《【完結】「死んでみろ」と言われたので死にました。【書籍化・コミカライズ】》64

「そ、それを起したら…」

「ええ…これが最大の復讐で、最高のお披目になりませんか?」

無邪気な子どもというには、邪悪すぎる彼の笑みに。ナタリーは返す言葉も失ってしまう。そんな中、「この発明を見せる前に…邪魔されてはたまったものではありませんからね」と彼は言い。

「何やら、私の追跡をしようとしていたのを止めるために…剣を支援したりしましたが…今思えば、さっさと指揮を擔う殿下を、拉致すれば良かったですね」

「なっ」

「焦ってしまうと考えが狹くなってしまいますね。しかし、そんな第二王子を釣るために…ちょうどいいコマを使えたので…プラマイゼロですかねぇ?」

「減らず口を黙らそうか」

けらけらと笑う宰相に、冷たい聲を浴びせたのは――エドワードだった。その手には、くしゃくしゃの紙が握られており。

「おお、怖い…やっとお読みできましたか?本當は、王家が渡したとされる財寶がしくて…金庫を開けたのですが…」

「……」

「殿下の歪んだ顔が見えたので…無駄足には、ならなかったようですねえ」

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ナタリーはエドワードの顔をちらりと見やれば、いつもの余裕はなくなっており。沈痛な面持ちになっていた。

(エドワード様が反論されない…ということは)

きっと霊たちが見せた「王家から死を命じられた」文面があったのだろう。しかし、ずっと悲観している時間はない。このまま宰相を放っておくと、王都が國が滅んでしまうかもしれない。

(お父様とお母様、ミーナが危険だわ)

意を決して、目の前の宰相を視界に捉える。そんなナタリーの行よりも先に、エドワードがき出した。エドワードが宰相に手を向けて魔法を放とうとした――その瞬間。

「ぐっ」

「不意打ちだなんて、油斷なりませんねぇ」

「エ、エドワード様っ!」

宰相はエドワードが魔法を発するよりも早く。服のうちに隠していた杖を、地面に突き刺したのだった。その杖によってなのか、魔法は発せず。

むしろ、エドワードは何か大きな痛みが生じたのか――腕をおさえ、苦しんでいる。

「だ、大丈夫ですかっ!?」

「う…っ」

「おやおや、相當な魔法を打とうとしたのですねえ…ですが、殘念なことに…ペティグリューの発明を…さらに発展し改良した石が反したようですねえ」

「反…?」

ずるずると腕をおさえながら、倒れていくエドワードを支えながら。ナタリーが訝しげに、眉をひそめて聞き返せば。

「ええ、便利でしょう?しかも、けた魔法を倍にして返してくれるんです」

「そん、な…」

「おそらく、殿下は私を拘束する魔法を打とうとしたようですが…自分のを締め付ける結果になりましたねえ?」

ナタリーが宰相の言葉に発されて、エドワードの腕を見れば。確かに何かで拘束されるように、圧迫されている様子が見えた。

急いで、ナタリーはエドワードに手をかざし。癒しの魔法をかけるものの、すぐには治らない。

(魔法がとけるまで、時間がかかるもののようだわ…)

拘束しようとしたのだから、長時間は締め付けようとしたはずで。その影響が、もろに出ていたのだ。腕の流を止めんばかりの締め付けを腕から…の方にまでけているようで、エドワードは息が絶え絶えになっていた。

「ふふ、こうして優雅に見ているのは楽しいですねえ」

「あなた…悪趣味ですのね」

「おほめいただき、ありがとうございます」

ナタリーが言い募っても、全く気にしていないようで。

「…すぐに、騎士や兵が來ますわ」

「おや、だから抵抗しても無意味…という説得ですか?」

宰相は眉をぴくりとあげたのち、口角をあげて――にたりと笑った。

「もう、騎士や兵は來ているんですよ」

「…え?」

「どうやら、優秀な殿下のおかげで…ここが分かったのでしょうが…反をする石の力は遠くのり口にも屆きますからね…。杖の石を起する前なら、ただ魔法を阻む扉だけでしたが…殘念ですね~」

そう言ってから、ナタリーを促すように視線を上にあげた。ナタリーも集中して、上に意識を向ければ…確かに、衝撃音がし聞こえてきている。

「ほぉ、騒な音がし聞こえるほど…攻撃をしている者が…まったく、自分のをもっと大事にしてほしいですねえ」

宰相のおどけた聲が耳に聞こえてくる。そんな彼を睨みながらも、ナタリーはどうすればいいのかを逡巡し始める。

(エドワード様はけないわ…私が武力を出したところで…効くともおもえないし…)

