《【完結】「死んでみろ」と言われたので死にました。【書籍化・コミカライズ】》59

「なんだ?」

「その…信じられないかもしれませんが、この會場の魔法を無効化することができるかもしれません…あの地下跡の石と同じように」

「…それ、は」

ユリウスが目を大きく見開き。ナタリーに驚きのを向けていることがわかった。しかしそれも一瞬で、すぐにいつもの眼差しに戻り。

「もしそれができるのなら、被害は出ないが――ご令嬢のに支障は…?」

「私は特に問題ありません。…が…その、周りの目が…」

きっと相當な魔力を使うことになりそうだが――永続した効果ではなく、一時的な無効化なら無理はないはずだ。しかし、不安がよぎるのは…魔力をたくさん出そうとするとが出てしまうことだ。

(もしが出たら…)

不安は、自分だけでなく家族にまで迷をかけてしまうのではないか。それは、王家からくる圧力といった――。

(いえ、でも…このままでは、閣下が助けに行っても萬全とはいいがたいのだから…)

すくむ気持ちがどんどん膨れていって――気づけば、ナタリーは足元を見ながら…うつむいていた。そんな時、ふわっと何かの布がすっぽりとを覆った。思わず、見上げれば…ユリウスが、真面目な顔をして。

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「気分を害させてしまったのなら…すまない。ただ、俺の外套があれば…ご令嬢を隠せるだろうと思って…」

「……え?」

「それと…衆目が気になるのなら。ご令嬢の力を信じて、俺があの場へ…ド派手に飛び込もう…そうすれば、気づく者など現れるまい」

「それは…」

「ご令嬢がしたいのにできない意図をじて、言ったのだが…ど、どうだろうか?」

しゅんとした犬耳が、彼の頭に見えた…そんな気がして――ナタリーは思わず。

「…ふふっ」

あたふたとするユリウスは、いつもより數段とく見えて。そのギャップに、思わず笑ってしまった。そして、ナタリーの心にも変化が訪れ。

「なんだか、ふっきれた気がしますわ」

「そ、そうか…?よ、よかった…のか…?」

「ええ」

そうしてナタリーは、席の前にある手すりにを向ける。近くにいる両親をはじめとした観客は、みな試合に夢中な狀況で。

「合図を出します…その瞬間、この會場に魔法の被害は及びませんわ」

「わかった」

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ナタリーからそう告げられたユリウスは、こくりと頷き。周りから見て不自然にならない範囲で、構え始めた。

スーッと息を吸い。ユリウスに巻かれた外套にを包みながら。ナタリーは、手すり――試合の建に手をかざした。

集中をして、元義母に立ち向かった時の記憶を思い出す。あの時と同じように、そしてあの時の魔力をこの會場全に行きわたらせるように。

が熱を帯びる覚があった。そして同時に、自分の中で膨れ上がった魔力と――あのが助けてくれるようなイメージが頭をよぎり。自の手がし、発したところで。

「閣下っ、今です…!」

「承知した」

準備をしていたユリウスが、を乗り出し――大きく上空へ跳躍する。お父様が、驚いたように「えっ、こ、公爵様っ!?」と大きな聲が聞こえたその瞬間。

ユリウスは、風を斬るように剣を上空で振りかざす。それによって、天高く大きな風の音が響き――會場にいる観客が一斉にユリウスを見た。

「はっ」

注目を一に浴びながら、掛け聲を上げた彼はそのまま。猛スピードで、會場の中心へ向かう。またナタリーの手からも、溢れんばかりのが生まれ――外套から微かにれている中。一瞬でけりをつけるように、ユリウスはエドワードと視線を合わせたのち。

地面に著地をして、エドワードの対戦相手が持つ剣をすぐさま弾いてしまう。周りが驚く暇もなく。歪な剣をユリウスがそらすことによって、魔法がぶつかり合った衝撃なのか。

「お、おい…変な剣から風が…!」

「なんで魔法がっ!?」

「キャアアア!」

周囲の悲鳴と共に、怪の唸り聲に似た大きな地響きが鳴る。そして剣を巻き上げるように、天高く渦巻く竜巻が會場に衝突した…が。

(良かった…!)

