《【完結】「死んでみろ」と言われたので死にました。【書籍化・コミカライズ】》73
マルクが馬を走らせる中。
ナタリーは、馬車の時よりも素早く変わっていく景をちらりと確認しながら。が落ちないようにしっかりと鞍のでっぱりを摑む。
「ナタリー様、大丈夫?」
「え、ええ。マルク様もお休みの最中でしたのに……本當にありがとうございます」
「あ、ううん!それは全然!」
一瞬、休みという言葉に焦った聲が聞こえてきたが……。どうかしたのかと、ナタリーが返事をする前に。
「ねえ、ナタリー様」
「は、はい」
「ユリウスって、騎士としてはスマートに振舞ってるけど……めっちゃ不用なんだよね」
そう話すマルクの聲はとても、弾んでいて。「前なんてさ、隊服を著ようとしてボタンをかけ間違えたこともあるんだぜ?」と話す。
「まあ、それは本當ですか?」
「うん、間違いないよ。俺はユリウスの失態を絶対忘れないからね!」
「そ、それは……」
「たしか、あの時は――ナタリー様が綺麗だとお話ししていたら……急に固まったようにかなくなって……そのままボタンをかけ間違えたんだよ」
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マルクはクツクツと小さく笑い。本當に楽し気だ。ナタリーはその話を聞いて、なんだか自分が関わってユリウスが失態を犯してしまったようにもじ。しいたたまれなかった。
「でもそういった面白さだけじゃなくてさ、意外と団員を気遣うっていうか――稽古で悩んでいる奴がいると……遅くまで殘ってアドバイスしてあげたりさ」
「……」
「俺がいくら軽口を叩いても――なんだかんだ構ってくれるしさ……たまにスルーされてる気もするけど……へへ」
ユリウスのこととなると、口が止まらないようで。マルクは、馬を――おそらく魔法もかけながら、素早く走らせつつ。騎士団やプライベートの話をしてくれた。
「まあ、何が言いたいかっていうと――あいつ不用だけどさ……優しいところがあるんだよね」
「……そうですわね」
「え?」
「閣下は、見えづらいですが――確かに、優しい方だと。私も思いますの」
ナタリーがはっきりとそう言えば。マルクは、落ち著いた聲で「そっか……」と答え。
「ナタリー様がそう言ってくれて、俺……ユリウスじゃないけどさ。嬉しいよ」
「ふふ……マルク様は閣下のことが好きなのですね」
「す、好きって……まあ、あいつ以上の頼れる友はいない、かな。本人には恥ずかしくて、言えないんだけどね」
おどけた調子で話しながらも。マルクの聲は、やはり嬉しそうに聞こえた。それくらい長い付き合いであり、絆があるのだろう。
「ほら、喋っているうちに……王城が見えて來たね」
「……っですね」
マルクが走らせた馬は、ナタリーが想像するよりも數倍早く走っていたようだ。気づけば、あっという間についていて。漆黒の騎士団ゆえの―ー優秀な人材のなせる業なのかもしれないが。ナタリーは驚き、王城を見て息を呑んだ。
(ここに、閣下が……)
そう構えている間。マルクは、いつものような所作で馬を走らせ。城の廄舎に近づいて――馬を止まらせ自分が降り。ナタリーも馬から降ろしてくれた。
そして、すぐに馬を廄舎にれたのち。
「口はあっちだね――行こうか」
「は、はい」
マルクの案で、城の正門へと近づいていく。歩みに無駄がなく、漆黒の騎士団として何度も通っているためなのか。ナタリーよりも良く道を知っているようだった。
「止まってくださいっ!」
「現在、城は制限をしております、何の用でしょうか」
城門を守っているのであろう――二人の騎士が、聲を上げた。そしてマルクを見て、「漆黒の騎士団の方であっても、城はじられております」と、そう言った。
「あ~~その、用がね~~あるんだ」
「……」
「それも殿下と、ね。だから通してくれないかな?」
(え?マルク様、エドワード様と何かお話に……?)
マルクが言ったことに、ナタリーは疑問を覚えた。それは、騎士たちも同じようで。「信じられんっ!」と一蹴している。
(どうしましょう……これでは、れませんわ……)
今は騎士とやり取りができるが、それもいつまでできるか分からない。あまり不信を煽れば、追い出されそうだし。いっそのこと、マルクが言うように、と。ナタリーの頭の中ではポーチにっているペンダントを見せて――そのことで話があると説得するべきか。そう悩んでいれば。
「まあ、まあ……エドワードからは話を聞いていないかもだけれども」
「貴様っ!」
「これで納得してくれないかな?」
マルクは懐に手を突っ込んで、ナタリーのポーチにっているペンダントと似たものを取り出していた。騎士たちははじめ「不敬だぞ」と言い募ってきていたのだが。
「こ、これは……」
急に押し黙り。マルクが出したそれを凝視している。
(一瞬、エドワード様を呼び捨てにしていたような気がするけども……本當に、仲が良いのかしら?)
マルクの後ろから見守る中、ナタリーからは見えない位置で二人の騎士は手をぶるぶると震わせていた。目に映るのは、黃金のペンダントにある熊の絵柄。騎士たちの脳には、“同盟國の王族”がちらついて。
「こ、これは~失禮しました~」
「ええ、ええ。僕ら何かを勘違いしていたようですね。ささっ」
「え?」
「いや~五番目でも役に立つんだね」
「へ?」
ナタリーは急な騎士たちの変化に頭が追い付かず。疑問がやまない――そんなナタリーの視線が騎士たちに行っている中で、さっと素早く。マルクは取り出していたペンダントをしまっていた。
「彼も、俺の友人だから。問題ないよね?」
「も、もちろんです~!」
「マルク様、ほ、ほんとうに……エドワード様にご用事が?」
ナタリーが聲を潛めて、マルクにそう尋ねれば。マルクはウィンクを返してきて――。
(そうだ、という……こと?)
たぶん違うのだが――ナタリーは、そうなのだと解釈をした。そしてマルクは、「あ」と聲を出し――。
「そうそう、今ってまだ……忙しいんだっけ?別室で待とうと思うんだけど――」
「ええ、左様でございます。玉座の反対側の道――封の間にはお立ちりなさらぬよう」
「わかったよぉ」
「もうすぐ、案の者が來ますので――」
「いや、大丈夫!もう、慣れているからさ――むしろ、案されると気疲れしちゃうというか」
騎士の気遣いに、マルクはビクッと反応をしながらも。想笑いを浮かべて、案を斷っていた。その様子に、騎士二人はキョトンとしていたが。マルクがそう言うなら……そうなのだろうと納得したようで。
「門が開きましたので、どうぞおりください」
「うん。ありがとうね……ナタリー嬢、行こうか」
「え、ええ。ありがとうございますわ」
騎士に挨拶をしたのち、マルクとナタリーは城の中へと歩みを進めた。マルクは本當に慣れた足取りで城を闊歩し――ナタリーを案してくれる。しかも、細い廊下というか――あまり人気のない廊下を選んで歩いているようなのだ。
(漆黒の騎士団員は、みな王城の間取りを知っているのかしら?)
こんなに広い王城を迷いなく進むなんて。そう疑問に思いつつも。今、一番……頭に思い浮かんだのは――。
「マルク様、今……どこへ向かわれていますの?」
「あ~言ってなかったね。ごめん」
「いえ」
ナタリーの疑問に答えるように……ナタリーの方にまず視線を向けてから。マルクは――し聲を小さくして。「封の間――だよ」と言った。
「え?」
「そこに……ユリウスがいる」
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