《【完結】「死んでみろ」と言われたので死にました。【書籍化・コミカライズ】》76

お待たせしました……!!!本當にお待たせしてしまい申し訳ございません(土下座)

「なぜ、ですか……?」

エドワードに止められたナタリーの聲は、上ずり……震えていた。そんなナタリーの様子を見て、一瞬、眉を八の字にしたかと思うと――エドワードは再び淡々としながらも、切なげに話し始める。

「ナタリー、この先は……もうどうにもできない――君が死んでしまうような危険があるんだ」

「……っ」

「もちろん、僕らを助けてくれた公爵を何とかしたい気持ちはわかる……が。僕はそのために君が――君が危険な目に遭ってほしくないんだ。どうか……」

エドワードは絞り出す聲でナタリーに語り掛ける。

「分かってくれないか……」

新緑の瞳はいつにもまして、真剣さを帯び……ナタリーの瞳と視線が合う。エドワードがナタリーのを深く案じていることは、聲からもそして瞳からもよく伝わってきたのだ。二人の間に沈黙がし続いたのち、エドワードが再び口を開き。

Advertisement

「僕は……君のお節介な部分をとても好ましいと思う――しかし、それ以上に……そのために君自がいなくなってしまうことに、耐えられない」

「エド、ワード様……」

「ナタリー……僕は、君のことをしているんだ。この國で共に……生きてくれないか」

ナタリーにそう告げるエドワードは以前の告白とは違い、艶やかさよりも燃えるような熱が彼の聲から伝わってきた。そこには切迫したものがあり、痛いほど彼の真摯な思いがじられたのだ。ここまで深く思ってくれる彼となら――。

(きっと、妻になったとしても……支えてしてくださるわ)

エドワードの思いに応え、ここで彼と一緒になれば……どんな困難があろうとも、乗り越えられそうな気がする。これはお世辭ではなく、今までの彼の行や言――そして、一途な姿勢から、以前の生で実した冷たい結婚ではなく、明るく幸せな結婚が待っているのかもしれないと思ったのだ。

――けれど。

「エドワード様……」

「なんだい?」

「私、お節介でここに來たわけじゃないんですの」

「……え?」

ずっとに引っかかっていた思い――そう、ナタリーはユリウスに助けられたから恩返しにだとか、人の命の尊さで……という、綺麗な理由だけでここに來たわけではないのだ。

(私は、閣下と話せなくなるのは嫌だと思った……なにより)

ナタリーはエドワードに向き直り呼吸を整えると、しっかりと彼の瞳を見據える。そして、自分の思いをはっきりと認識したように、口をゆっくりと開けた。

「これは、私の……わがまま、なんです」

「わが、まま……?」

「ええ、どうしても、譲れない気持ちというのでしょうか。損得とか、道徳とか……冷靜なものじゃなくて、居ても立っても居られない……そんな気持ちなんです」

「それは……」

エドワードが、ナタリーに対して苦し気に眉間へ力をれ始める。そして「その気持ちは、本當に考えて――周りが見えていないのなら、余計に……君は先へ行くことで、後悔してしまうことになるかもしれない」と、言い募るようにナタリーへ語り掛けてきた。

「そうかもしれませんわね」

「なら……やはり先には――」

「でも、行かなかったら一生後悔すると思いますの」

「……え?」

「きっと、ここで死んだほうがましってくらいの後悔ですわ」

ナタリーの言葉にエドワードは、目をまん丸にして視線を向ける。いったいナタリーが何を言わんとしているのかを見定めるように、そしてし呆気に取られるように。そんなエドワードの様子に、ナタリーはらかく微笑みを浮かべながら言葉を紡いだ。そしてゆったりとエドワードの方へ、ナタリーは歩みを向ける。

「エドワード様、私を思ってくださり……本當にありがとうございます」

「……ナタリー」

コツコツと靴音を鳴らしながら、エドワードの數歩手前で止まった。そしてナタリーはポーチへと手をれ、目當てのを取り出せば――手の中には、獅子の模様がったペンダントが輝いている。それに視線をやったのち、すっとエドワードの方へ手を差し出し。

「私は……エドワード様の思いに応えることはできません。こちらのペンダントはお返ししますわ」

「……僕が、國王になる分だとしても――君の答えは変わらないかい?」

ナタリーがばした手を、エドワードはじっと見てから再びナタリーの方を見つめ、厳かにそう語り掛けてくる。彼に逆らうのは、不敬罪になってしまうのかもしれない――しかしそうした不安はすぐさま消え去り、ナタリーは瞳に力をれる。

「はい! もし、エドワード様が力づくで止めようとするなら……私も強引に先へ行かせていただきますわっ!」

「……」

エドワードに対し力強くそう言葉を発すれば、しの沈黙が場を包んだのち。

「……っく、ふふ……」

「エ、エドワード様……?」

重苦しい空気の中、それを破るように突然エドワードが笑い始めたのだった。そして、優雅な振る舞いでゆったりとペンダントを握るナタリーの手へと、自分の手を差し出す。

「っはぁ……完敗だよ。そうか、わがままなのか――それなら仕方ないね」

そして、エドワードは「ペンダントを貰うね」と聲をかけてきたので、ナタリーは促されるまま彼にペンダントを返す。すると輝かしいペンダントは、エドワードの手の中へ納まっていった。