ナタリーの魔法が會場にきちんと行きわたったことにより。大きな竜巻によって、建が壊れることはなかったのだ。竜巻にのまれそうになった観客は、自が無事なことに頭が追い付いていないのか。ポカーンとしている一方、ユリウスとエドワードは。

「ご無事そうで…殿下」

「ふっ、遅いじゃないか…公爵」

不敵な笑みを浮かべあって、話しているのが分かった。こころなしか、エドワードは息を切らしていているようにも思える。

「そ、そん…な」

エドワードの対戦相手は膝から崩れ落ち、いているようだった。周りに魔法の被害は、これで出ない様子がわかり。ナタリーは人知れず…會場にかけていた魔法を解く。

そして會場では、ユリウスが試合に介したことで観客に混が起きていた。會場から疑問の視線が降り注ぐ中、いち早くエドワードが立ち上がり。

「対戦相手の不正があった」

そう素早く宣言したのち。

「この剣に膨大な魔法がかかっていて――あわや大慘事となるところを…漆黒の騎士殿が助けてくれたのだ…公爵よ、謝する」

「いえ…」

ユリウスは、自分のおかげといった誇らしげな顔はせず。むしろナタリーを気遣うように…視線を送ってきたが。ナタリーは、気にしないようにと手を軽く振って反応を返した。

(エドワード様も、閣下も無事で本當に良かったわ)

ホッと安心を覚えていれば。

「く、くそっ。この剣はバレないって、言われていたのに…」

「ほぅ…それは気になるね。じっくり、後で聞かせてもらおう…騎士よっ!この者を捕らえよっ!」

「ひ、ひぃ…」

エドワードの対戦相手は、悔しそうに聲をらし…そのまま、王城の騎士たちによって。連行されていく様子が見えた。そして、観客が一連の騒を見守る中。

「…えっ!」

ナタリーが思わず聲を上げ、目を大きく見開けば。その視線の先に、をふらつかせ倒れそうになるユリウスが映ったのであった――。

◆◇◆

ユリウスが試合會場の床に倒れこみそうな一歩手前。

「おや、大丈夫かい?」

「く…す、すまない」

「ふっ、いいさ」

その寸前で、ユリウスのをエドワードが支えてくれていたのだった。ナタリーは、一瞬ヒヤリとしたものの。どうにか勢を立て直して、話し合う二人の姿にをなでおろした。

(あんなきをしたら…疲労が生まれて當然だわ)

ナタリーが見守る中。ユリウスはしの間、エドワードに支えられたのち――すぐに姿勢を正して立っている様子が見えた。そして、エドワードもまた服の皺をばしたと思えば。

「民よ。此度はアクシデントが起き――心配をかけさせてしまい…申し訳ない」

そう會場に、聲を響かせた。また続けて。

「このような問題にいち早く対応してくれた…漆黒の騎士・ユリウス公爵を此度の功労者として。剣舞祭での栄譽をけるにふさわしいと思うのだが…どうだろうか?」

「お、おい…」

ユリウスが焦りを浮かべ、エドワードに聲をかけるも。その聲を制すように、會場から小さくパチパチと拍手が生まれはじめ――そのまま、拍手は大きな音へと変化する。観客が皆、エドワードの聲に賛同するように拍手をしていたのだった。

そして、拍手の音の中には。

「殿下と公爵様っ!ありがとうございますっ!」

「お二人に栄が輝かんことを…!」

そう二人を稱える聲が観客から出され。ナタリーもまた、二人の行を祝福するように拍手をしていた。

「ほら、公爵よ…民からの賛辭は素直にけ止めねば、ね?」

「く…だが、殿下を稱える聲も聞こえるようだが…?」

「おや…、嬉しいね…ふふ」

そうした二人の軽いやり取りがなされた後。試合を観戦していたエドワードの父・現國王が聲をあげた。

「魔法の衝撃によって…試合會場の整備が必要なようだ…ゆえに此度の剣舞祭の続行は不可能である」

厳かな陛下の聲が響き渡れば、會場はシーンと靜まり返り。

「しかし、不測の事態にも対応してくれた…わが息子と公爵に栄譽を與えようと思う。のちほど、要を聞こう…ふむ…せっかくわしも楽しみにしていたのだが…二人はどうだ?」

「ええ、本當に…僕としても不完全燃焼ですね」

「あ、ああ…」

「そうか…それなら。來年も二人は參加してくれるのだろう?」

そうお茶目に陛下が、エドワードとユリウスにウィンクを送ったかと思うと。二人は顔を見合わせて、不敵に笑い。

「ふふっ、だそうですが…公爵殿は、どうお考えで?」

「ふっ、愚問だな…殿下が逃げ出さぬことを祈ろう」

二人の間に火花が散った様子がわかり、會場でも「來年も二人の姿が見える」ことに大きな歓聲がわき上がった。そうして、今年の剣舞祭はエドワードとユリウスが賞することで幕を閉じることになった。

「來年もまた…見たいのぅ…」

試合會場からし離れた場所で、フランツがそう呟く。そして、ユリウスの翳りがある顔に――誰も気づかぬままだった。

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