《【完結】「死んでみろ」と言われたので死にました。【書籍化・コミカライズ】》71

フランツとナタリーの間に沈黙が落ちる。それは、言葉を上手く呑み込めないような――重い空気で。

「き、けん……ですか?」

「ああ……」

力を振り絞って、ナタリーは口をかす。すると、フランツもその言葉に応えるように言葉を紡ぎ始めた。

「たしか前に、公爵様が起きんかった時があったじゃろう?」

「え、ええ」

「その時にな。公爵様の魔力暴走に関して――魔力量を検査してたんじゃ……まあ、いつも定期的にやっとることだから、そう変わったことではないんじゃが」

フランツが話す容に、しっかりと耳を傾ける。そして、思い出すのは戦爭時に……ナタリーとお父様を助けるために。敵から攻撃をけ、倒れてしまったユリウスの姿。

(でもたしか、あの時は。私の魔法で、傷が塞がって――)

ナタリーがフランツを見つめれば。フランツもまた、ナタリーが何を考えているのか分かったようで。

「そうじゃな、あの時は……ナタリー嬢のおかげで、公爵様の魔力も落ち著いていたんじゃ」

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「……そうなのですね」

「うむ……しかし一時的にといったじでな」

フランツが言うには、魔力検査でいつも大幅に記録される數値が減っていたとのことだった。しかし、魔力暴走の発端であるファングレーの魔力がまるっと消えたわけでもないらしく。

「結局、今のように……暴走することになってしまったんじゃ」

「……」

「じゃがな、一つ分かったことがあってのぅ」

話を切り替えるように、フランツが口を開く。

「公爵様の魔力がな……部分的に、変わったんじゃ」

「かわ、った……?」

「ああ、それも……検査をした時にみた――ナタリー嬢の魔力と混ざったものに変わっていたんじゃ」

フランツの話を聞き、ナタリーはハッとする。それは、つまり――。

「先ほど言った、公爵様を治す方法に戻るとしようか。それはの……ナタリー嬢が、公爵様が持つ魔力に自分の魔力を混ぜればいいんじゃ」

「……っ!それなら――!」

はじめフランツは、ナタリーのに悪影響が出るかもしれないと言っていたが。自分の魔力をユリウスに送ること。つまり、癒しの魔法を使うのであれば。いつも通りに、慣れたことなので――全く問題がないと答えようとした時。

「しかし――今の公爵様は、完全に暴走したと聞いておる。ナタリー嬢が、魔法を……魔力を使ったとしても」

より一層厳しい顔つきになったフランツは。

「ナタリー嬢の魔力が無くなる――もしくは、命に関わる負傷を負うかもしれないんじゃ」

「そ、れは――」

「厳しいことを言うんじゃがな、この可能は……魔力暴走はじまりのころならまだしも……今はとても高い」

魔力がなくなるというのは、すなわち魔法が使えなくなることと同義で。なにより、魔力が無くなったあと、使われるのは自分の命。剣舞祭の違反者と同じく、生命力を使用することに繋がるのかもしれない。

今まで、魔力を完全に出し切り――その後、またさらに使おうとする事例は聞いたことがない。ナタリーの先祖すら、魔力を使い切るだけだったのだ。

そんな誰も踏み込んだことのない方法を試すのは――。

「悪いことは言わん……公爵様のことは忘れて。ナタリー嬢は、平穏な生活に戻ったほうがいい」

「……え?」

「公爵様の國・セントシュバルツでは、家を取り潰し――もう屋敷すら撤去されたと聞く……ナタリー嬢は何も悪くないんじゃ……時期が、運が悪かっただけで」

フランツはまるで、子どもをあやすように。諭すように、ナタリーに優しく語りかける。その言葉は、お父様と一緒で――本當に、ナタリーのことを気遣うもので。

「公爵様もな……ナタリー嬢に幸せに暮らしてほしいと言ってたんじゃ」

「閣下が……?」

「ああ、剣舞祭の頃じゃったかな。質のことで、今話した容と同じことを説明したんじゃが、ナタリー嬢に危険が及ぶのは嫌だとな……」

「……」

フランツの言葉を聞いたのち、ナタリーは自分の手に力を込め。きゅっと握る。

「フランツ様」

「なんじゃ?」

「閣下の質を治す方法……可能はゼロではない、で合っていますか?」

「ああ、そ、そうじゃが……」

ナタリーの言葉に、フランツは不意を突かれたようで。驚いている様子が分かった。そんなフランツに笑顔を向けて。

「私、閣下のもとへ行こうと思いますわ」

「ほぅ?」

「可能がゼロではないこともそうですし――會って話したいこともあるんですの」

「……そうか」

フランツは眩しいものを見るように、目を細めたのち。「ナタリー嬢が決めたのなら、それが一番じゃ」とゆっくりと頷いた。

「ほっほっほ……公爵様が、うらやましいのう……」

「え?」

「いや、なんでもじゃ。ああ、そういえば――公爵様のもとへ行くとは言っていたが……場所はわかっているんかの?」

「はい……王城にいらっしゃる、と。ただ……」

ナタリーが言葉を言い切らずにれば、フランツが察したように。「ああ、今じゃと――制限をかけているようじゃの……実質、封鎖しとるといったところかのう……うぅむ」と頭に手を當て――悩んでいる様子が伝わる。

「しかも。ここからじゃと……馬車でも時間がかかるからのう……」

「そう、ですわね」

「じゃが、わしはエドワード様のように瞬間移の魔法は使えんからのう……」

フランツが「困った」と言いながら、何か手立てはないものかと。ぐるっと部屋を見渡したのち。カーテンに目を留まらせていた。

「ほっ!そうじゃったわ」

「フランツ様……?」

「ついのう……忘れてしもうていたんじゃが」

フランツは何かを見つけたかのように。立ち上がり、カーテンで閉め切られている場所へ、ずんずんと歩いていく。

(あのカーテンの先は……確か、エドワード様が寢ていた……ベッドがある場所?)

ナタリーは、フランツの行を見守るように。視線を向けていれば。フランツはカーテンに手をかけ、勢いよく。

――シャッ

「ほれっ!起きんかいっ!」

「うっ……」

「え?」

「まったく。上がいないとすぐ、怠けるからのう……」

「うぅ……なんだよ、じいちゃん。ちょうど休憩の時間なんだから……ってか、俺は、さえいれば、怠けたりなんか……ってあれ?」

フランツが開けたカーテンの先には、見覚えのある軽薄そうな――甘いマスクをした男。ユリウスとよく一緒に騎士団にいた――。

「マルク様……?」

「麗しのご令嬢っ!?」

ナタリーも驚いたが、それ以上に。素っ頓狂な聲をあげながら、マルクは盛大に驚いていた――。

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