリウスに、全てをにしたまま。彼だけに大変な危険な行為を任せてしまっていいのだろうか。
ナタリーは頭の中で考えた末。首を橫にぶんぶんとふり。
「閣下…」
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