《【完結】「死んでみろ」と言われたので死にました。【書籍化・コミカライズ】》79

が飛んでいった方向に、顔を上げて見つめていれば――背後から、ユリウスの聲が聞こえてきた。

「おそらく、リアムは……生まれる前の時代だったから――君のへ戻るように宿っていたのかもしれない、な」

「……っ!そうなの、ですね」

ユリウスの聲に促されるように、彼の方へ視線を向ける。

彼の言葉を今一度、逡巡すれば――確かに、リアムはナタリーが生んだ子どもであるため、自分のに戻ってくるのは道理なのかもしれない。

(これも神の悪戯なの、かしら……?)

ナタリーやユリウスが、記憶を覚えていたように……その子どもであるリアムも、同じ狀態だったのではと理解する。

白いは、當時の――リアムの魔力がそのまま戻ったことにより……ナタリーが魔法を使う際、さらに力を増幅させてくれて。またファングレー家の墓地と同様、魔力が溢れる檻の中にいたことにより、リアム自が保てるようになったのではないのだろうか。

(リアムと再會するのは想定外だったわ――けれども)

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ナタリーは魔法の學者というわけではないので、確信的なことは分からずじまいだが――自分が今まで持っていた心のしこりがし、軽くなった気がした。

それに加えて、おそらくリアムのものだった魔力が減ってしまった覚もしていて。

自分自の魔力はあるものの、その喪失を理解して――ナタリーはにツキンと切ない痛みをじる。

(きっと、最後にリアムは――この空間を癒すために魔法を使ってくれたのよね)

現狀、最初の頃よりもだいぶきやすくなった。きっと、この空間から出るのなら――今が一番いいタイミングだろう。リアムが作ってくれたチャンスを無駄しないためにも、ナタリーはユリウスに聲をかけた。

「閣下、早くここから――」

「……君は、ここから逃げてくれ」

「……え?」

ナタリーの聲に一拍置いて、ユリウスが口をかした。一瞬、彼が何を言っているのかが分からず――確認するように、再び視線を合わせれば。

「リアムのおかげで、ここの魔力がだいぶ和らいだ――きっと今、來た道を戻れば……檻から出ることができる」

「何を言って……⁉ 私は、閣下を助けにっ……」

「……そうか。君の優しさには、謝してもしきれない――が、俺はここからけない」

「ど、どうして――」

さきほどリアムと一緒に、ユリウスを縛る拘束を解いたはずなのに。なぜ彼がけないのか、何より空間が和らいだのだから……彼のもよくなって――。

「も、もし立ち上がる力がないのであれば、私が力をお貸ししますから……っ」

そうナタリーが疑問にあふれた視線でユリウスを見れば、彼はナタリーに対して眉を下げたのち。上を起こしたままで、自の足に目を向けていた。それにつられるように、ナタリーもユリウスの足へ目を向けると。

「……っ!」

「……俺の魔力暴走は――まだ続いているようだ」

ナタリーは瞬きをするのも忘れてしまっていた。目に映りこんできたもの、それは。

ユリウスの足首から、まるで植のように……あの黒いよどみが再び生じている様子だった。一度消えたはずのものが、再び縄のような形狀になって――彼の足をしずつ縛り始めている。

じわじわと、彼のを拘束するように――足から上部へのぼってきていたのであった。

◆Side:ユリウス◆

殿下に別れを告げ、檻の中へれば――視界が段々と狹まっていくことが分かった。それに伴い――はじめは、奧へ行こうと歩き続けていたはずなのに、その足が石のようにけなくなってしまう覚。

そして気づけば辺りは真っ暗になり、淺くなる呼吸と共に、全にじくじくとした痛みをじ――そのまま抗えない圧力をけるかのように、い地面に倒れ込んでいた。

そして闇に溶け込むように、まぶたに力がらなくなり――俺は意識を手放した。

はずなのに――突然、全を襲っていた痛みが軽くなり……呼吸をとるべく、自が本能的に空気を勢いよく取り込む。その反によって、俺は意識が戻り――パッと目を開けば。

(これは、夢……なのか?)

ここにいるはずのないナタリーが側で座っていたのだ。しかも、隣にはぼんやりと白いに包まれている――自分の息子と思しきリアムもいて。

まさか、自分の都合のいい幻覚を見ているのかと……そう、考えていた。

しかし咳き込むのと同時に、はっきりと聞こえる彼の聲。そして、リアムの表を見て。

(本當に……ここに、いるというのか……?)

しかも彼が言った「助けに來た」という言葉を聞いて、大きく揺してしまう。彼が檻にるなんて、あってはいけないことなのに――ナタリーの優しさに、その振る舞いにどうしようもないを抱いた。

(どこまでも――彼の優しさに、そのしさに、俺がれていいわけがない)

ナタリーがリアムと話をしている中、息子の表を見る――その顔は、後悔に染まっていて……きっと、短剣で刺したときリアムもまた時戻りをしたのだろう。しかし、リアムはまだ存在しない時代なので、彼の魔力として還元されたのかもしれない。

短剣を使用したこと――このことは彼に伝えるわけにはいかない。

きっと知ってしまったら、優しい彼が傷ついてしまうから。そもそも全ては自分の罪なのだから。彼の笑顔を曇らせること、悲しませてしまうことを……俺はできない。

事実を知るのはリアムと俺だけで、ずっとめていこう――そう、思った時。ナタリーに抱きしめられ、の粒となって消えつつあるリアムと目が合った。

最後にわした別れ以降――息子に合わせる顔はない、と思い……ただナタリーの背後から見守っていたのだが。最後に見たリアムの表は、とても幸せそうで――……。

「リアム……」

俺は無意識のうちに、小さくそう呟いていた。記憶にあるのは、ずっと悲しみに暮れていたリアムの姿で――そんな彼の屈託のない笑顔を、初めて見たことで……思わず極まってしまったのだというのだろうか。

――リアム、俺は……彼を悲しませないよう、全力を盡くそう。

息子の表を見て、あらためてナタリーをここから逃がすべく思考を切り替える。一旦は和らいだものの――相変わらず、己のからは、制できない魔力暴走が再び始まっていることをじた。ここにいても、彼が傷つくだけで――きっとそれはリアムもんでいない。

ナタリーを過去の呪縛から解き放つこと。

リアムは彼と別れを告げられた――だから、俺も彼と別れを告げるべきなのだろう。彼は優しいから、魔力暴走という病を患った俺を見捨てられず……きっとここまで來てしまった。だから、彼を――彼の大切な人たちが待つ檻の外へ。

ナタリーと同じく、癒しの魔法を使ったリアムのおかげで、魔力暴走の余波が鎮まっている。俺自が再び、魔力暴走をしてしまう前に――彼を……。

ナタリーを逃がし、永遠の別れをする――そう考えた瞬間。ズキンと、己のがどうしようもない痛みを発し始める。きっとこれは魔力暴走などではなく――。

(……考えるな)

俺は、邪念を振り払うように奧歯を嚙み締める。決壊しそうなほど、ズキズキと痛みを主張してくるソレを頭の隅に追いやって――そうして、つとめて冷靜に聲を――ナタリーにかけたのだ。

「おそらく、リアムは……生まれる前の時代だったから――君のへ戻るように宿っていたのかもしれない、な」と。

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