全ての源は、あの杖にはめ込まれている石だということはわかっている。いるのだが…打開策が思いつかず、周りをキョロキョロと見渡す。

そうすると。

(あれは――ヒビ、かしら)

宰相が刺した杖にはめ込まれた石に、小さくだがひび割れがおきていたのだ。先ほど発したエドワードの魔法や外の攻撃が影響を與えているのだろうか。

それを見た瞬間、いくつかの出來事が頭をよぎる。剣舞祭で建に、魔力を注いだこと。そして、ペティグリューの先祖は意思に魔力をこめていたこと。また宰相が「が耐えきれないと壊れてしまう」という魔力の話をしたこと。

そこまで考えて、ナタリーはエドワードを橫たえて。スッと立ち上がる。

「おや?座りつかれましたかなぁ?」

「……」

茶化してくる宰相を無視して、杖の方へしっかりと歩みを進める。すると、宰相は「しつこいですねえ。あなたも挑戦したいのですか?」と半ば嘲笑しながら、見つめてきた。

宰相はナタリーが自分の脅威にはならないと…高を括っているようで。壁にもたれながら、にやにやと笑うばかり。

そんな中でも、自分を落ち著かせるように。ナタリーは深く息を吸って、吐き出す。そして、目の前の杖――特に石へ手を近づける。

(魔法は反するようだけど――魔力なら…っ!)

自分の魔力を石へ注ぎ込めば、特に弾かれているようにはじない。石にも特に変化は見られず――それを見た宰相が、「諦めも肝心ですよ?」と言ってくる。

そうした彼の聲を耳にれず、ナタリーはありったけの魔力をこの石に注ぎ始める。

「まったく…聞こえていないようですね…はあ、裝置の準備完了が待ち遠しいですね…お、もうあと數分のようですよ…楽しみですねえ」

(急がないと―――っ!)

宰相はどうしてもナタリーを挫きたいのか、嫌なことばかりを言う。しかし、ここで諦めれば…それは様々な犠牲を容認することになる。

(お父様、お母様、ミーナ、國の人々…それに閣下の質…)

犠牲を生みたくない、しかも聞きたいことだって山ほどあるのだ。ここで、終わるわけにはいかない。

「ううっ…お願い…!」

自分の全力を込めて、剣舞祭の時以上に魔力を石へ注ぎ込む。そうして力を込めれば、だんだん頭の中…そして手から白いれ出し始めた。

「なっ、そ、それは――」

宰相がぎょっとした聲をらした瞬間――ピキピキと石が割れ始める音が響き。

――パキンッ

い金屬を割った衝撃とともに、ナタリーがれていた石は。ナタリーの手から離れるように、砕け散ったのだった。

「ふ、ふぅ…」

「そ、そんな…ペティグリューの石が…というか、お前のそのは――」

「これでもう、終わり…ですわよ…」

「ああ、長年の夢が…ああ…もう…」

宰相が肩を震わしたのち。打ちひしがれ、顔を下に向け――また顔を上げれば。

「終わるとおもいましたかぁ?」

「え――?」

「杖はあくまで反をする力を付與しているだけ。口は相変わらず、魔法を阻んでいるのをお忘れのようだ」

「そん、そんなこと…」

宰相の殘忍な笑顔がそこにあった。茶化して余裕綽々な宰相を打ち負かすために――石の効力が無くなれば、どうにかなると思っていたのに。

(もうどうにも、ならない…なんて…)

剣舞祭と続けて、魔力の大半を思いっきり出した影響で――がふらつく。頭も酸欠狀態のようで、うまく回らない。へなへなとを支えていた力が無くなり、地面に座り込んでしまう。

(でも、まだ…まだ…何か)

ない力を振り絞って、こちらを見てあざ笑う宰相に手を向けようと――かしたその瞬間。

「さて――もうそろそろ、準備が――っ!?」

――ドゴオォォオオン

「…え?」

宰相が背を向けていた壁が――ド派手に吹き飛ぶ。そしてその衝撃をけて、宰相も反対側へ吹き飛ばされてしまう。

圧倒的な力を出した…その方向に目を向ければ。

漆黒の鎧に、夜を想起する艶やかな髪――が今は、れていて。

瞳は寶石のルビーを思わせる…赤い輝きを放っている。

「ナタリー!大丈夫か!?」

必死に聲をあげ、こちらにやってきた…その人は。

――漆黒の騎士ユリウス・ファングレーだった。

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