「その、エドワード様……」

「惚れた弱みっていうのかな……僕に立ち向かう君も、しく思えてしまって――王子としてではなく、僕個人として君の願いを葉えたいと思ってしまうんだ――変かな?」

「……っ」

「ああ、こう言ってしまうと君を困らせてしまうね……そうだな、“友人として”君を応援させてくれないだろうか?」

「エドワード様……」

エドワードはペンダントをゆっくりと懐にしまったのち、笑顔のままナタリーに向き合う。そんな彼の姿に、しだけに申し訳なさが生まれるものの――ナタリーは、「私の行はけして、エドワード様の監督不行きではありませんわ。私の意志ですの」と言葉を告げた。

「ふふ、僕を思いやってくれてありがとう。大丈夫だよ、君の行で僕が不利になることはないし――君の家も、悪いことにはしない」

「そ、それは……」

「君にをした男の……最後のわがままだと思って、け取ってくれないかい?」

「……っエドワード様は、本當にお優しいのですね……本當に」

彼の言葉一つ一つが、ナタリーに対する気遣いが込められていて……だからこそ、ナタリーも心を込めて口角をらかくし、ありのままの笑顔を彼に向け「ありがとうございます」と言葉を紡いだ。

「……うん」

「エドワード様……?」

ナタリーにそう言葉を告げられたのち、一瞬エドワードは上を向いたが――すぐにナタリーの方へ視線を戻し。

「さて、僕は君に道を開けよう――先へは、一方通行だ。魔力が規定量以上ある場合、こちらへは戻って來られないよ……大丈夫かい?」

「はいっ! 問題ありませんわ! 私のやりたいことをしにいきますので……! けして、ただの無駄ではありませんわ!」

「そうか……君の前途にがあらんことを」

「ありがとうございます、エドワード様にもがあらんことを……! いってきますわ」

「いってらっしゃい」

そう言葉を告げ――ナタリーは先のへ……ずんずんと近づいていった。シャボン玉のようなそれに躊躇なく手を、そして足をのばし――先へと歩みを進めていく。

そうして――するりと、の中へナタリーの全り込み……真っ暗な靄によってがすっぽりと包み込まれてしまうのであった。

――封の間に殘されたのは、エドワードだけ。

ナタリーの様子を最後まで、エドワードはしっかりと目に焼き付けていた。最後の最後で、彼がこちらに戻ってきてくれのかもしれない――いや、彼はそんなことをしないと分かっていながらも、淡い期待を捨てられずにいたのだ。

「行ってしまった……か」

ぽつりとつぶやくエドワードの言葉に、返事はなく……シーンと靜けさに包まれていれば。

「お兄様~! マルクさんが獅子様とじゃれあっていて、大変に……お兄様?」

「フィルか……」

ナタリーがってきた扉の方から、慌てたようにこちらへかけてくる自分の弟の姿に気が付く。フィル・フリックシュタイン……エドワードの弟で、第三王子――現在は王位継承権が第二位になった。まだく、きっとこれから帝王學を勉強していく、可い弟だ。そんなフィルは、エドワードを心配そうに――窺うように見上げている。

「お兄様……大丈夫ですか……?」

「うん?」

「目が……」

「ああ……」

フィルがエドワードにそう言葉を告げれば、エドワードは合點がいったように自分の顔に手を添えて――「どうやら、城の中で……雨が降っているみたいだね」と呟いた。

「……おにい、さま」

「本當に、彼が……好きだったんだ。その、フィル、けないところをすまない……」

「……いいえ」

新緑の瞳を覆わんばかりに、大粒の滴がぽろぽろとエドワードの頬を伝っていた。そんな姿を隠すように――エドワードが片手で、自分の顔に手を當て目元を覆うように會話をしていれば、い弟は深く問い詰める様子はなく。そっと空いているエドワードの手に、自分の手を重ね――ゆっくりと握り、やさしく導する。

「お兄様、外はとてもお星さまが綺麗なのですよ……庭で一緒に見ませんか?」

「そう、か……それはいいね」

「はい! 僕の特等席に招待しますね! あっ、マルクさんは大変ながらも……無事、“影”が対応してくれているので、きっと大丈夫です!」

「そうか、ふふ……ありがとう、フィル」

エドワードは花が咲いたような笑みを向け、そしてフィルもそれに応えるように、笑みをほころばせている。そうして溫かく、優しい弟に連れられ、エドワードは封の間から出て行くことになるのであった。

    人が読んでいる<【完結】「死んでみろ」と言われたので死にました。【書籍化・コミカライズ】>
      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください